この8日、9日に、ALSOK杯第74期王将戦第5局が、群馬県深谷市で行われた(主催:日本将棋連盟、毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社)。
深谷駅は東京駅丸の内口の駅舎にそっくりである。それは、東京駅のレンガは、ここ深谷のレンガが使われていたことによる。深谷駅は一見の価値があると思う。
さて王将戦はここまで、藤井聡太王将3勝、永瀬拓矢九段1勝。永瀬九段は前局カド番をしのいだが、崖っぷちの状況は変わっていない。
ただ第4局と第5局の間に、永瀬九段は藤井名人への挑戦を決めた。これは殊のほか大きく、私が同じ立場だったら、「王将戦はまあいいか」と諦めてしまうところ。しかし永瀬九段にそんな気持ちは微塵もなく、一局でも多く藤井王将に教わりたい、というところだろう。
対局開始。先番の永瀬九段が飛車先の歩を突く。対して藤井王将が角道を開けた。私はその場面を見ておらず、仮に見たとしても「そんな手もあるかな」くらいの感想だったと思うのだが、将棋界はたいへんな騒ぎだったようだ。なにせ、藤井王将の公式戦後手番258局目にして、初手に角道を開けたのは初めてだったからだ。
立会人の藤井猛九段は声を上げそうになったらしいが、それ以上にびっくりしたのは永瀬九段である。まったく予期していない手が飛んできたから、呆然としたのは想像に難くない。そして、それまでの永瀬九段の研究が音を立てて崩れた。結果を知っているから書くわけではないが、この瞬間、本局の勝負はついたのであった。
永瀬九段は角道を開けたが、そこで藤井王将が飛車先の歩を突いたら、横歩取りになる。しかし藤井王将は角道を止める。これも作戦の一環である。
以下、双方慎重に時間を使い、陣形整備にとりかかる。いや、これが本来のタイトル戦だと思う。
増田康宏八段との棋王戦もそうだが、挑戦者は中盤まで時間をまったく使わないので、タイトル戦特有の重厚感を感じない。個人的には、それはどうかと思うわけである。だから、藤井王将の作戦の副産物ではあるが、このまったりした進行は、私は満足だった。
2日目に入り、藤井王将の初手は、金を三段目に上がる手だった。これは大方の意表を衝いたらしいが、藤井王将が指したのだから、これが正着。そして空いたマス目に玉を据えた。いわゆる中住まいで、対局場の旧渋沢邸「中ん家」にちなんだわけではないだろうが、藤井王将はこの地点に玉を置くのが好きだ。
対して永瀬九段は金銀四枚でがっちり固めるが、進展性がないようにも思える。事実、58手目に藤井王将が飛車を2筋に転回したところでは、藤井王将大優勢に見えた。
実は、大野八一雄七段との指導対局で、私はこの形をよく食らっている。飛車先の歩を交換したのを逆用された形で、下手が勝ったことがない。
永瀬九段は左金を出動させぎりぎり受けたが、後手からすれば、その金を狙えば自然に勝ちになる。
しかし永瀬九段も全力で受けに回り、簡単に土俵を割らない。否、1筋は破っているし、永瀬九段にもじゅうぶん楽しみがある局面に思えた。
というところで、藤井王将が7筋の歩を突いたのが、私にはまったく浮かばなかった好手(たぶん)。
なるほど、ここと思えばまたあちら、か。藤井王将の指し手は本当に勉強になる。この歳で勉強になってもしょうがないが。
永瀬九段、飛車取りに金を打つ。これには藤井王将が利かせるだけ利かせて、敵の金とバッサリ刺し違えた。
これが藤井王将の得意技で、この類の手が出たら、100%藤井王将の勝ちである。
続く歩の連打で、永瀬九段投了。飛車取りに打った金が取り残され、痛々しかった。
この両雄は来月からの名人戦でも激突するわけだが、もし佐藤天彦九段が名人戦に登場していたら、本局は2手目に藤井王将が角道を開けていただろうか。もうちょっと温めていたと思うのである。
いっぽう永瀬九段としては、2手目にこの手があることで、対策量が膨大になってしまった。これは永瀬九段にとって、小さくないディスアドバンテージとなる。
藤井王将は会心の勝利で、王将4連覇。通算タイトルは28期となり、谷川浩司十七世名人の27期を抜き、単独5位となった。まったく信じられないスピードだが、ただ昨年のこの時期では、1年後に谷川十七世名人の記録を抜くだろうと、ほとんどの将棋ファンが思っていた。
そして今年の秋には、通算タイトルが32期になり、23歳にして渡辺明九段の記録を抜くのだろう。
誰も藤井竜王・名人を止められないのか!? 誰か出てこい!!
深谷駅は東京駅丸の内口の駅舎にそっくりである。それは、東京駅のレンガは、ここ深谷のレンガが使われていたことによる。深谷駅は一見の価値があると思う。
さて王将戦はここまで、藤井聡太王将3勝、永瀬拓矢九段1勝。永瀬九段は前局カド番をしのいだが、崖っぷちの状況は変わっていない。
ただ第4局と第5局の間に、永瀬九段は藤井名人への挑戦を決めた。これは殊のほか大きく、私が同じ立場だったら、「王将戦はまあいいか」と諦めてしまうところ。しかし永瀬九段にそんな気持ちは微塵もなく、一局でも多く藤井王将に教わりたい、というところだろう。
対局開始。先番の永瀬九段が飛車先の歩を突く。対して藤井王将が角道を開けた。私はその場面を見ておらず、仮に見たとしても「そんな手もあるかな」くらいの感想だったと思うのだが、将棋界はたいへんな騒ぎだったようだ。なにせ、藤井王将の公式戦後手番258局目にして、初手に角道を開けたのは初めてだったからだ。
立会人の藤井猛九段は声を上げそうになったらしいが、それ以上にびっくりしたのは永瀬九段である。まったく予期していない手が飛んできたから、呆然としたのは想像に難くない。そして、それまでの永瀬九段の研究が音を立てて崩れた。結果を知っているから書くわけではないが、この瞬間、本局の勝負はついたのであった。
永瀬九段は角道を開けたが、そこで藤井王将が飛車先の歩を突いたら、横歩取りになる。しかし藤井王将は角道を止める。これも作戦の一環である。
以下、双方慎重に時間を使い、陣形整備にとりかかる。いや、これが本来のタイトル戦だと思う。
増田康宏八段との棋王戦もそうだが、挑戦者は中盤まで時間をまったく使わないので、タイトル戦特有の重厚感を感じない。個人的には、それはどうかと思うわけである。だから、藤井王将の作戦の副産物ではあるが、このまったりした進行は、私は満足だった。
2日目に入り、藤井王将の初手は、金を三段目に上がる手だった。これは大方の意表を衝いたらしいが、藤井王将が指したのだから、これが正着。そして空いたマス目に玉を据えた。いわゆる中住まいで、対局場の旧渋沢邸「中ん家」にちなんだわけではないだろうが、藤井王将はこの地点に玉を置くのが好きだ。
対して永瀬九段は金銀四枚でがっちり固めるが、進展性がないようにも思える。事実、58手目に藤井王将が飛車を2筋に転回したところでは、藤井王将大優勢に見えた。
実は、大野八一雄七段との指導対局で、私はこの形をよく食らっている。飛車先の歩を交換したのを逆用された形で、下手が勝ったことがない。
永瀬九段は左金を出動させぎりぎり受けたが、後手からすれば、その金を狙えば自然に勝ちになる。
しかし永瀬九段も全力で受けに回り、簡単に土俵を割らない。否、1筋は破っているし、永瀬九段にもじゅうぶん楽しみがある局面に思えた。
というところで、藤井王将が7筋の歩を突いたのが、私にはまったく浮かばなかった好手(たぶん)。
なるほど、ここと思えばまたあちら、か。藤井王将の指し手は本当に勉強になる。この歳で勉強になってもしょうがないが。
永瀬九段、飛車取りに金を打つ。これには藤井王将が利かせるだけ利かせて、敵の金とバッサリ刺し違えた。
これが藤井王将の得意技で、この類の手が出たら、100%藤井王将の勝ちである。
続く歩の連打で、永瀬九段投了。飛車取りに打った金が取り残され、痛々しかった。
この両雄は来月からの名人戦でも激突するわけだが、もし佐藤天彦九段が名人戦に登場していたら、本局は2手目に藤井王将が角道を開けていただろうか。もうちょっと温めていたと思うのである。
いっぽう永瀬九段としては、2手目にこの手があることで、対策量が膨大になってしまった。これは永瀬九段にとって、小さくないディスアドバンテージとなる。
藤井王将は会心の勝利で、王将4連覇。通算タイトルは28期となり、谷川浩司十七世名人の27期を抜き、単独5位となった。まったく信じられないスピードだが、ただ昨年のこの時期では、1年後に谷川十七世名人の記録を抜くだろうと、ほとんどの将棋ファンが思っていた。
そして今年の秋には、通算タイトルが32期になり、23歳にして渡辺明九段の記録を抜くのだろう。
誰も藤井竜王・名人を止められないのか!? 誰か出てこい!!