○府中市博物館 『南蛮の夢、紅毛のまぼろし-安土桃山の名宝から夢二まで』
たまたま仕事でオランダに行く機会があり、そのあと、神戸市立博物館で南蛮美術企画展『バイオグラフティ異国趣味』を見てきた。と思ったら、今度は府中である。なんだか今年の私は、可笑しいくらい「南蛮」「紅毛」づいている。
それにしても、ちょっと不思議な展覧会だ。安土桃山時代のキリシタン絵画、江戸のオランダ趣味など、実際に「南蛮(=スペイン、ポルトガル)」「紅毛(=オランダ)」と接触をもった時代の歴史的遺物と、近代以後、限られた異国との接触にロマンを掻き立てられた芸術家たちの想像の産物が、敢えてごちゃまぜに展示されている。
たとえば冒頭のセクションは、伊達政宗に派遣されローマ教皇との謁見を果たした支倉常長にスポットを当てる。最初に目に入るのは、簡素な木製の十字架と青銅のメダイ(聖母子を刻んだ楕円形のメダル)。素朴な農民画のような、ロザリオの聖母子像。そして、え、これが国宝?と目を疑う、簡素な木製の鞍。全て常長がヨーロッパから持ち帰った「慶長遣欧使節関係資料」(仙台市博物館所蔵)である。
私は、これらの歴史資料と並んだ肖像『イスパニアに寄る常長』(※記憶に拠る)をしみじみと眺めた。頑丈そうな幅広の体躯。体同様、四角張った顔には、意志の強さとひたむきさが現れている。もっともこの肖像は、明治生まれの日本画家・福田恵一が描いたものだ。福田には、馬を連ねてイスパニアからローマへ向かう常長を描いた『使命』という、ロマンチシズムあふれる大作もある。
しかし、福田は空想だけで常長の肖像を描いたわけではない。なんと、当時のヨーロッパで描かれた常長の肖像が伝わっているのである。私が見ることのできたのは、小さな銅版画だったが、なかなか伊達な(→この表現も可笑しいなあ)クリスチャンぶりである。ほかに有名な油彩画があり(上記サイトに画像)、本展では、明治時代の模本(児島虎次郎筆)を見ることができる。
このほかにも金森観森の『南蛮来』とか、三露千鈴の『殉教者の娘』とか、松本華羊の『伴天連お春』とか、守屋多々志の『キオストロの少年使節』とか、「南蛮」「紅毛」を主題にした近代絵画に、私は酔ったように魅せられてしまった。いずれも明るく、溌剌と清新な香気に満ち、それでいて、ほのかな愁いの影が差している。ちょうど今の季節、春の盛りにふさわしいように思う。太田天洋の『亜欧堂先生』は、アトリエの亜欧堂田善を空想で描いたもの。田舎の職人親父みたいな風貌が微笑ましい。
なお、歴史的遺品を主に見たいという人は、重要美術品『南蛮人来朝之図』(安土桃山時代、長崎歴史文化博物館、4/22~5/11)と重要文化財『泰西王侯図』(安土桃山時代、群馬県・満福寺、4/15~5/11)が出品される後半がおすすめ。私は早く行き過ぎたかもしれない。ま、周辺の桜が見ごろだったので、いいや。
たまたま仕事でオランダに行く機会があり、そのあと、神戸市立博物館で南蛮美術企画展『バイオグラフティ異国趣味』を見てきた。と思ったら、今度は府中である。なんだか今年の私は、可笑しいくらい「南蛮」「紅毛」づいている。
それにしても、ちょっと不思議な展覧会だ。安土桃山時代のキリシタン絵画、江戸のオランダ趣味など、実際に「南蛮(=スペイン、ポルトガル)」「紅毛(=オランダ)」と接触をもった時代の歴史的遺物と、近代以後、限られた異国との接触にロマンを掻き立てられた芸術家たちの想像の産物が、敢えてごちゃまぜに展示されている。
たとえば冒頭のセクションは、伊達政宗に派遣されローマ教皇との謁見を果たした支倉常長にスポットを当てる。最初に目に入るのは、簡素な木製の十字架と青銅のメダイ(聖母子を刻んだ楕円形のメダル)。素朴な農民画のような、ロザリオの聖母子像。そして、え、これが国宝?と目を疑う、簡素な木製の鞍。全て常長がヨーロッパから持ち帰った「慶長遣欧使節関係資料」(仙台市博物館所蔵)である。
私は、これらの歴史資料と並んだ肖像『イスパニアに寄る常長』(※記憶に拠る)をしみじみと眺めた。頑丈そうな幅広の体躯。体同様、四角張った顔には、意志の強さとひたむきさが現れている。もっともこの肖像は、明治生まれの日本画家・福田恵一が描いたものだ。福田には、馬を連ねてイスパニアからローマへ向かう常長を描いた『使命』という、ロマンチシズムあふれる大作もある。
しかし、福田は空想だけで常長の肖像を描いたわけではない。なんと、当時のヨーロッパで描かれた常長の肖像が伝わっているのである。私が見ることのできたのは、小さな銅版画だったが、なかなか伊達な(→この表現も可笑しいなあ)クリスチャンぶりである。ほかに有名な油彩画があり(上記サイトに画像)、本展では、明治時代の模本(児島虎次郎筆)を見ることができる。
このほかにも金森観森の『南蛮来』とか、三露千鈴の『殉教者の娘』とか、松本華羊の『伴天連お春』とか、守屋多々志の『キオストロの少年使節』とか、「南蛮」「紅毛」を主題にした近代絵画に、私は酔ったように魅せられてしまった。いずれも明るく、溌剌と清新な香気に満ち、それでいて、ほのかな愁いの影が差している。ちょうど今の季節、春の盛りにふさわしいように思う。太田天洋の『亜欧堂先生』は、アトリエの亜欧堂田善を空想で描いたもの。田舎の職人親父みたいな風貌が微笑ましい。
なお、歴史的遺品を主に見たいという人は、重要美術品『南蛮人来朝之図』(安土桃山時代、長崎歴史文化博物館、4/22~5/11)と重要文化財『泰西王侯図』(安土桃山時代、群馬県・満福寺、4/15~5/11)が出品される後半がおすすめ。私は早く行き過ぎたかもしれない。ま、周辺の桜が見ごろだったので、いいや。