見もの・読みもの日記

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2014年10月@熱海:「豊国祭礼図屏風」と「浄瑠璃物語絵巻」(MOA美術館)

2014-10-18 21:56:36 | 行ったもの(美術館・見仏)
MOA美術館 『又兵衛「豊国祭礼図屏風」と「浄瑠璃物語絵巻」』(2014年09月26日~10月28日)

 岩佐又兵衛の『浄瑠璃物語絵巻』は大好きな作品だが、それ以上に見る機会の少ない『豊国祭礼図屏風』(徳川美術館所蔵)が出ていると聞いては、見逃すわけにいかない。私は、この屏風、たった一度しか見たことがないのだ。作品にも感激したが、今年のはじめに、黒田日出男先生の『豊国祭礼図を読む』(角川選書、2013)を読んだ経験を踏まえて、ぜひもう一度、見たい。ということで、熱海入り。

 開館時間が16:30までで、あまりゆっくりできないので、まっすぐ企画展示室に突入。いきなり、又兵衛の『豊国祭礼図屏風』が待っていた。能楽舞台を描く右隻。金雲の上に突き出した緑の樹木の描写が、意外と写実的である。又兵衛の描く人物は、顔が大きく動作も大きいので、鑑賞者の視線を一方向に引きずる力を持っている。画面のあちこちで起きている喧嘩やにらみ合い。その中の一組が、右隻第五扇・第六扇の「かぶき者」たちである。長い朱鞘を差した、もろ肌脱ぎの男が大見得切って、勇んでいる。切りかかろうとする二人組も朱鞘なんだな。壁の解説が、さりげなくこの場面に注目を促しているのは、もちろん学芸員さんも黒田先生の本を読んでいるのだろう。あと、豊国社の勅額「豊国太明神(大明神ではない)」の下に座っている白い摺衣の貴人は誰?

 左隻には風流踊の輪が四つ、右へ左へ渦巻くエネルギーで、金雲も吹き飛ばされている。画面上部は切れ切れの金雲で覆われており、よく目を凝らすと、大仏殿の威容が覗いている。ちょっと浄土変相図を思わせる構図。狩野内膳の『豊国祭礼図屏風』に描かれた「たけのこコスプレイヤー」が、東博のブログなどで話題になっていたが、又兵衛本にもちゃんといた。白い服につば広帽の男たちが歩いているのは朝鮮人通信使? いやこれも仮装なのだろうか。猫?蟹?を描いた旗指物が打ち振られていたり、細部を気にし始めると飽きない。

 『浄瑠璃物語絵巻』は、2012年の完全展示で見て以来だ。今回も全巻が出ているが、場面はところどころ割愛されている。巻4~6は牛若と浄瑠璃姫の恋模様。巻4、若い二人は勢いで手と手を触れ合うが、巻5では、一転して牛若の求愛を拒み続ける浄瑠璃姫。「~との御ぢゃうか」の繰り返しが語り物っぽい。今は精進潔斎の身だから触れないでくれ、という浄瑠璃姫の頼みに牛若は「御身もしゃうじ、わらはもしゃうじ、しゃうじとしゃうじがまいり、ごせものがたりを申ならば、なにのしさいのあるべきぞや」と強引な理屈(笑)で口説き落として、最後はしっぽり床入りする。あけすけな春画より、かえって色っぽい。巻6は、余韻嫋々の後朝。

 場面は一転して、巻8、蒲原宿の庶民たちのリアルな描写も楽しい。酒宴の狼藉、庭で行水をつかい、相撲に興ずる男たちなど。巻9では、源氏累代の宝物が黒白の二匹の龍に姿を変えるなど、突然、物語がファンタジーの様相を呈する。巻10には雷神(ストーリー上、登場の必然性はあまりないのだが)、巻11には大天狗・小天狗が登場。ここは、巻子本を徐々に広げる読者の気持ちを想像して、何かに驚き怯える人物→海上にのたうつ巨大な尻尾(大蛇?)→黒い龍!→さらに白い龍も!!という、アニメーション的な効果が体感できると、さらに楽しい。巻11の詞書の最後が「~をくりとどけて」と、連用形止めになっていたのが、いまの人形浄瑠璃の詞章みたいだった。

 『山中常盤物語絵巻』と『堀江物語絵巻』も1場面だけチラ見せあり。『湯女図』『官女図』など、短い時間だったが又兵衛ワールドを堪能した。

 このあと、新幹線「ひかり」で熱海から京都に向かい、高槻市泊。
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