見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

イメージのパラダイス/博物図譜(東京国立博物館)

2008-04-17 23:55:33 | 行ったもの(美術館・見仏)
○東京国立博物館・本館16室(歴史資料) 特集陳列『博物図譜-日本的研究の展開-』

http://www.tnm.go.jp/

 新年度最初の展示は「博物図譜」がテーマなので、これは楽しいにちがいない、と思っていたが、期待以上だった。展示資料は総計25点。「歴史資料」の特集陳列としては、多い数ではないはずだが、展示ケースの中が、大判の彩色図譜に埋めつくされ、いつもより会場が狭く感じられた。

 本館16室の展示は、これまでも年1回くらいのペースで博物図譜を特集してきた。2007年8月の『ものの真の姿を探る』、2006年9月の『写生とそのかたち』など。東京国立博物館が所蔵する博物図譜の多くは、博物局(東博の前身)の田中芳男が中心となって作成・編集したものだ。どこかに”趣味と教養”の香りが残る江戸の博物図譜と違って、明治の博物図譜は、世の中に存在する動植物を、何が何でも全て集めてやる、といわんばかりのエネルギッシュな収集欲を感じさせる。 

 絵師では、前回、名前を覚えた関根雲停が、やっぱりいい。対象をさまざまな角度から繰り返し描くので、アニメーションの下絵みたいに思える。今回覚えたのは馬場大助。『遠西舶上画譜』といって、文化年間以降に渡来した草木346品を解説した便利な図譜を作っている。展示されていたのはパンジーの項。関根雲停と馬場大助は、ともに。赭鞭会(しゃべんかい)という博物研究会(!)の一員だった。この時期(文政~天保)、藩主から旗本まで、身分を越えた趣味サークルが成立していたことにちょっと驚く。

 明治初年に博物局が編集した『博物館獣譜』は、これより以前のさまざまな図譜を収集・書写して再録している。『御用伺絵』(珍禽渡来の際に長崎から幕府に送って御用の有無を問い合わせた絵)とか、堀田正敦『獣譜』の一部とか。展示されていた、妙に人間臭いテナガザルの図には「谷文晁写」とサインがあり、クマの正面図には「小野蘭山蔵図」とあった。

 後藤光生の『随観写真』も面白い。題名は「見たままを写した」ということらしいが、変な化け物の「写真」もあって、面白過ぎ! 展示品は数少ない完本で(ということは他にもあるのか?写本なのに)木村蒹葭堂旧蔵本だそうだ。大槻玄沢の『六物新志』は、先日、国立公文書館でも同じもの(版心に「蒹葭堂」とある刊本)を見たばかりだ、と思ったら、あれっ、こちらは写本なので、びっくり。どうも江戸の出版流通は、よく分からない。

■参考;国立国会図書館電子展示:描かれた動物・植物-江戸時代の博物誌
http://www.ndl.go.jp/nature/index.html
 博物図譜を書誌学的に楽しむにはおすすめのサイトを発見(いまさらだが)。さすが、よく整理されている。でも、どんなによく出来た電子展示も、やっぱり本物のイメージ喚起力には敵わないと思う。

※後記。いつもお世話になっているWikipediaだが、博物誌に関する記述は意外と弱いことが分かった。上記、馬場大助も後藤光生も項目がない。いや、まず誰か、田中芳男の項目を書いてくれ!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする