見もの・読みもの日記

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幼すぎる美神/ウルビーノのヴィーナス(国立西洋美術館)

2008-04-12 22:40:46 | 行ったもの(美術館・見仏)
○国立西洋美術館 『ウルビーノのヴィーナス:古代からルネッサンス、美の女神の系譜』

http://www.nmwa.go.jp/

 ティツィアーノ作『ウルビーノのヴィーナス』(ウフィツィ美術館所蔵)を初めて日本で公開する展覧会。高田馬場だったか目白だったか、山手線の線路際に、この展覧会の大きな広告看板が掛かっていて、全身、白い肌もあらわに横たわったヴィーナスが、意味ありげな微笑みを車窓に向かって投げかけている。それがあんまり色っぽいので、ええ~いいのかな~と、私は見るたび面伏せになってしまう。確かキャッチコピーは「美神降臨」だった。ずいぶん思い切った広告戦略である。

 この展覧会、実は『ウルビーノのヴィーナス』だけでなく、古代、ルネサンス、バロック初期に至るまでの、ヴィーナスを主題とする絵画、彫刻など約70点が併せて展示されている。最近、そのことを知って、それじゃあ見に行こうという気持ちになった。会場の冒頭は、私の好きなギリシアの赤絵壺や、カメオなど、古代のヴィーナスに迎えられる。

 ルネサンス期については、岡田温司さんの『もうひとつのルネサンス』にも出てきた婚礼家具の長持ち(カッソーネ)や誕生盆の実物を見ることができ、興味深かった。書籍も多かった。メディチ家の庇護の下、最初に誕生したヴィーナスは、プリニウス『博物誌』(1458年刊)の1頁に描かれた小さな図像だそうだ。それから、奇妙な焼きものもあった。

 しかし、何といっても『ウルビーノのヴィーナス』。奇跡の美肌である。この展覧会に集められたヴィーナスは、比較的、肉付きのいい美神が多い。三段腹だったりして。それに比べると、胸のふくらみの下からお腹にかけてが薄くて幼い感じがする。胸は、彼女だけでなく、美神の伝統的プロポーションって、そんなに大きくないのが標準のようだ。最近の巨乳好みって、社会が下品になった結果じゃないかと思う。モデルには諸説あるそうだが、かなり若い女性だと思われ、正直、ちょっと”ロリ趣味”の危うさが匂う。まあ、ルネサンス期には、若い女性と初老の男性の”年の差婚”が一般的だったと言うし。

 絵画的に眺めると、画面を左右に区切る真っ黒な衝立(?)。よく見ると、深緑のカーテンが斜めに掛かっており、白いシーツの下の赤(に黒の小花模様)の寝具と計算された対照を形づくっている。寝具のファブリックがきれいだなあと思っていたら、横浜・元町のキタムラヤがこれを再現したバッグ(拡大すると細部も分かる)を作ってしまった。欲しい~。でも、これを持って行くようなお出かけ先もないしなあ。

 思い起こせば、昨年の春は、東博にレオナルド・ダ・ヴィンチ『受胎告知』がやって来て、その余波で、私は岡田温司さんの『処女懐胎』等々を読んで、西洋絵画に関心が戻った。2007年は聖母マリア、2008年はヴィーナス。さて、来年は?

■参考:サルヴァスタイル美術館「ティツィアーノ・ヴェチェリオ」
http://www.salvastyle.com/menu_renaissance/tiziano.html
『ウルビーノのヴィーナス』を見ながら、自然と頭に浮かんでいたのが、マネの『オランピア』。犬と猫の対比など、興味深い指摘あり。
コメント
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