付け焼き刃の覚え書き

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★サラリーマン小説から企業エンタテイメントへ

2020-11-03 | 雑談・覚え書き
 戦前のユーモア小説の流れで、戦後になってサラリーマン小説と呼ばれる娯楽小説が1950年代になると発表されるようになった。その代表は、源氏鶏太『三等重役』(1951)である。『三等重役』は前社長の追放でいきなり社長昇格したサラリーマンの奮闘譚だが、このように会社組織の中で、創業者一族でも何でもないサラリーマンが出世したり、恋愛に花を咲かせるのがサラリーマン小説の醍醐味だった。
 そんな中から単なる大衆娯楽の枠を超え、企業の経済活動や経営者の姿が描かれる経済小説が生まれ始めた。スーパーマーケットのチェーンを生み出したダイエー創業者の中内功をモデルにした城山三郎『価格破壊』(1969)などである。日本の高度経済成長とともに、こうした企業間の競争を扱う経済小説や企業内での出世レースを扱うサラリーマン小説は増えていった。
 この流れは青年コミック誌にまで拡がり、サラリーマン男性の出世と女性遍歴といえる弘兼憲史『課長島耕作』(1983)や、元暴走族が大企業で出世していく『サラリーマン金太郎』(1994)などが登場する。
 しかし、その流れに反して1991年からバブル景気が崩壊し始め、労働者派遣法改正、自民党・小泉政権による規制改革が始まり、そして2009年には民主党が政権奪取。「コンクリートから人へ」を打ち出し、公共事業への投資を抑制し始める。これが何を意味するかと言えば、すなわち終身雇用、年功序列、賃金スライドといった、それまで日本式経営と言われていたシステムの崩壊である。
 つまり、会社はもはや従業員を家族とは思っていないし、従業員にとっても会社は既に定年までの拠り所ではなくなってしまったのだ。

 池井戸潤の『オレたちバブル入行組』(2003)から始まる半沢直樹シリーズや『下町ロケット』(2011)は、サラリーマン小説と経済小説を融合させた企業エンターテインメント小説というべきものであったが、日本の経済成長期は終焉を迎えており、会社は絶対の忠誠心の対象でもなく、団塊世代の人々が景気悪化の後始末をする物語となっていた。
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