それは土曜日の夕方、除草剤を撒いて汗まみれになり別棟の風呂に飛び込みシャワーを浴びた時始まった。最初は炎天下の熱気が冷め始めた夕方に除草剤散布を軽くやる積りだったが、庭の周りが終るとせめて家庭菜園もと、終には畑まで手を広げた。除草剤を入れたタンク4リットルを計3回往復して合計12リットルを散布したら汗だらけでへとへとになった。
汗にまみれた衣類をバスタブの横の洗濯機に放り込みシャワーを浴び、すっきりした身体で母屋に戻り食事を作ってテレビを見ながら夕食を頂いた。ここまではルーチンワークのように余り考えることもなく進み、食事が終一息ついたところで風呂場の洗濯機から衣類を取り出して異変に気が付いた。
洗濯物を干そうとしてズボンにゴツゴツしたものを感じ、ポケットを探ると哀れな姿の携帯だった。電源は切れていた。直ぐにバッテリーを抜いてテーブルに置いた。約3時間水に浸かっていた。間違いなく壊れたと思った。ドジッ、と思わず自分をののしった。「携帯が壊れた、急ぎの連絡は実家の固定電話に」とブログにアップした。家族や知人に知らせるのにはブログは便利だ。
携帯を復活するにはどうすれば良いか、ネットで調べ息子や娘にどうするのが良いかメールで教えを請うた。中古携帯を買ってROMを差し替える、この際安価なスマホを探して切り替える、等々。いずれにしてもショップに行って相談して決めると良いと助言してくれた。通信会社に勤めていた娘は、会社によって対応が異なる旨教えてくれたがあまり理解できなかった。
月曜午後に地元のドコモショップに行った。自動ドアが開くと前面にカウンターが連なり、若い女の子達が対応していた。銀行と違ってバックオフィスの奥行きがなく、若い男性が一人目立たない感じでいた。フロアーにやや年配の女性が歩き回り客とカウンターを差配していた。わっ、ハーレム状態だ(こういうこと言うから家族に嫌われる)。でも可愛い子に当らなかったのは残念。
対してくれた子は事情を話すとテキパキと対応してくれた。電話番号や名前などでIDチェックをしてパスワードを確認し、メモリーの内容を調べてまだ内容が正しいことを確認してCDに焼いてくれた。携帯を新品に換えると3.3万円、スマホは安価なモデルでもランニングコストが通話込みで4千円以上になることが分かり、中古品で対応するというと彼女は無理押ししなかった。好ましい。
最後にテスト用のバッテリーを装着して電源を入れると、何と立ち上げ画面が液晶表示された。生きてる!彼女は直ぐに電源を落とした。私も直ぐに電源を切ったほうが良い、正しい処置だと思った。まだ液晶に大きな水溜りが残ったままだったからだ。彼女は完全に乾燥させてから使ってみるといい、仮に動いても部品が錆びて劣化が早いかもしれないと助言してくれた。
彼女によれば携帯を洗濯したと相談に来るお客は多いが、復活する例は極めて稀、一時的にも動いたのは珍しいという。私は直ぐにバッテリーを抜いて干したというと、それが正しい処置だったと彼女は言った。慌てて電源ボタンを押すと壊れる可能性が高くなるという。そこまで聞いてCDの料金を払おうとすると無料だと聞き、礼を言って店を出た。彼女が感じよく可愛く見えた。私は対応する人が一生懸命にやってくれるように誘導する才能がある、なんちゃって。
それから毎日携帯を直射日光に当て乾燥させた。昨日、液晶ディスプレー内の水が蒸発してなくなった。念の為、今日1日さらに日干ししてスペアの電池を実装して電源を入れるといつものように立ち上げ画面が表示された。パスワードを初期化したとショップの彼女から聞いていたので再設定すると、その他の情報は全て残っていた。奇跡が起こった。■