見もの・読みもの日記

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一病息災 /病と医療(国立公文書館)

2008-04-09 23:35:47 | 行ったもの(美術館・見仏)
○国立公文書館 平成20年度春の特別展『病と医療-江戸から明治へ-』

http://www.archives.go.jp/

 恒例、春の特別展。病と医療から見た近世~近代の軌跡を、江戸の諸本と明治の公文書でたどる。こんな狭いテーマで面白い資料が揃うのかな、と心配したけれど、けっこう楽しめた。

 まずは、個人の日記や随筆から、さまざまな流行病や治療方法の記述を探る。はしか、インフルエンザ、赤痢、さらに梅毒。幕末に猛威をふるったのは、安政5年(1822)のコレラの大流行である。金屯道人(仮名垣魯文)著『安政箇労痢流行記概略』は、多色刷りの挿絵で、焼き場に棺桶が山積みされた江戸の惨状を伝える。

 江戸ものには「浅草文庫」の印を押したものが多い。また「昌平坂学問所」の印とともに「番外書冊」の印が見えるものもある。それにしても『老人必用養草』(老人医療)とか『小児必用養育草』(小児医学)果ては『坐婆必研』(産科医学)まで、昌平坂学問所の守備範囲が、やたら広いことに驚いた。多紀氏と医学館にかかわる資料もずいぶんあった。江戸の医学の発展を支えたのは蘭方医のみではない。漢方医も頑張っていたのだな、と思った。

 とはいえ、『重訂解体新書』(文政9年=1826)の銅版画の精密さは空前である。『解体新書』(安永3年=1774)の図は木版画だったのを、重版に際して改めたのだそうだ。図版の作者は誰なんだろう?と思ったら、Wikipediaに「京都の中伊三郎による」と出ていた。『和蘭医事問答』も面白いなあ。陸奥一関藩の藩医だった建部清庵が、オランダ医学についての素朴な疑問を杉田玄白に正したもの。「オランダには外科医ばかりで内科医はいないのか?」「そんなことはない」なんて、素朴な問答がほほえましい。

 最後は、美術品と見まごう本草図譜を展示。森立之の『華鳥譜』は、61種の鳥を美麗な手彩色の図譜で紹介したもの。当然1点ものかと思ったら、国会図書館も入っているようだ(→貴重書画像データベース→書名検索)。全て作者の服部雪斎の筆なのかな? 弟子が何部か複製を作るのか? 江戸の出版事情って、まだ私には分からないことが多い。必ず冒頭に「味」の項目を立てていることに注目。トキは「甘微温(あまくすこしあたため)」で、マナヅルは「甘鹹(あまくしおからく)毒なし」。オシドリもカラスもカワセミもこんな調子。江戸の精緻な博物図譜って、食材図鑑でもあったのね、と苦笑。
コメント
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