
それゆえにゼロ年代には、ライトノベル(=ジュブナイル小説)でデビューした作家の一般文芸への移動が意識されるようになっていた。それは有川浩の出版物に象徴される。
有川浩は『塩の街』で第10回電撃ゲーム小説大賞を受賞しデビューした。この作品はライトノベルの代表レーベルと認識されている電撃文庫でアニメ絵が付けられて刊行された。この『塩の街』(2004)は突如出現した怪獣と戦う陸上自衛隊の活躍を中心に語られており、空に出現した怪獣と戦う航空自衛隊が主役の『空の中』(2004)、海から現れた怪獣と海上自衛隊のクルーが中心となる『海の底』(2005)と合わせて「自衛隊三部作」と呼ばれるようになるが、『空の中』からは電撃文庫ではなく、アニメ絵を廃した装丁の一般文芸として刊行された。
有川浩はその後『図書館戦争』(2006)シリーズなど、少女マンガ誌でコミカライズされたりアニメ化される作品を発表していくが、主人公は成人であり、次第に恋愛色の強い、働く男女を主役にした作品に軸を移すようになっていった。