見もの・読みもの日記

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死後の生活を彩る/中国の陶俑(出光美術館)

2009-08-09 00:44:13 | 行ったもの(美術館・見仏)
出光美術館 やきものに親しむVII『中国の陶俑―漢の加彩と唐三彩―』(2009年8月1日~9月6日)

 金曜日の夕方、めずらしく都内で仕事が終わったので、延長開館(19時まで)している出光美術館に向かった。この時間帯に訪ねたのは初めてのことで、けっこう人の姿が多くて、びっくりした。それも道理。私が入館してまもなく、「当館学芸員による列品解説が始まります」というアナウンスが流れると、30人ほどの観客は、待ちかねたように入口に集合した。

 本展は、中国の漢代から唐代にかけての俑を中心とする陶器120点余りを取り上げたコレクション展(※タイトルは「陶俑」だが、うつわ物、意外と多し)。展示は、漢代の緑釉陶器、農舎や鴨池のミニチュアから始まる。埋葬に副えられた「明器」である。いや、それにしても…なんてきれいな緑色だろう、と思って私は見入ってしまった。緑釉豚の、紫がかった斑点が濡れたように輝く様も、宝石を見るように美しい。そのあとの唐三彩の俑や器も、照明の効果で、それぞれ最上の表情を引き出しているように思った。漢代の人物俑は、解剖学的に正確な人体の形になっていない。しかし、わずかな表情で「侍女」とか「文官」という典型的な個性をよく表している。ちょっと円空仏を連想した。

 第2室は唐代の俑。手前のケースに女性、奥のケースに男性と分けてみました、とのこと。椅子に座った三彩女子俑があるが、これは「椅子に腰掛けている」という点で、高貴な人物と分かるのだそうだ。下々の人間は、立っているか、地面にぺたりと座っているのだという。また、ふくよかな女子俑も高い身分をあらわし、スリムな女子俑は、侍女など低い身分に使われるそうだ。じゃあ、本展のポスターになっている横笛を携えた女子の楽人は、細身だし、座っているし、身分は高くないのだな。しかし、学芸員の金沢陽さんが自慢するとおり、抜群に美人である。ポスターは正面顔だけど、左右非対称に結い上げたおしゃれな髪型に、衣の色合い(三彩の釉薬)も左右が異なるので、ぜひ横からの表情に注目してほしい。

 参考出品の加彩人物木俑が4体。木俑はほとんど残らないので、非常に珍しいのだそうだ。崩れやすいのでテグスで固定できず、展示に非常に苦労したというお話を聞いた。もうひとつ、参考出品で、西域・アスターナ古墳出土の加彩人物泥俑が5体出ている。赤いスカート(だと記憶する)をまとった、ひときわ小さな女子俑が、溌剌としてかわいい。いかめしい武官と文官の男たち4人を後ろに従えたところは、ナウシカみたいだ。

 第3室では、ずらり9体が並んだ三彩騎馬人物が印象的だった。こうした三彩俑も、全て明器(副葬品)として作られたものだという。若い頃に仲間たちと楽しんだツーリングの思い出を、死後に持っていこうと思ったのだろうか。騎馬人物は、女性が5人、男性が4人。女性の口元には、楽しそうな笑みが浮かんでいる。

 また、この部屋には、さまざまな形のうつわが展示されていたが、いずれも明器だという。三彩の陶器は、美しいが脆くて、実用には適さない。漆器や金属器の形を真似たものが多いのも、埋葬用に安価な陶器でイミテーションをつくったのではないか、という話だった。今日、中国人が紙製の自動車や冷蔵庫を燃やして先祖の霊を弔うのと、心情的には同じである。”猿笛”は初めて見た。本当に笛なのか、中国では何というのか、知りたい。19時の閉館となり、展示室入口の防火扉が閉まるところを初めて見て、退館。

※「やきものに親しむ」バックナンバー
第1回~5回
第6回:陶磁の東西交流
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