新聞と世論の乖離
野田改造内閣を受けて主要新聞社は一斉に世論調査を実施した。下記のように野田内閣の支持率は横ばい、社会保障と税の一体改革としての消費増税は反対が上回り、先行き厳しい政権運営を予想させるものであった。
支持 不支持 消費税賛成 反対
日本経済新聞 37%(36%) 53%(53%) 42% 46%
朝日新聞 29%(31%) 47%(43%) 34% 57%
読売新聞 37%(42%) 51%(44%) 39% 55%
社会保障と税の一体改革に首相が政治生命を賭け、3主要新聞は強く支持しているが、世論は必ずしもそうではないことが鮮明になった。新聞と世論の意見の乖離は珍しい。購読者の過半数を占める新聞と異なる世論がどのようにして作られたのだろうか。世論形成プロセスがどう作用したのか、今後予想される政局から総選挙までにどう影響するか大変興味ある。
野党が世論にリードした?
政策を脇に置き政局中心に物事を考えれば、事前協議を拒否する野党の自公両党だが、今回の調査では支持されてない。かつて消費税10%を掲げて戦った自民党が今は反対している状況が評価されていない。仮に政権交代しても自民党が消費増税を唱えるのは国民を馬鹿にしている。
それでは政策論に立ち戻ると、消費増税はマニフェスト違反を主張する党内野党の小沢グループの動きが共感を得て、内閣支持率を低迷させたのだろうか。だが彼らの殆どは選挙に弱い若手の議員で、目先の選挙しか考えない反対と揶揄されており世論に影響力を与えたとは思えない。小沢氏本人は裁判中の身であり、むしろ影響力の低下が報じられている。
やっぱりテレビの影響か?
とすればもう一つのマスコミ、テレビが世論を形成したのだろうか。最近、消費増税を一体改革の一環と見てその是非を議論する報道が出て来たように感じていた。識者と視聴者が参加して時間をかけてじっくり議論させる特番を組んだNHK、専門家に欧州危機と日本の財政を比較させ消費増税の問題を考えさせる民放のニュース番組などである。一方的な賛否の垂れ流しではない。
だが、テレビ報道の大勢は新聞の危機感を共有していないようだ。例えば、今朝のニュース番組サンデーモーニング(TBS)では、司会者やコメンテーターの中で系列の毎日新聞の社説が主張するような危機感を示したのは大宅映子氏だけだった。コメンテーターの選定が偏っていると感じたが、冒頭の世論調査結果とより近い選定だとTBSは言うかもしれない。
危機感が共有されてない
私は一体改革支持派だから言う積もりではないが、ニュース番組に登場する人達は危機感が足りないように感じる。その危機感を共有すれば国民は賛成に回ると思う。最近でも大震災後の電力危機に対し、日本国民が整然と取り組んで乗り切り世界を驚かせたばかりだ。
私はまだ世論に切羽詰った危機感が無いのが、世論調査結果に現れたと感じる。危機感を持てないのは今迄のマスコミ、特に上記のようなテレビ報道の影響が大きいように感じる。欧州危機を自らに当てはめて考えるには複雑な抽象思考が必要だと思う。特別な場合を除き、白か黒かの単純な議論でないと世論は理解できない恐れがある。
民主主義の課題
しかし、単純に世論を非難出来ない。問題が具体的な形で現れて庶民が痛みを感じるまで、危機は理解されない、若しくは理解したくないというのは世界史上珍しいことではない。それどころか直近の出来事でも、リーマンショック時の財務長官だったポールソンは回顧録でこういっている。
「危機が訪れない限り困難で重要な動きは実現されない。・・・何年も前から大勢が警鐘を鳴らしても議会が改革法を成立させたのは間一髪のタイミングになってから・・・集団での意思決定プロセスを改善する道を探り出す必要が・・・」 もしかしたら民主主義の永遠の課題かもしれない。■