こまめに読んだ本や見た映画のあらすじやら良いセリフを覚え書きとしてメモしてますが、確かに自分の役には立ってます。「あのセリフなんだっけ?」「これによく似たエピソードが出てくる話がなかったっけ?」などと気になって、インターネットで検索してみると、かなりの確率で自分の書いたメモにヒットします。自分では気になるようなことでも他人はどうでもいいことって多いんですよね。だから、他人に頼らず、備忘録は自分で作らないと……。
それからもう1つ。内容やあらすじを忘れるどころか、読んだことすら忘れた作品もちらほら出てきて、自分のメモを確認して「あ、読んでたわ」と気づくことも出てきました。やだなあ。でも、メモをしているのでダブリは減りました……。
さて、2014年ももう終わろうとしています。とりあえず、今年読んで面白かったものを10作品。
『異世界から帰ったら江戸なのである』 左高例
現代日本から異世界に飛ばされ、傭兵稼業やらなにやらこなしているうちに歳も取り、やっと帰還できることになったのは95歳の時。ところがそのときには魔女や魔王とつるんで世界中から指名手配される身で、なんとか逃げ戻ったら江戸時代なのである。そんなウェブ小説発の物語。
享保の江戸の町で、はやらない蕎麦屋に居候しつつ、店の建て直しに奔走したり、道場破りをしてみたり、未亡人の妖怪絵師のヒモになったり……の時代小説風人情コメディ。蕎麦屋の父娘やら火盗改同心から魔女魔王まで絡んできても、とっちらかった雰囲気にならず、しっかりまとまっていて面白い作品です。
『ただし少女はレベル99』 汀こるもの
見慣れないコスチュームを身につけて、ペット動物をお供にしていて、ステッキみたいなものを手に怪異と戦っているけれど、出屋敷市子は魔法少女でもプリキュアでもない。今は引退しているけれど、ちょっとコミュ障だけれど、かつては日本の地を脅威から守護していた、やんごとなき中学生少女であった……というオカルト・アクション。若干コメディ風味かな。
連作短編集で、最後の作品がちょっとシュールというか、それまでこまめに顔を出していたクラスメイトの出番がほとんど無く、父親と妖怪がメインで話が進むのでオチと合わせて異色で、それに全体のイメージが引きずられてしまった感があります。
『VRMMOをカネの力で無双する』 鰤/牙
バーチャルゲーム世界での冒険譚だけれど、戻ってこられないデスゲームではないやつです。イメージ的には『千の剣の舞う空に』が近かったけれど、こちらは「時間+努力」vs「才能+課金」な話。それでいて真っ当な青春バトルアクション。
こういう話の場合、努力する者が正しく、お金で解決しようとするのはズルイとする話が多いですけれど、「お金は自分の才能の一部であり、だからそれをゲーム内で使って恥じることはない」という主人公の主張は清々しい正論です。自分の才覚で稼いだお金を趣味に使って何が悪い? 楽しみ方は人それぞれであって、否定するものではありませんです。
『東池袋ストレイキャッツ』 杉井光
引きこもり少年が深夜のゴミ捨て場で拾ったギターには、死んだロックミュージシャンの霊が取り憑いていた!……と言うところから始まる、池袋界隈を舞台にした青春音楽小説の連作短編集。
主人公がミュージシャンとしてやっていけるのか、そもそも高校を卒業できるのかどうかとか、いろいろあれやこれやをぶん投げて、あくまで東池袋のストリート・ミュージシャンの話に絞ってますので面白いけれど、主人公の未来はいろいろ不安です。そもそも引きこもりは解消したけれど、不登校は不登校のままだし、いろいろチャンスの女神の前髪はちらちらしてるけど、ちゃんと掴まえられるのかなあ。
『男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。』
男子高校生で売れっ子ライトノベル作家の主人公が、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められて意識を失うまでの走馬燈のような回想を通じて、いかに文章を書き始め、ストーリーやキャラクターを考え、賞に応募し、採用され、作品を書き続けていくかを描いたもの。その後の話も少しずつ語られていきますが、つまるところ衝動的に人の首を絞めて殺しかける少女も、それを甘んじて受け入れてしまう少年も同じように歪んでいて、自覚がない分、少年の方が重症です。
『約束の国』 カルロ・ゼン
崩壊した共和国の大統領が万策尽きて自決した……と思ったら、20年前の士官学校時代に戻っていることに気づきます。まだ共産主義の連邦国家がかろうじて体裁を保っていますが、このままだと民族主義による対立が表面化して内戦となり、やがて分裂していくつもの民族主義国家が生まれてくるのでしょう。
やり直しの機会を与えられた主人公は、まず自分の20年が誤りであったことを認めなければいけません。結局、連邦は崩壊してよりましな共和国を目指すのか、それとも薄氷を踏んで民族融和のお題目を掲げる連邦制を維持するのか、先の展開から目が離せません。
『八男って、それはないでしょう!』 Y.A
ウェブ小説発で、異世界の下級貴族の八男として転生した商社マンの冒険譚。
幸いにも桁外れの魔力は持っていたので、商社マン時代の経験を活かしつつ頭の固い父親や兄から隠れて自立のために力を付けていきます。
ライトなファンタジーではあるけれど、トラブルの根幹はたいてい中世の封建的な社会システムにあるし、ヒロインたちも中世的なリアル思考で男女関係を割り切っているのも特色。
『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』 愛七ひろ
ウェブ小説発で、異世界にゲームのスキルを身につけて転生したプログラマーの冒険譚。
初っぱなに(デバッグでとりあえず取り付けたコマンドのせいで)大幅にスキルアップしてチート状態になったものの、まずは旅商人から地味に異世界ライフをスタートするつもりが、いきなり魔族の出現に巻き込まれ……。
ウェブ版に大きく手を入れて、書籍版は助けられる人は助けて……という、波瀾万丈の冒険とゆるゆるな異世界ライフが上手いことミックスしてます。
『転生したらスライムだった件』 伏瀬
ウェブ小説発で、異世界にスライムとして転生したゼネコン社員だった主人公の冒険譚。
捕食による能力コピーのスキルで進化して、さまざまなモンスターを配下に収め、人間やドワーフの勢力とも友好状態となり、敵対してくる分からず屋の勢力は粉砕しながら、魔王同士の勢力争いに巻き込まれていきます。
ぷるぷるぷる……ぼく、わるいスライムじゃないよ……のくだりに「ドラクエは偉大だ」という思いしきり。
『無職転生』
ウェブ小説発で、異世界の元冒険者家族の長男として転生した元ニートの冒険譚。
前世は引きこもりだったので特別な知識はないけれど、親の葬式にも出ないでゲームとエロ動画三昧だった自分を反省し、幸いにも魔力はそれなりにあったので、今度は真面目に努力しようとするスタンス。
いろいろ苦労して、やっと目処が付いたと思った途端に大狂わせのどんでん返しで次巻に続く……という波瀾万丈の展開。
今年はウェブ発の作品をよく読むようになりました。ここ数年で実際に書店の専用棚が増え、新レーベルも増えましたし、一頃のようにとりあえずウェブで人気の作品をまとめて本にしました、何の手も加えていません、イラストも装丁もおざなりです……という質の悪いものは減りました。
ちゃんと書籍化に合わせてウェブ連載時のものに加筆したり修正したりして、連載時の決まり台詞で重複している部分は削除し、語り足りない部分は加筆して本として読めるようにしたものが増えました。中身が丸っきり変わったものさえあります。装丁も、エンターブレインなどは1冊1冊内容に合わせた凝った装丁にしていて、しかもお値段は他社より安めとお得な出来映えです。
そうなるとウェブで何万ビューというのは、そこらの新人賞以上に作品の質を保証するステイタスになります。
確かに、転生か召喚か転位で現代日本の若者がファンタジー世界に行き、そこで日本ではあたりまえに手に入る知識や技能が武器となり、さらには魔法も人より使えたりして大活躍……というのが1つの類型になっていますが、それは時代小説だってミステリだって固有名詞を省いてあらすじだけ語れば似たようなものですし、その中でいろいろ語り口が変わるのを愉しむものではないでしょうか。
でも、舞台をファンタジー世界にすることで、複数ヒロインを主人公が独り占めしてもなんの問題もなくなる……というのは偉大な発見だと思います。
他に面白かったものを幾つかあげると、
『少女は鋼のコルセットを身に纏う』 ケイディ・クロス
肉弾戦が得意な二重人格のメイドさんが青年富豪に拾われるのだけれど、彼は両親の財産と発明品を使って異能の仲間と協力して悪と戦っていた……という、X-MENとバットマンとファンタスティックフォーを足したようなアメコミ調スチームパンク。
肉体を改造されてしまった悲しみとか、クールな美形悪役の恋のライバルっぷりとか、見所はいろいろ。
『ヒカルが地球にいたころ……』 野村美月
これまでさんざんに泣かせて笑わせてもらった、死んでしまったプレイボーイの少年と、これまでガールフレンドどころか友達も懐いてくれるペットもいなかった少年との友情を軸にしたミステリも、全10巻できれいに完結。続く新シリーズ、吸血鬼になってしまった少年と巨乳長身の演劇少女の物語『吸血鬼になったキミは永遠の愛をはじめる』も好調な滑り出しです。
『ノーゲーム・ノーライフ』 榎宮祐
引きこもってゲームだけに生きてきた兄妹が異世界の神に目を付けられ、生存競争から国家間戦争までがチェスやカードゲームなどのゲームの勝敗で決定され、またその結果が世界法則として強制力を持つ世界に召喚され、そこで絶対神に打ち勝つべくさまざまなゲームに挑んでいく……。
発表されたのはちょい前だけれど、今年のアニメ化が見事だったので、こちらで記憶。
『Re:ゼロから始める異世界生活』 長月達平
よくある……というか、昨今は新刊の2冊に1冊はそうじゃないかという「異世界転生」もの。ただし、よくある「ゲームのときのデータを引き継いでいるので能力値やスキルがすごい」とか「ストーリーはあらかじめ分かっているので対策が立てられる」という話ではなく、ただ「死んでも(いつの間にか)セーブされているところから復活する」という死に戻りだけが能力。
だから何度も死ぬし、死ぬのは痛いし、せっかく親しくなった人が殺されるのは辛いし、自分は復活して記憶が残っていても相手の記憶はなくて人間関係も白紙に戻るので(主観では)さっきまで親しかった人に憎まれたり殺されたりすることもあり、それでも自分が関わった人にはみんな幸せになって欲しいとゼロからのリターンに果敢に挑む青年の物語。
さんざん苦しい目に遭っているので、そろそろもうちょい成長して欲しい。
このあたりかな。
さあ、年越しの準備を始めましょうか。