〇清水潔『桶川ストーカー事件:遺言』(新潮文庫) 新潮社 2004.6
清水潔さんの名前を知ったのは、2015年10月、NTV系列の深夜枠で放送されたドキュメンタリー『南京事件 兵士たちの遺言』だった。放送前からSNSなどで注目が集まっていたが、深夜じゃ起きていられないだろうなあと思っていたら、ヘンな寝方をしてしまったので、たまたま起きていて見ることができた。元日本軍兵士の証言や当時の日記などの一次資料から、実際に何があったかに迫る内容だった。
硬派なジャーナリストだなと思っていたら、今度は、その清水さんの旧著『桶川ストーカー事件』『殺人犯はそこにいる』が面白いという声が、SNSで複数の人から聞こえてきた。そこで読んでみたのが本書。1999年10月、埼玉県のJR桶川駅前で、白昼、女子大生が刺殺される。当初は通り魔か?と疑われたが、著者は、被害者の友人への取材から、被害者が元交際相手の男に執拗につきまとわれていたことを知る。しかし、その男と、目撃された実行犯の特徴が一致しない。その男は「金で動く人間はいくらでもいる」と言っていた。この文明国家の日本で、そんなことがあり得るのか?
しかし、あったのだ。著者は、元交際相手の男の交友関係から、実行犯の男を割り出し、潜伏先に張り込んで、写真撮影に成功する。当時の著者は、写真雑誌「FOCUS(フォーカス)」に勤務する、カメラマン上がりの記者だった。FOCUS! 正直、びっくりした。同誌は1981年に創刊され、2001年に休刊した写真雑誌の草分けである。類似誌の「FRIDAY」や「FLASH」に比べれば、エロや芸能記事は少なかったけど、テレビや新聞などの「健全」なメディアが絶対に扱わない記事や写真を掲載し、物議をかもして上等、という路線の雑誌だった。正直、胡散臭い印象しか残っていない。そして、警察の「記者クラブ」に加盟していないから、警察の会見にも入れてもらえない。それでも著者は、人脈を使い、足を使って、真実に迫ってゆく。
取材に行き詰まると、どこからか協力者が現れることを著者は「幸運」と呼ぶ。しかし、その幸運は著者の執念が手繰り寄せたものだろう。殺されることを覚悟していた被害者は「遺言」を残しており、彼女の友人たちは、その「遺言」を必死で著者に手渡した。そう信じて、著者は犯人を追う。結局、殺害の実行犯は逮捕されたが、元交際相手の男は北海道の湖で遺体となって見つかり、自殺と判断された。事件はこれで終わらなかった。
被害者の友人たちは、はじめから「彼女は〇〇(元交際相手)と警察に殺された」と著者に訴えていた。その背景には、被害者が相談していた埼玉県警・上尾署のおそるべき無気力・無責任な捜査実態があった。「FOCUS」はこれを記事にし、テレビの報道番組「ザ・スクープ」が取り上げ、さらに国会でも警察庁長官に対する追及が行われた。最終的に、埼玉県警は過失を認めて謝罪会見を開き、関係者の処分が発表された。
この事件を機に「ストーカー規制法」が成立したというのは、ぼんやり認識していたが、私は事件の梗概をほとんど記憶していなかった。2002年と2003年に、この事件を題材にしたテレビドラマが放映されたというのも全く覚えていない。そのため、不謹慎ではあるけど、よくできた社会派のミステリーを読むような気持で本書を読んだ。しかし、事実は小説より奇なりで、こんな異常な犯人がいるんだなあ、人間にはあらゆる可能性があるのだなあ、と思った。そして、雑誌「FOCUS」に対する印象を少し修正した。
清水潔さんの名前を知ったのは、2015年10月、NTV系列の深夜枠で放送されたドキュメンタリー『南京事件 兵士たちの遺言』だった。放送前からSNSなどで注目が集まっていたが、深夜じゃ起きていられないだろうなあと思っていたら、ヘンな寝方をしてしまったので、たまたま起きていて見ることができた。元日本軍兵士の証言や当時の日記などの一次資料から、実際に何があったかに迫る内容だった。
硬派なジャーナリストだなと思っていたら、今度は、その清水さんの旧著『桶川ストーカー事件』『殺人犯はそこにいる』が面白いという声が、SNSで複数の人から聞こえてきた。そこで読んでみたのが本書。1999年10月、埼玉県のJR桶川駅前で、白昼、女子大生が刺殺される。当初は通り魔か?と疑われたが、著者は、被害者の友人への取材から、被害者が元交際相手の男に執拗につきまとわれていたことを知る。しかし、その男と、目撃された実行犯の特徴が一致しない。その男は「金で動く人間はいくらでもいる」と言っていた。この文明国家の日本で、そんなことがあり得るのか?
しかし、あったのだ。著者は、元交際相手の男の交友関係から、実行犯の男を割り出し、潜伏先に張り込んで、写真撮影に成功する。当時の著者は、写真雑誌「FOCUS(フォーカス)」に勤務する、カメラマン上がりの記者だった。FOCUS! 正直、びっくりした。同誌は1981年に創刊され、2001年に休刊した写真雑誌の草分けである。類似誌の「FRIDAY」や「FLASH」に比べれば、エロや芸能記事は少なかったけど、テレビや新聞などの「健全」なメディアが絶対に扱わない記事や写真を掲載し、物議をかもして上等、という路線の雑誌だった。正直、胡散臭い印象しか残っていない。そして、警察の「記者クラブ」に加盟していないから、警察の会見にも入れてもらえない。それでも著者は、人脈を使い、足を使って、真実に迫ってゆく。
取材に行き詰まると、どこからか協力者が現れることを著者は「幸運」と呼ぶ。しかし、その幸運は著者の執念が手繰り寄せたものだろう。殺されることを覚悟していた被害者は「遺言」を残しており、彼女の友人たちは、その「遺言」を必死で著者に手渡した。そう信じて、著者は犯人を追う。結局、殺害の実行犯は逮捕されたが、元交際相手の男は北海道の湖で遺体となって見つかり、自殺と判断された。事件はこれで終わらなかった。
被害者の友人たちは、はじめから「彼女は〇〇(元交際相手)と警察に殺された」と著者に訴えていた。その背景には、被害者が相談していた埼玉県警・上尾署のおそるべき無気力・無責任な捜査実態があった。「FOCUS」はこれを記事にし、テレビの報道番組「ザ・スクープ」が取り上げ、さらに国会でも警察庁長官に対する追及が行われた。最終的に、埼玉県警は過失を認めて謝罪会見を開き、関係者の処分が発表された。
この事件を機に「ストーカー規制法」が成立したというのは、ぼんやり認識していたが、私は事件の梗概をほとんど記憶していなかった。2002年と2003年に、この事件を題材にしたテレビドラマが放映されたというのも全く覚えていない。そのため、不謹慎ではあるけど、よくできた社会派のミステリーを読むような気持で本書を読んだ。しかし、事実は小説より奇なりで、こんな異常な犯人がいるんだなあ、人間にはあらゆる可能性があるのだなあ、と思った。そして、雑誌「FOCUS」に対する印象を少し修正した。