○サントリー美術館 高野山開創1200年記念『高野山の名宝』(2014年10月11日~12月7日)
平成27年(2015)、空海が高野山を開いてから1200年を迎えることを記念し、高野山に伝わる空海の遺品や高野山開創に関わる宝物を紹介する展覧会。
この日は、昼から熱海のMOA美術館を見て、さらに新幹線で西に向かう予定を立てていたので、早めにサントリー美術館に向かう。東京ミッドタウンの店舗がオープン(11:00)する前の入館方法を初めて体験。美術館の入口には、すでに長い列ができていた。展覧会初日から大入りの予感。
会場冒頭には、お顔を斜め右方向に向けた弘法大師像(彫刻)。「萬日大師」と呼ばれる室町~桃山時代の尊像で、いくぶん女性的な温顔である。入ってすぐ、『聾瞽指帰(ろうこしいき)』が目にとまる。2011年に東博の『空海と密教美術』展でも見ているので、それほど久しぶりではないが、やっぱりいいなあ。巻頭から2メートルくらいしか開いていないが、書き始めの異様な力の籠り具合から、だんだんスピードに乗っていく感じが、交響曲の出だしを思わせる。
それから絵画史料。『四社明神像』は男神1、女神2、童神1の構成で、もともと高野山の鎮守は丹生明神と高野(狩場)明神だったが、北条政子が気比と厳島を加えたという。へえ、なぜ北条政子が厳島明神を?気になる。『高野大師行状図絵』は弘法大師の入唐の場面で、青海原の波が美しくも荒い。筵(むしろ)旗のような帆を立てた船の姿も興味深い。鎌倉時代の『山水屏風』は珍しいなあ。第三扇と四扇に描かれた、谷間から湧き上がる雲の描写が面白い。あたりに稲光も散っているようだ。
仏画では、鎌倉時代の『大日如来像』。小さな花のレイを首にかけている。青と緑の蓮華座という寒色中心の配色が、たぶん宋風モード。肉身のピンク色のぼかしを引き立てている。桃山~江戸時代の大きな『両界曼荼羅図』は、描き表装がおしゃれだと思ったのだが、図録の写真には表具が載っていなくて残念。なお、この展覧会、絵画も仏像も工芸も、60点ほぼ全てが高野山金剛峯寺の所蔵品である。すごい!
仏像はまず、青い髪を高く結い上げた金色の大日如来像(平安時代・9世紀)。もと西塔の中尊で、高野山に残る最古の本格的彫刻だという。高野山の出開帳には、いつもお出ましになる仏様だ。のっぺりした印象になることもあるのだが、今回は照明がすごくいい。それから、快慶工房の四天王像。青年コミック的な、マッチョな「暴力性」が横溢している。持国天は邪鬼の顔を踏んづけているし。快慶銘を持つ広目天像が、やはり造形的には最も優れているという。うん、左(筆を持つ側)からの横顔が好き。
そして、階段を下りていくところで、おお~と息を呑んだ。正面に、得体の知れない大きな仏画。真っ黒な悪魔のような存在が、赤い三つ目と口を光らせ、こちらを睨んでいるのだ。有志八幡講が所蔵する『五大力菩薩像』(画幅)のうちの「金剛吼菩薩像」である。怖い。古い特撮ドラマのボスキャラのようで、凄まじく怖い。その「金剛吼菩薩像」を静かに威圧しているのが、前景の孔雀明王坐像。いいなあ。赤と黒の背景に映えるし、少し見上げるくらいのステージにいらっしゃるのもよい。
こんな調子で、あとどのくらい宝物が続くのだろう、と所用時間が気になり、次の展示室を覗いてみる。すると、ここ(3階)はフロア全体を大きく使って、不動明王と八大童子をじっくり見せる構成だと分かった。それなら、少し時間に余裕がありそうなので、11時から6階ホールで始まるという声明を聞きに行く。大きなスクリーンに高野山のイメージビデオを流しながら、6人ほどの僧侶が20分くらい声明を実演してくれた。観光客誘致とか、記念の年に向けての資金集めとか、いろいろ目算はあるんだろうなあ…。
再び展示会場に戻ってくると、前日、夕食&呑みに付き合ってくれた友人が来ていた。すごい、すごいと言い合いながら、孔雀明王像、八大童子像を鑑賞。八大童子像は、やはり赤と黒を基調にした展示室に、不動明王坐像を中尊として、左右に半弧を描くように四体ずつ並ぶ。向かって右辺は、右端(外側)から矜羯羅、指徳、制多迦、恵光童子。左辺は、左端から、阿耨達(龍に乗っている)、清浄比丘、恵喜、烏俱婆伽童子。八大童子像は、何度か見ているが、展覧会によって並べ方が一定していないように思う。ただ、視線を右に向けているグループと左に向けているグループが漠然とあり、今回は、右辺のグループはさらに右を、左辺のグループはさらに左を見ているように(したがって空間が開けていると)感じた。
どの童子も、見る位置によって表情が細やかに変わる。私は、玉眼の強い視線を真正面から受け止めない角度が好きだ。静謐で理知的な表情が垣間見える気がする。このまま「参籠」していたい至福の空間だが、次の予定があるので、友人の「(台風に)気をつけて」の声に送られて、会場を後にした。
平成27年(2015)、空海が高野山を開いてから1200年を迎えることを記念し、高野山に伝わる空海の遺品や高野山開創に関わる宝物を紹介する展覧会。
この日は、昼から熱海のMOA美術館を見て、さらに新幹線で西に向かう予定を立てていたので、早めにサントリー美術館に向かう。東京ミッドタウンの店舗がオープン(11:00)する前の入館方法を初めて体験。美術館の入口には、すでに長い列ができていた。展覧会初日から大入りの予感。
会場冒頭には、お顔を斜め右方向に向けた弘法大師像(彫刻)。「萬日大師」と呼ばれる室町~桃山時代の尊像で、いくぶん女性的な温顔である。入ってすぐ、『聾瞽指帰(ろうこしいき)』が目にとまる。2011年に東博の『空海と密教美術』展でも見ているので、それほど久しぶりではないが、やっぱりいいなあ。巻頭から2メートルくらいしか開いていないが、書き始めの異様な力の籠り具合から、だんだんスピードに乗っていく感じが、交響曲の出だしを思わせる。
それから絵画史料。『四社明神像』は男神1、女神2、童神1の構成で、もともと高野山の鎮守は丹生明神と高野(狩場)明神だったが、北条政子が気比と厳島を加えたという。へえ、なぜ北条政子が厳島明神を?気になる。『高野大師行状図絵』は弘法大師の入唐の場面で、青海原の波が美しくも荒い。筵(むしろ)旗のような帆を立てた船の姿も興味深い。鎌倉時代の『山水屏風』は珍しいなあ。第三扇と四扇に描かれた、谷間から湧き上がる雲の描写が面白い。あたりに稲光も散っているようだ。
仏画では、鎌倉時代の『大日如来像』。小さな花のレイを首にかけている。青と緑の蓮華座という寒色中心の配色が、たぶん宋風モード。肉身のピンク色のぼかしを引き立てている。桃山~江戸時代の大きな『両界曼荼羅図』は、描き表装がおしゃれだと思ったのだが、図録の写真には表具が載っていなくて残念。なお、この展覧会、絵画も仏像も工芸も、60点ほぼ全てが高野山金剛峯寺の所蔵品である。すごい!
仏像はまず、青い髪を高く結い上げた金色の大日如来像(平安時代・9世紀)。もと西塔の中尊で、高野山に残る最古の本格的彫刻だという。高野山の出開帳には、いつもお出ましになる仏様だ。のっぺりした印象になることもあるのだが、今回は照明がすごくいい。それから、快慶工房の四天王像。青年コミック的な、マッチョな「暴力性」が横溢している。持国天は邪鬼の顔を踏んづけているし。快慶銘を持つ広目天像が、やはり造形的には最も優れているという。うん、左(筆を持つ側)からの横顔が好き。
そして、階段を下りていくところで、おお~と息を呑んだ。正面に、得体の知れない大きな仏画。真っ黒な悪魔のような存在が、赤い三つ目と口を光らせ、こちらを睨んでいるのだ。有志八幡講が所蔵する『五大力菩薩像』(画幅)のうちの「金剛吼菩薩像」である。怖い。古い特撮ドラマのボスキャラのようで、凄まじく怖い。その「金剛吼菩薩像」を静かに威圧しているのが、前景の孔雀明王坐像。いいなあ。赤と黒の背景に映えるし、少し見上げるくらいのステージにいらっしゃるのもよい。
こんな調子で、あとどのくらい宝物が続くのだろう、と所用時間が気になり、次の展示室を覗いてみる。すると、ここ(3階)はフロア全体を大きく使って、不動明王と八大童子をじっくり見せる構成だと分かった。それなら、少し時間に余裕がありそうなので、11時から6階ホールで始まるという声明を聞きに行く。大きなスクリーンに高野山のイメージビデオを流しながら、6人ほどの僧侶が20分くらい声明を実演してくれた。観光客誘致とか、記念の年に向けての資金集めとか、いろいろ目算はあるんだろうなあ…。
再び展示会場に戻ってくると、前日、夕食&呑みに付き合ってくれた友人が来ていた。すごい、すごいと言い合いながら、孔雀明王像、八大童子像を鑑賞。八大童子像は、やはり赤と黒を基調にした展示室に、不動明王坐像を中尊として、左右に半弧を描くように四体ずつ並ぶ。向かって右辺は、右端(外側)から矜羯羅、指徳、制多迦、恵光童子。左辺は、左端から、阿耨達(龍に乗っている)、清浄比丘、恵喜、烏俱婆伽童子。八大童子像は、何度か見ているが、展覧会によって並べ方が一定していないように思う。ただ、視線を右に向けているグループと左に向けているグループが漠然とあり、今回は、右辺のグループはさらに右を、左辺のグループはさらに左を見ているように(したがって空間が開けていると)感じた。
どの童子も、見る位置によって表情が細やかに変わる。私は、玉眼の強い視線を真正面から受け止めない角度が好きだ。静謐で理知的な表情が垣間見える気がする。このまま「参籠」していたい至福の空間だが、次の予定があるので、友人の「(台風に)気をつけて」の声に送られて、会場を後にした。