室谷由紀女流二段は、テレビやネットで拝見するのと同じ、目が眩むほどの美貌だ。装いはチェックの長袖シャツに紺系のスカートで、シャツの下はタートルネックを着こんでいる。初冬なので鉄壁の防御だ。できれば盛夏の私服を拝みたかったが、こればかりは仕方ない。
ほかの対局者の手合いは、私の左から飛車落ち、銀桂落ち、二枚落ち、香落ち。何と平手は私だけである。銀桂落ち、という変態的な手合いを所望したのはKur氏で、これは昔からやっている。「この間(渡部)愛ちゃんにこの手合いでボコボコにされました」。
今回は室谷女流二段が右側の銀桂を落とす。繰り返すが変則的で、室谷女流二段も困惑を隠しきれない。だがその表情がまた、たまらないのである。
香落ちの下手氏には、室谷女流二段が「私が先に指すことになりますけど、いいですか」と断っている。平手より香落ちを所望する下手は、実は手ごわい場合が多い。
第1図以下の指し手。▲4八銀△9四歩▲5六歩△9五歩▲2六歩△4二飛▲6六歩(第2図)
室谷女流二段の視線が戻ってきて、私は▲4八銀と指す。これが温めていた手。ここ、ふつうに▲2六歩だと、△5四歩▲2五歩△5二飛▲4八銀△5五歩となり、中央の位を張られておもしろくない。個人の見解はあろうが、私はこの展開は下手不利と見ている。そこで▲4八銀を先にし、将来の△5四歩には▲5六歩を可能にした。
室谷女流二段は9筋の歩を伸ばす。対穴熊には有効だろうが、私は中央志向なので、この手を緩手にできれば、下手が作戦勝ちにできると思った。
室内は暖房が入っているが、客は軽い興奮状態になるから、暑いくらいだ。
大野八一雄七段が「もう少し経ったら冷房にしましょう」と軽口を飛ばした。
カメラを手にしたW氏が撮影している。
「大沢さんやっぱりでかいなあ」
全体の対局風景を撮っているのだろうか。だが断言しよう。ブログの読者は、客の画像なんか見ない。必要なのは室谷女流二段のアップである。今日は大野七段ともども、室谷女流二段の専属カメラマンになるのがいいと思う。
室谷女流二段は四間飛車に振った。
第2図以下の指し手。△6二玉▲6八玉△7二銀▲7八玉△7一玉▲5八金右△3二銀▲6八銀△4四歩(第3図)
第2図の▲6六歩が私流で、いままで何度も出てきたが、角交換を拒否する手である。若干気合が悪いが、それ以上に上手の捌きを抑える意味がある。
角交換を拒めば、△2二飛からの逆棒銀もない。本譜は互いに玉を整備したあと△3二銀~△4四歩となったが、これは二昔前の将棋だ。すなわち自分の土俵に引っ張り込んだと思った。
次の一手も私流。
第3図以下の指し手。▲6五歩△4三銀▲5七銀右△5二金左▲6七銀△3五歩▲5五歩(第4図)
今日はたぶん室谷ファンの集まりだから、あちこちで私語が飛ぶと思ったが、意外に静かだ。室谷女流二段も時々何かをつぶやくが、私は将棋に集中しているので、ほとんど聞き取れない。
私は▲6五歩と再び角道を通した。美濃囲いの発展には△6四歩が不可欠だが、それを阻んだのだ。私は振り飛車も指すことがあるが、△6四歩が突けないと美濃囲いは相当息苦しい。
もう昔の将棋に戻っているので、私はもう、角交換を恐れない。上手がそれを狙うとすれば△4五歩の前に△3三角が必要で、下手は▲2五歩の一手を省略できるからトクだ。私の▲6六歩は一時の屈伏だったが、それは将来の▲6五歩を見ていたからといっても過言ではなかった。
室谷女流二段は△4三銀から△3五歩と突いた。これは大山康晴十五世名人が多用していた順で、先の△7二銀といい、室谷女流二段が大山十五世名人の将棋を勉強しているのがよく分かる。ただし大山十五世名人の将棋なら、私も多く並べており、少しは大山流が身についているはずだ。
私は▲5五歩と位を張った。再び角道が止まったのはウッカリしたが、何となく、室谷女流二段が嫌がるだろうと思った。
第4図以下の指し手。△1四歩▲5六銀左△3二飛▲2五歩△3四飛▲4六歩△3六歩▲同歩△同飛▲3七歩△3四飛▲6八金上△1三角(第5図)
室谷女流二段は△3二飛から△3四飛と石田流に組む。ここまで上手の指し手は大人しく、私は落ち着いて対処している。現在私を取りまく環境は人生最悪、もう将棋どころではないのだが、逆に考えればだからこそ、将棋にしか集中できない状況ともいえる。
室谷女流二段は3筋の歩を換えたが、私はその前に△3四飛と浮かせているので、不満はない。
△1三角には少し迷った。
第5図以下の指し手。▲4七金△3三桂▲1六歩△1二香▲3六歩(第6図)
私は▲4七金と上がった。形は▲6七金右なのだが、上手の飛角(桂)が攻撃態勢にあるので、現状では支えきれないと見た。それに下手は、もう抑え込みに入っているのだ。
△1二香には▲3六金から▲2六金も考えたが、ちょっと筋悪だと思った。それで▲3六歩と突いたのだが、室谷女流二段は盤面を一瞥し、次の手をノータイムで指した。
(つづく)
ほかの対局者の手合いは、私の左から飛車落ち、銀桂落ち、二枚落ち、香落ち。何と平手は私だけである。銀桂落ち、という変態的な手合いを所望したのはKur氏で、これは昔からやっている。「この間(渡部)愛ちゃんにこの手合いでボコボコにされました」。
今回は室谷女流二段が右側の銀桂を落とす。繰り返すが変則的で、室谷女流二段も困惑を隠しきれない。だがその表情がまた、たまらないのである。
香落ちの下手氏には、室谷女流二段が「私が先に指すことになりますけど、いいですか」と断っている。平手より香落ちを所望する下手は、実は手ごわい場合が多い。
第1図以下の指し手。▲4八銀△9四歩▲5六歩△9五歩▲2六歩△4二飛▲6六歩(第2図)
室谷女流二段の視線が戻ってきて、私は▲4八銀と指す。これが温めていた手。ここ、ふつうに▲2六歩だと、△5四歩▲2五歩△5二飛▲4八銀△5五歩となり、中央の位を張られておもしろくない。個人の見解はあろうが、私はこの展開は下手不利と見ている。そこで▲4八銀を先にし、将来の△5四歩には▲5六歩を可能にした。
室谷女流二段は9筋の歩を伸ばす。対穴熊には有効だろうが、私は中央志向なので、この手を緩手にできれば、下手が作戦勝ちにできると思った。
室内は暖房が入っているが、客は軽い興奮状態になるから、暑いくらいだ。
大野八一雄七段が「もう少し経ったら冷房にしましょう」と軽口を飛ばした。
カメラを手にしたW氏が撮影している。
「大沢さんやっぱりでかいなあ」
全体の対局風景を撮っているのだろうか。だが断言しよう。ブログの読者は、客の画像なんか見ない。必要なのは室谷女流二段のアップである。今日は大野七段ともども、室谷女流二段の専属カメラマンになるのがいいと思う。
室谷女流二段は四間飛車に振った。
第2図以下の指し手。△6二玉▲6八玉△7二銀▲7八玉△7一玉▲5八金右△3二銀▲6八銀△4四歩(第3図)
第2図の▲6六歩が私流で、いままで何度も出てきたが、角交換を拒否する手である。若干気合が悪いが、それ以上に上手の捌きを抑える意味がある。
角交換を拒めば、△2二飛からの逆棒銀もない。本譜は互いに玉を整備したあと△3二銀~△4四歩となったが、これは二昔前の将棋だ。すなわち自分の土俵に引っ張り込んだと思った。
次の一手も私流。
第3図以下の指し手。▲6五歩△4三銀▲5七銀右△5二金左▲6七銀△3五歩▲5五歩(第4図)
今日はたぶん室谷ファンの集まりだから、あちこちで私語が飛ぶと思ったが、意外に静かだ。室谷女流二段も時々何かをつぶやくが、私は将棋に集中しているので、ほとんど聞き取れない。
私は▲6五歩と再び角道を通した。美濃囲いの発展には△6四歩が不可欠だが、それを阻んだのだ。私は振り飛車も指すことがあるが、△6四歩が突けないと美濃囲いは相当息苦しい。
もう昔の将棋に戻っているので、私はもう、角交換を恐れない。上手がそれを狙うとすれば△4五歩の前に△3三角が必要で、下手は▲2五歩の一手を省略できるからトクだ。私の▲6六歩は一時の屈伏だったが、それは将来の▲6五歩を見ていたからといっても過言ではなかった。
室谷女流二段は△4三銀から△3五歩と突いた。これは大山康晴十五世名人が多用していた順で、先の△7二銀といい、室谷女流二段が大山十五世名人の将棋を勉強しているのがよく分かる。ただし大山十五世名人の将棋なら、私も多く並べており、少しは大山流が身についているはずだ。
私は▲5五歩と位を張った。再び角道が止まったのはウッカリしたが、何となく、室谷女流二段が嫌がるだろうと思った。
第4図以下の指し手。△1四歩▲5六銀左△3二飛▲2五歩△3四飛▲4六歩△3六歩▲同歩△同飛▲3七歩△3四飛▲6八金上△1三角(第5図)
室谷女流二段は△3二飛から△3四飛と石田流に組む。ここまで上手の指し手は大人しく、私は落ち着いて対処している。現在私を取りまく環境は人生最悪、もう将棋どころではないのだが、逆に考えればだからこそ、将棋にしか集中できない状況ともいえる。
室谷女流二段は3筋の歩を換えたが、私はその前に△3四飛と浮かせているので、不満はない。
△1三角には少し迷った。
第5図以下の指し手。▲4七金△3三桂▲1六歩△1二香▲3六歩(第6図)
私は▲4七金と上がった。形は▲6七金右なのだが、上手の飛角(桂)が攻撃態勢にあるので、現状では支えきれないと見た。それに下手は、もう抑え込みに入っているのだ。
△1二香には▲3六金から▲2六金も考えたが、ちょっと筋悪だと思った。それで▲3六歩と突いたのだが、室谷女流二段は盤面を一瞥し、次の手をノータイムで指した。
(つづく)