見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2014年9月@東京:菱田春草(東近美)、仏教美術逍遥(金沢文庫)ほか

2014-10-01 23:22:57 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立近代美術館 『菱田春草展』(2014年9月23日~11月3日)

 菱田春草(1874-1911)の生誕140年を記念する回顧展。春草は草創期の東京美術学校を卒業後、岡倉覚三(天心)の日本美術院創立に参加。横山大観、下村観山とともに、明治期の日本画の革新に貢献したが、満37歳の誕生日を目前にして早世した。

 春草といえば、やっぱり『黒き猫』と『落葉』かな。よく行く永青文庫に収蔵されているので、何度か見たことがある。横山大観や下村観山ほど多様な作品が思い浮かばないのは、生涯が短く、さらに眼病にも悩まされ、作品数が多くないためだと初めて認識した。それでも重要文化財4点(『王昭君』『賢首菩薩』『落葉』『黒き猫』)は近代芸術家として最多だそうだ。日本画の大家となった横山大観が「(自分より)春草の方がずっと上手い」と語っていたというエピソードは微笑ましい。二人の個性は、「火」の大観と「氷」の春草に譬えられていたが、正反対だからこそ切磋琢磨し合えるライバルだったのだろう。

 短い生涯の中でも、春草の作品は、何度かスタイルを変えている。古画の模写で腕をみがいた習作時代はさておき、日本画の生命である線を捨てて、空気や光を描くことに挑戦した「朦朧体」。これ、当時の人々にはダメだったんだなあ。現代人の目で見ると、何が駄目なのか、よく分からないけど。ここから春草は、色彩(配色構成)の研究に取り組み、面を、結果的に線を取り戻していく。残された時間がもう少しあれば、さらに変化する画風が見られたのではないか。私は『春丘』『荒磯』『紅葉山水』など、大きな風景を描いた作品が好きなので、眼病が悪化したあと、春草が身近な自然を描くことに喜びを見出した気持ちは分かるが、もう一度、大きな風景を描いてほしかった、と惜しまれる。

 永青文庫の『黒き猫』が後期出品(10/15~)だというのは分かっていたが、黒いチビ猫が木の根元に下り立ったところを描いた『柿に猫』という作品が出ていると知ったので、これを見たくて出かけた。なかなか同作品が出てこないので、どうしたのかなと思っていたら、展覧会の最後が「猫特集」になっていた。『黒き猫』が有名になったあと、春草のところには、猫を描いてくれという注文が殺到したのだそうだ。高橋由一の『鮭』もそうだったが、美術ファンってしょうがないなあ。

 春草は、頭に黒ぶちのある白猫も何度か描いている。これは、伝徽宗帝筆『猫図』(かつて益田鈍翁が所蔵)を意識したものだ。『猫に烏』の真っ白な猫も好き。播磨屋本店(おかきの?)所蔵『黒猫』の、威嚇するように背中の毛をふくらませた黒猫もかわいい。最後は、ほとんど「猫を愛でる」ためのコーナーである。

 なお、俳優の田辺誠一さん(画伯!)による音声ガイドはおすすめ。会場内の解説だけでは追い切れない、作家と作品のエピソードを詳しく紹介していて、泣ける。

神奈川県立金沢文庫 企画展『仏教美術逍遥』(2014年8月21日~9月28日)

 金沢ゆかりの仏教美術(仏像、仏画、工芸品、文書類など)約50点を紹介。1階入口に、大善寺(横須賀市)の天王立像二体(平安時代)が展示されていた。両手を振り動かすようなポーズ。こういうのを「平泉式」というのか。確かに、むかし岩手県に見仏旅行に行ったとき、踊るような天王像をいくつも見た。ちなみに二天像は、持国天・多聞天(東大寺の中門式)か持国天・増長天(元興寺、興福寺の中門式)という組み合わせが多いそうだ。

 龍華寺の聖観音菩薩立像も平安時代の古仏だというが、素人には年代判定が難しい。龍華寺所蔵の『図録鈔』は、かなり大型で、塗り絵のように愛らしかった。龍華寺は、金沢文庫から金沢八景に歩く途中、何度か通り過ぎたことのあるお寺である。鎌倉時代の『刺繍諸尊集会像』など、たくさんの寺宝を持っていることをあらためて知った。

 ところで、金沢文庫の次回展、特別展『日向薬師』のポスターには、仏像の顔の部分に白紙を貼り付けて「中止となりました」のお知らせが掲示してあった。さきほど見たら、文庫のサイトも完全休止で「収蔵庫環境整備のため、臨時休館中」となっている。ツイッターの情報がもう少し詳しくて、「館内収蔵庫内の一部にカビが発生し、収蔵庫内の環境を改善するため、しばらく休館することになりました」とのこと。ううむ、ご苦労が思いやられる。

羽田空港ディスカバリーミュージアム 第15回企画展『永青文庫コレクション 平家物語と太平記の世界』(2014年9月13日~12月14日)

 この日は、いつもよりやや早い飛行機で札幌に戻るつもりだったのだが、羽田空港に行ってみると、機材繰り不調のため、出発が1時間ほど遅れるという。こういうときの時間つぶしのためにある(?)のがこの施設。昨年から気になっていたのだが、初めて入館してみた。現在は、江戸時代の絵入り本の「平家物語」と「太平記」、それに「平家物語」に取材した『一の谷合戦図屏風』と『屋島合戦図屏風』を展示。貰ったパンフレットによると、後期(10/28~)から、なんと菱田春草描く『平重盛』が展示されるそうだ。美術学校在学中の習作だというが、ぜひ見たい。

 入館無料。永青文庫は、もちろん自館のPR効果もねらっているのだろうが、いい仕事をしてくれていると思う。
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