見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

神社に行こう・建築と芸能/れきはく

2006-05-06 23:49:18 | 行ったもの(美術館・見仏)
○国立歴史民族博物館 企画展『日本の神々と祭り-神社とは何か?-』

http://www.rekihaku.ac.jp/index.html

 神奈川県立歴史博物館の特別展『神々と出逢う-神奈川の神道美術-』と、この展示会のニュースを同時期に聴いたので、おや、神社がブームなのかしら?と思った。少し前から、古寺を訪ね、仏像を見て楽しむことは、少数とはいえ、若い世代にまで根付いた趣味になっている。それに比べると、神道はやや敷居が高い。神社に行っても、何を見ればいいのか、よく分からないし、下手をすると、政治的にキナ臭い感じもする。

 そのあたりを払拭して、神道という、日本古来の遺産と向き合うには、神奈川の歴博の企画も、この国立歴史民族博物館の展示も、意味あるものだと思う。ただし、手法は大きく異なっていて、神奈川の歴博が、ふだん見ることのできない神像彫刻を中心に、神道美術を正面に据えたのに対して、この展示のキーワードは「建築」と「芸能」である。

 展示は、4つの神社によって構成されている。まず、出雲大社。高さ32丈(約96メートル)という、巨大な本殿の伝説が空想を誘う。次に厳島神社。ここは、なんと言っても、海上に社殿を作るという、空間デザインの卓抜さが魅力である。創建当初は、暴風の通り道を巧妙に避けて建てられていたので、何百年も倒壊することがなかったという。しかし、今やその知恵は跡形もない。何が根本的に変わってしまったのだろう。海岸線も、社殿の構成も、創建当時と今日では、ずいぶん違っているということを、興味深く学んだ。そして伊勢神宮。ここも、「遷宮」という、社殿建築にかかわる独特の作法を守り続ける神社である。

 最後が祇園八坂神社。ここで、先を進んでいたギャラリートークの一団に追いついてしまった。歴博のホームページによれば、この日(5月4日)、ギャラリートークの予定はなかったはずだが、参観者が多いので、臨時に実施することになったのだろうか。歴博のギャラリートークは質が高い。昨年の企画展『東アジア中世海道』で味を占めていたので、今回もツアーがあるなら加わりたいと思っていたのだが、何せ大人数で輪の中に入れない。それでも、そっと耳を傾けると、祇園祭の解説をしているところだった。

 祇園祭では、鉾を取り付けた山鉾が巡行する。大きな鉾は、災厄や疫病を斬り捨てるための強力な武具である。同時に、山鉾をきらびやかな「風流(ふりゅう)」で飾るのは、それによって疫病神を誘い出す罠である。こうして町々を巡行し、あらゆる災厄と疫病を吸い寄せた山鉾は、当然、すみやかに打ち壊し、焼き捨てなければならない。「もったいない」とか言ってはならないのである。

 しかしながら、会場には、山鉾の懸装品(けそうひん)に使われているタペストリーの1枚が展示されていた。東京育ちの私は、祇園祭を1回しか見たことがないが、このタペストリーの存在を知ったときはびっくりしたなあ。京都文化、恐るべし。支倉常長がローマ法王から贈られた5枚組みの一部と考えられるそうである。

 最後に山鉾の大きな車輪の前で、余談。先日、皇太子がこの展示を鑑賞されたそうだが、この車輪に興味を持たれて、「いま、御所車(牛車)のことを調べています」とおっしゃったそうだ(博士論文のテーマは水運史ではなかったかしら)。で、おっしゃるには「御所車に乗るのは公卿まで。天皇は車に乗らない」のだそうだ。ほんとかな~。同様に祇園祭でも、山鉾は疫病を引き付けるために巡行するのであって、八坂神社の本体は「神輿」に乗ってお出ましになる。「やはり、車は不安定な乗り物。玉体に何かあってはならないと思うのでしょう」という。

 他にもいろいろ、面白いお話を聞かせていただいた。ギャラリートークの先生は、あとでスタッフにお名前を聞いたら、新谷(しんたに)尚紀教授とのこと。宮田登氏のお弟子さんらしい。面白いエピソードを拾ったのでリンクを貼っておく。民俗学をやってる人って、どこか普通の学術研究を逸脱した「濃さ」が面白いと思う。
コメント
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