おはようございます。ヒューマン・ギルドの岩井俊憲です。
H.オーグラー著『アドラー心理学入門』シリーズ、今回は第11回目です。
まずは、劣等性、劣等感、劣等コンプレックスについて定義をしておきます。
最もわかりやすい定義は、『アドラー心理学教科書』(ヒューマン・ギルド出版部)にある定義です。
劣等性・・・・・生活上不利に機能する客観的な属性
劣等感・・・・・主観的に、自分の何らかの属性を劣等であると感じること。主観的な感覚。
劣等コンプレックス・・・・・ライフ・タスク(人生の課題)への対処を避ける口実として劣等感を使うこと
ところで、今回のテーマは、劣等コンプレックスの3つの源泉 ― 器官劣等性、甘やかし、無視 ― のうちの器官劣等性をテーマにします。
H.オーグラー著『アドラー心理学入門』では、アドラーの著書『器官劣等性とその心理的補償に関する研究』をもとに器官劣等性について14ページを割いています。
アドラーがこしらえた「器官劣等性」という概念は、「形態的な障害のみならず、機能的な障害もまた、病気あるいはその異常な経過の原因になる」と推定し、「この種の損傷あるいは欠陥のすべて」に及びます。
アドラーは、器官に劣等性がある場合、同じ器官あるいは他の器官がその機能的な障害を補償することだけに留まらず、器官劣等性の補償が心にも起こりうることを洞察しました。
つまり、器官劣等性と心的経験の間には、緊密なつながりがあることを全体性と統一性の見地から、人を観察した結果、おびただしい症例をもって指摘したのです。
この本では、器官劣等性を心の側面から補償した例として、次のような人たちをあげています。
文学者・・・・・ホーマー(盲目)、ミルトン(失明)、ゲーテ(耳の過敏性と長患いの後の強いめまい感)
音楽家・・・・・ベートーヴェン(耳硬化症)、スメタナ(聾)、ロベルト・フランツ(聾)
政治家(雄弁家)・・・・・デモステネス(どもり)
さらには、この本では、「劣等性が有害な結果をもたらすか否かを決定するのはライフ・スタイルである」とし、この項の最後で次のように書いています。
やや長いのですが、引用しておきます。
ここでわかることは、我々が何を携えてこの世に生まれてくるかということは、そんなに重要ではなくて、携えてきたものをどう使用するかが重要だ、ということである。
ある器官劣等性が劣等感を強め、個人の全態度に影響を及ぼして劣等コンプレックスを引き起こしうるということ、あるいは、芸術家や大人物で示されるように、器官劣等性が補償されて、最高の業績に導かれるということを、我々はどのように説明することができようか?
アドラーの意見はこうである。それはことごとく、他の人々に対する関心がいかに強く幼年時代に発達されたかに依存する、と。他の人々に対する関心が児童初期に発達させられなかった人の場合にのみ、器官劣等性が劣等コンプレックスへ導かれることになるのである。
注釈を加えれば、「他の人々に対する関心」というのは、いわゆる「共感」のことで、児童初期に共感の訓練をしていないと、器官劣等性が劣等コンプレックスへ導かれることになる、と書いているのです。