付け焼き刃の覚え書き

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「ライトノベルから見た少女/少年小説史」 大橋祟行

2020-12-15 | エッセー・人文・科学
 明治の講談からまんがやアニメーションにまで手を広げた上で、少年小説・少女小説の変遷について語るという意欲作で、資料的価値はたっぷり充分。
 ただし、ニフティ神北起源(ライトノベル=パッケージ説)に言及しながらも、結局、それが直接広まったわけじゃないと一蹴し、さまざまな論者がイデオロギーや何かでそれぞれの定義で論じているだけ。どのような過程で流通し定着したか、どのように用いられてきたか考えなければ意味がないといい、「『ライトノベル』という枠組みで語ることでは、もはや何も論じることができないということを示している」と言いつつ、ライトノベル=ジャンル説に固執し、最終的にはキャラクター小説に落ち着いてます。
 スタート地点で間違ってるんじゃないかなあ。
 はっきり定義されないまま用語ばかりが先行していると自分で言ってるのに、そのあやふやな言葉がどう広まって定着したからって、それをもとに判断したらやっぱりあやふやなままじゃないですか。ちゃんと仕切り直して、例外のない定義をすることで再評価していかないと、砂上の楼閣から脱却できません。
 そもそも、ここまで(携帯小説まで含めて)手広く網羅して語っているのに、あえて「小説家になろう」に代表されるウェブ小説についてはまったく触れず、そこで発表される作品の4割、書籍化されたものの3割くらいを占める、少年小説・少女小説でもジュブナイルでもヤングアダルトでもない作品群を無視してます。なので、タイトルからいえば本書は「少女/少年小説史」を語りたいという産物であって、「ライトノベル」は単なる枕詞に過ぎないのです。
 なので、明治以降の「少女/少年小説史」を知りたければ申し分のない1冊。最近までの「ライトノベル」について知りたいならば、なんとなく漠然としていてもの足りない1冊です。

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