○大平雅巳『カラー版:西洋陶磁入門』(岩波新書) 岩波書店 2008.2
きれいなカラー図版多数。書店でふと中を開いたら、記憶に新しい写真が目に入った。オランダで見た、デルフト焼きの巨大なチューリップ専用花瓶である。
16世紀半ば、東方からオランダにもたらされたチューリップは、投機の対象となり、1634~38年に空前の高騰を見せる。この時期をチューリップ・バブルの時代(チュルペンウッド)と呼ぶ。実は、デルフト陶器のチューリップ花瓶が焼かれたのは1688~1710年の間であるという。しかもこの花瓶、植物学者によれば、チューリップの栽培には適しておらず、ヒヤシンス用ではないかと推測されているそうだ。以上をざっと立ち読みして、面白そうなので、結局、買ってしまった。
本書は、古代ギリシアの赤絵陶器に始まり、古代・中世・ルネサンスを経て、近代の磁器(マイセン、セーヴル、ウェッジウッド)まで、各種の様式を、その代表的な作品とともに紹介している。日本の柿右衛門や古田織部、楽長次郎みたいに、ヨーロッパにも伝説の陶工がいるんだなあ、と初めて知って、面白かった。
ヨーロッパで18世紀に至るまで磁器を焼くことができなかった(私も最近知ったのだが、陶器と磁器は別ものなのである)。ザクセンのフリードリヒ・アウグスト1世(アウグスト強王)が、陶工たちに磁器の創生を命じ、ついにヨーロッパ最初の磁器工場設立を宣言したのは1710年のことだという。この磁器マニアの王様、隣国のプロイセンの中国磁器コレクションが欲しくて、600人の竜騎兵と交換したという痛快な逸話もある。
セーヴル磁器の創成期に、ルイ15世の愛人、ポンパドゥール夫人の庇護と関与があったというのも知らなかった。ジョサイア・ウェッジウッドがアメリカの独立運動を支援し、奴隷解放運動支援のメダルを無償で提供していたというのも。各国の”国民磁器”にそれぞれの歴史があって、面白い。それから、明治の岩倉遣欧使節の一行が、各国の代表的な磁器工場を余すところなく回っているというのも、あまり語られてこなかったことではないかと思う。
作品としては、中世イギリスの陶器(騎士たちのジャグ=取っ手つきの水差し)が気に入った。素朴な造型で、薄い緑釉が無造作にかかっている。侘助椿でも投げ入れて、古筆の掛け軸と並べてみたい。畳の部屋にも似合うと思う。
きれいなカラー図版多数。書店でふと中を開いたら、記憶に新しい写真が目に入った。オランダで見た、デルフト焼きの巨大なチューリップ専用花瓶である。
16世紀半ば、東方からオランダにもたらされたチューリップは、投機の対象となり、1634~38年に空前の高騰を見せる。この時期をチューリップ・バブルの時代(チュルペンウッド)と呼ぶ。実は、デルフト陶器のチューリップ花瓶が焼かれたのは1688~1710年の間であるという。しかもこの花瓶、植物学者によれば、チューリップの栽培には適しておらず、ヒヤシンス用ではないかと推測されているそうだ。以上をざっと立ち読みして、面白そうなので、結局、買ってしまった。
本書は、古代ギリシアの赤絵陶器に始まり、古代・中世・ルネサンスを経て、近代の磁器(マイセン、セーヴル、ウェッジウッド)まで、各種の様式を、その代表的な作品とともに紹介している。日本の柿右衛門や古田織部、楽長次郎みたいに、ヨーロッパにも伝説の陶工がいるんだなあ、と初めて知って、面白かった。
ヨーロッパで18世紀に至るまで磁器を焼くことができなかった(私も最近知ったのだが、陶器と磁器は別ものなのである)。ザクセンのフリードリヒ・アウグスト1世(アウグスト強王)が、陶工たちに磁器の創生を命じ、ついにヨーロッパ最初の磁器工場設立を宣言したのは1710年のことだという。この磁器マニアの王様、隣国のプロイセンの中国磁器コレクションが欲しくて、600人の竜騎兵と交換したという痛快な逸話もある。
セーヴル磁器の創成期に、ルイ15世の愛人、ポンパドゥール夫人の庇護と関与があったというのも知らなかった。ジョサイア・ウェッジウッドがアメリカの独立運動を支援し、奴隷解放運動支援のメダルを無償で提供していたというのも。各国の”国民磁器”にそれぞれの歴史があって、面白い。それから、明治の岩倉遣欧使節の一行が、各国の代表的な磁器工場を余すところなく回っているというのも、あまり語られてこなかったことではないかと思う。
作品としては、中世イギリスの陶器(騎士たちのジャグ=取っ手つきの水差し)が気に入った。素朴な造型で、薄い緑釉が無造作にかかっている。侘助椿でも投げ入れて、古筆の掛け軸と並べてみたい。畳の部屋にも似合うと思う。