見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

今様オランダ風説書(3):図書館散歩つづき

2008-03-12 23:19:41 | ■オランダ風説書2008
 続いてライデン大学図書館(本館)を見学した。手荷物をロッカーに預け、「学生のような顔で、後についてきてください」という案内者に従うと、ノーチェックで館内に入れる。

 ライデン大学の歴史は古い。1575年(天正3年、織田信長が武田軍を破った長篠の戦いの年)の設立である。そして、図書館も同じ年に設置されたことが、英文Wikipediaに記述されている。当然、書庫の中は、東西の貴重書で埋まっているのだろう。同大学の場合、研究者や院生が使う学術研究書の収集・提供は、学部や研究所の図書館が担っている。本館の役割は、学生用の基本図書の提供と、貴重書の集中保管の2つであるという。

 開架図書へのアクセスは、上記のように大アマだが、書庫の本はそうはいかない。もちろんIDがなければ出してもらえない。そして、請求してから早くても1時間は待たされるという。ただし、ネットワークを通じて請求できるので、前日の晩に自宅から請求し、翌朝、カウンターで受け取ることもできる。貴重書の場合はもっと厳しくて、中1日はかかる。これは、貴重書の保管庫がきわめて安定した環境(温度・湿度)に保たれているため、閲覧室に持ち出す前に「馴らし」が必要であるそうだ(とりわけ、古写真の場合)。人間の高山病予防みたいなものだ。

 日本では、「院生以上」や「教員」には入庫資格を認めている大学が多いと思うが、オランダでは、そうではない。「図書館員は専門職ですから。強いんです」と案内者は言う。その一方、受益者負担(対価を支払えば、サービスを受ける資格がある)という考え方も徹底していて、一般市民であっても、登録料を払えば図書館のIDを獲得することができるし、貴重書も閲覧できる。ちなみに、古書を傷めないという理由で、持ち込みのデジカメによる撮影が推奨されているとも聞いた。

 この「受益者負担」の徹底には、さまざまな場面で出くわした。たとえば、ライデン市の公共図書館も、閲覧だけなら無料だが、貸出サービスを受けるには、登録料が必要だという(確か。子どもは全て無料)。さらに、新刊書やCD、DVDを借りるには別料金がかかる。事前情報として、王立図書館(Koninklijke Bibliotheek, KBと略す)のWebサイトを見ていたときも、Reading room passは無料だが、本を借りたり、オンラインデータベースを使ったり、特殊コレクションにアクセスできるKB-passは年15ユーロ(2,500円位?)とあって、ちょっと奇異な感じがしていた。

 外国の図書館といえば、つい、アメリカを「標準」として思い浮かべがちである。菅谷明子さんの『未来をつくる図書館』(岩波書店、2003)には、ニューヨーク市民である著者は、ニューヨーク公共図書館のWebサイトを通じて、高額な外部データベースを「無料で」利用できる、という記述があった。しかし「公共」や「フェアネス」の考え方には、いろいろな差異があるのだなあ、ということを考えさせられた。

↓公共図書館は”B”が目印。


 さて、図書館見学記録のみ、まとめておけば、翌日3/6はアムステルダムのIIAV(国際女性運動情報・資料センター)を視察。古い教会を再利用した書庫兼閲覧室がユニークである。最近は、宗教離れが進んでいるため、使われなくなった教会をコミュニティセンターなどに再利用するケースが多いのだそうだ。カトリック教国でもあるのかなあ。なんとなく、新教国のオランダならでは、という気がする。

 3/7はハーグの国立文書館と王立図書館を見学。デン・ハーグ中央駅を出るとすぐの好立地で、どちらもフレンドリーな雰囲気の新しい建築だった。パスポートを預けると館内に入れてくれる。両館をつなぐ渡り廊下に展示室があり、文書館・図書館共催で、息を呑むような貴重書展示が行われていた。まあ、本場だもんなあ。日本と比較してはいけないのかもしれないが。海の底のような薄暗いホールに、たくさんの展示ケースが、低木のように「林立」している(東博の法隆寺館みたいな感じ)。展示品は、各ケースに1点。ケースの脇のタッチパネルでは、当該資料の説明・画像(拡大、回転、スライドショー)・音声・動画などをあわせて楽しむことができる。展示室の壁全面をスクリーンに、文書館・図書館の紹介(感覚的・実験的で、芸術作品みたいな映像!)が流れ続けるのにも、うっとりする。

 王立図書館の開架閲覧室は、明るく、暖かな雰囲気で、気持ちがよかった。木製の書架に大きな絵が描いてあったり、わざとコーナーごとに異なるタイプのソファセットが置いてあったり、それから、なぜかチェスの駒を並べたテーブルがあった。本を読み飽きたら、利用者どうしで対戦したりするのかしら。私はこれまで、オランダの王立図書館を訪ねた話は、全く聞いたことがなかったが、機会のある方には、ぜひ一見をお薦めしたい図書館である。

↓手前のオレンジの旗が国立文書館、奥の”KB”が王立図書館。


 最後に、オランダといえば、私の大好きな中国歴史ミステリー”ディー判事シリーズ”のロバート・ファン・フーリックもライデン大学出身である。思い出したので付記しておこう。

 次は、美術館探訪記に続く予定。

■オランダ王立図書館(National Library of the Netherlands =Koninklijke Bibliotheek)(英語)
http://www.kb.nl/index-en.html

■オランダ国立文書館(The Nationaal Archief)(英語)
http://www.en.nationaalarchief.nl/default.asp
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