○森田憲司『北京を見る読む集める』(あじあブックス) 大修館書店 2008.7
1993年から、北京で発行されていた日本語フリーペーパー『北京かわら版』、そのあと『北京トコトコ』に移って、現在(2008年)まで連載中の「中国を見る集める読む」が元ネタ。著者は中国近世史を専門とする研究者だが、内容は一般向けである。著者の趣味は「集める」こと。何を集めるかというと、中国にまつわる面白そうな本ならなんでも欲しい。欲しいのは本に限らない。字のある物、とくに印刷された物なら、なんでも欲しい、と著者はいう。この気持ち、大いに共感するという人間には、きわめて楽しい本だ。
取り上げられているのは、入場券、糧票、紙銭、年画、月份画(壁貼りカレンダー)、陞官図(すごろく)、科挙の合格通知、地図、絵葉書、写真帖、旅行記など。地下鉄の改札口で、もぎり取られる切符を死守する苦労話は、90年代の北京を思い出して懐かしかった。また、老北京(ラオベイジン、北京っ子)と新世代の違いのひとつは、「糧票」(主食を購入するための配給切符)を知っているか否かだというが、私は、1993年夏、西単の包子屋さんで、これを見た記憶がある(北京で糧票が廃止されたのは、まさに1993年だそうだ)。
北京には「博物館通票」という冊子型の共通パスがあり、パスを使い終わってもガイドブックとして使える、とあったので、これはお役立ち情報と思ったら、近年(2008年~)、中国では博物館の全面無料化が始まっているとのこと。全く気の抜けない変化のスピードである。
変化を記録する資料として、何に注目しなければならないか、という点で、本書はとても示唆に富んでいる。図書館関係者には、ぜひ一読をすすめたいところ。たとえば、拍売図録(オークションカタログ)。それから、地図。安価な1枚ものの「旅遊図」を詳細に見比べていくと、町の微細な変化を追うことができる。それにしても、1元とか2元は安すぎだろうと思ったが、広告チラシの機能を果たしているといわれれば、納得である。
もっと貴重な古地図の紹介もあって、「現存最古」の『万暦年間北京城内図』は東北大学附属図書館のサイトで見られる。本書では影印本が紹介されている『乾隆京城全図』(これはすごい)は、最近、東洋文庫がデジタル画像を公開したようだ。ただし、どちらも使い勝手はあまりよくない。
北京の古写真を見るには、どんな写真帖がおすすめか。こんな質問にも本書は丁寧に答えている。内藤湖南編集の『満州写真帖』なんてのがあるのかー。『亜東印画輯』は好事家向き。名取洋之助の岩波写真文庫『北京』は、まだ手に入るだろうか。なお、中国国内で、こうした資料を探すには、故宮書店(故宮の御花園の東北角にある)が穴場とのこと。行ってみたい。
また、本書には、紙の上ばかりでなく、実際の史跡を見聞した記録もたくさん収められている。国子鑑と孔子廟、湖広会館など、行った覚えのある名所も多くて、楽しかった。東交巷(清朝末、各国の大使館が集まっていた)は、何度か車で通っているはずだが、ゆっくり歩いてみたことはない。フランス郵便局の建物をそのまま使っているという四川レストラン(静園川菜)、行ってみたいな。
※WEB TOKOTOKO
雑誌「北京トコトコ」のWebサイト。
※NII:ディジタル・シルクロード
立ち上がったときはしょぼいと思っていたが、ずいぶんコンテンツが増えていた。
※レコード・チャイナ:全国の博物館、無料開放で入場者殺到(2008/3/31)
その後はどうなっているんだろう。
※カレント・アウェアネス:中国国家図書館長、全人代で図書館の無料化について提出(2008/3/14)
一方で、こんな記事も。
1993年から、北京で発行されていた日本語フリーペーパー『北京かわら版』、そのあと『北京トコトコ』に移って、現在(2008年)まで連載中の「中国を見る集める読む」が元ネタ。著者は中国近世史を専門とする研究者だが、内容は一般向けである。著者の趣味は「集める」こと。何を集めるかというと、中国にまつわる面白そうな本ならなんでも欲しい。欲しいのは本に限らない。字のある物、とくに印刷された物なら、なんでも欲しい、と著者はいう。この気持ち、大いに共感するという人間には、きわめて楽しい本だ。
取り上げられているのは、入場券、糧票、紙銭、年画、月份画(壁貼りカレンダー)、陞官図(すごろく)、科挙の合格通知、地図、絵葉書、写真帖、旅行記など。地下鉄の改札口で、もぎり取られる切符を死守する苦労話は、90年代の北京を思い出して懐かしかった。また、老北京(ラオベイジン、北京っ子)と新世代の違いのひとつは、「糧票」(主食を購入するための配給切符)を知っているか否かだというが、私は、1993年夏、西単の包子屋さんで、これを見た記憶がある(北京で糧票が廃止されたのは、まさに1993年だそうだ)。
北京には「博物館通票」という冊子型の共通パスがあり、パスを使い終わってもガイドブックとして使える、とあったので、これはお役立ち情報と思ったら、近年(2008年~)、中国では博物館の全面無料化が始まっているとのこと。全く気の抜けない変化のスピードである。
変化を記録する資料として、何に注目しなければならないか、という点で、本書はとても示唆に富んでいる。図書館関係者には、ぜひ一読をすすめたいところ。たとえば、拍売図録(オークションカタログ)。それから、地図。安価な1枚ものの「旅遊図」を詳細に見比べていくと、町の微細な変化を追うことができる。それにしても、1元とか2元は安すぎだろうと思ったが、広告チラシの機能を果たしているといわれれば、納得である。
もっと貴重な古地図の紹介もあって、「現存最古」の『万暦年間北京城内図』は東北大学附属図書館のサイトで見られる。本書では影印本が紹介されている『乾隆京城全図』(これはすごい)は、最近、東洋文庫がデジタル画像を公開したようだ。ただし、どちらも使い勝手はあまりよくない。
北京の古写真を見るには、どんな写真帖がおすすめか。こんな質問にも本書は丁寧に答えている。内藤湖南編集の『満州写真帖』なんてのがあるのかー。『亜東印画輯』は好事家向き。名取洋之助の岩波写真文庫『北京』は、まだ手に入るだろうか。なお、中国国内で、こうした資料を探すには、故宮書店(故宮の御花園の東北角にある)が穴場とのこと。行ってみたい。
また、本書には、紙の上ばかりでなく、実際の史跡を見聞した記録もたくさん収められている。国子鑑と孔子廟、湖広会館など、行った覚えのある名所も多くて、楽しかった。東交巷(清朝末、各国の大使館が集まっていた)は、何度か車で通っているはずだが、ゆっくり歩いてみたことはない。フランス郵便局の建物をそのまま使っているという四川レストラン(静園川菜)、行ってみたいな。
※WEB TOKOTOKO
雑誌「北京トコトコ」のWebサイト。
※NII:ディジタル・シルクロード
立ち上がったときはしょぼいと思っていたが、ずいぶんコンテンツが増えていた。
※レコード・チャイナ:全国の博物館、無料開放で入場者殺到(2008/3/31)
その後はどうなっているんだろう。
※カレント・アウェアネス:中国国家図書館長、全人代で図書館の無料化について提出(2008/3/14)
一方で、こんな記事も。