見もの・読みもの日記

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青と白に魅せられて/染付(東京国立博物館)

2009-08-02 23:53:19 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立博物館 特別展『染付-藍が彩るアジアの器』(2009年7月14日~9月6日)

 夏にふさわしく、青と白の器「染付(青花)」の展覧会。ポスターを見て、おや、と思った。私の最も好きな染付『青花蓮池魚藻文壺』(元代、大阪市立東洋陶磁美術館蔵)が大きくフィーチャリングされているではないか! 展示室のトップを飾るのも、この壺である。しかも、あたり一面を、この壺の文様を拡大したパネルが囲むという演出つきで。

 私がこの壺と出会ったのは、2004年、出光美術館の『磁都・景徳鎮1000年記念 中国陶磁のかがやき』展でのこと。本当に壺の中を魚が泳ぎ、水草がそよいでいるような、生き生きした図柄に魅了されて、数ある作品の中でこれだけを覚えて帰ってきた。その次の印象的な再会は、2007年、三井記念美術館の『安宅コレクション』展。この展覧会で得た情報によれば、本品は、昭和48年まで、全く人に知られずに個人宅に秘蔵されていたそうだ。処分を任された茶道具商が入札にかけると、瞬く間に出だしの数十倍の価格になり、後日、安宅英一は、さらにその倍以上の価格で落札者から購入したという。そして、とうとう、あらゆる時代と地域を越えて(本展は、染付=青花が完成した元代・14世紀から19世紀まで、中国・日本・朝鮮・ベトナムの作品を扱う)「アジアの染付」の代表に選ばれたわけだから、出世したものだなあ、と思った。

 ひとつ苦言を呈すると、冒頭の展示ケースは、上からの照明が強すぎる。壺のふくらみから下の部分(見どころの魚の絵が描いてある側面)が、影になってしまっているのがさびしい。ついでにもうひとつ言っておくと、展示図録も、照明の処理がよくない。どの図版も、照明を反射した部分が、白ペンキをなすったように色が抜けてしまっている。三井の『安宅コレクション』展の図録とか、静嘉堂文庫の『清朝陶磁』の図録とか見たけど、もっと丁寧に処理されている。ちょっと手抜きじゃないか、東博。

 とはいえ、冒頭から元代の染付(青花)が6点も集められているのは嬉しい。東洋陶磁美術館(安宅コレクション)から2点、出光から1点、東博から3点(うち1点は、なぜか博覧会男・田中芳男寄贈)。出光の『青花明妃出塞図壺』は、西域の匈奴の王に嫁ぐ王昭君(明妃)の姿を描いたものだが、ウラにまわると、髭面の西域人の姿が描かれているので、お見逃しなく。

 明代の民窯に多い「雲堂手」は初めて認識した。ゴーヤの輪切りみたいで面白い。明代後期・万暦年間(1573~1620)に入ると、質の低下が著しくなるというが、『青花蝶文双耳瓶』はいいと思う。明末清初には、濃染め(だみぞめ)が一般化し、立体感のある岩や山水を描くものが多くなった。呉洲手(呉州手、呉須手、ごすで)と呼ばれる、雅味のある日本人好みののやきものは、福建省の漳州が産地なのだな。『青花赤壁図鉢』とか『呉州染付冠文火入』とか、実際に使ってみたいと感じさせるものが多い。明末清初(17世紀)と同時代に、日本でも初期伊万里の焼成が始まる。『瑠璃地染付蓮図水指』は解説に、中国とは異なる(日本的な)温容さを感じさせる、みたいなことが書いてあったけど、私は、朝鮮の染付に似ているような気がした。

 最後の展示室は、予想外の「お楽しみ」が待っていた。壁の両面を埋めるのは、平野耕輔が寄贈した江戸後期~幕末の染付大皿コレクション60余点。大胆で奇抜な意匠が多くて面白い。参考までに「平野耕輔先生の略歴とその功績」(窯業協会雑誌、1948年)はPDFファイルで全文が読める(NII CiNii)。また、朝食、昼食、夜の茶会をイメージして、それぞれ「染付の美を活かす」テーブルセッティングを展示してみせたのも(私立の美術館ではありがちだが)東博では新しい試みではないかと思う。特に、大きな展示ケース内に”茶室”を作ってしまった「夜、月見の茶会」は見もの。染付は水指1点だけなのだが、松花堂昭乗の『月画賛』を掛け、『玉兎搗薬文磚』(楽浪時代・1~3世紀!!)を配した、さりげなく贅沢な床の間飾りに唸ってしまった。ここの照明は、時間による変化が演出されていてよかった。染付やその他の焼きものを手にとって触れてみるコーナーも新機軸だと思った(対象が染付なので、あまり活きてないけど)。陶磁器は、ハマればハマるほど奥が深く、まだまだ面白く見せることができる素材だと思う。
コメント (3)
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