付け焼き刃の覚え書き

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「大統領の晩餐」 小林信彦

2007-09-22 | ミステリー・推理小説
「オヨヨ大統領って何ですか、ときかれたら、オヨヨ大統領だ、と答えるしかないんだよ」

 『さらば宇宙戦艦ヤマト』に限らず、当時はすごく面白く感じられたけれど、今、誰かに勧めてその面白さを解ってもらえないだろう作品は多いものです。ま、生ものですからね。
 そんな中から、小林信彦の小説、オヨヨ大統領シリーズを挙げてみましょう。ドタバタ活劇と喜劇の要素をベースに、ハードボイルドとかミステリーとか「テレビ」のパロディをぶち込んだもので、1970年代に発表され、ジュブナイル版が3冊に大人向けが5冊。
 自分がいちばん好きなのは『大統領の晩餐』。なんといっても見返しの煽り文句が良い。

「猫がエビのシッポを食べるとき、大統領の陰謀はくずれる……」

 意味不明でバカらしく、でもなんとなくカッコイイ。
 でも今の中高生や大学生に読ませても、その面白さは理解してもらえないだろう。いや、10代20代でこれを理解できるのがいたら……逆に奇異な目で見ちゃうね。だって、笑えるということは、ネタが解るか思い当たる部分があるってことだから。
 だいたい、このシリーズはストーリーの骨格こそ、麻薬とかナチスが隠匿した美術品とかをめぐるスパイ劇でありピカレスク小説なんだけれど(この作品の場合、公害対策事務所を盗聴したデータの争奪戦)、それを小林旭や宍戸錠や日活アクション映画や鮎川哲也や江戸川乱歩やコント55号や牧伸二やシャボン玉ホリデーやラルフ・ネーダーや公害問題やマルクス兄弟やアボットとコステロやアンドリュー・シスターズや木枯らし紋次郎や横浜中華街やエノケンなんかで肉付けしてるわけで、相対的にはそっち方面のウンチクとかパロディの方が大きいんだから……。
 たとえば、毛語録を肌身離さず、「毛首席語録……私、すべての犯罪にこれで立ち向かいます」という中国人警官、楊警部補だって、今となっては面白さが伝わるかどうか。これが『源氏物語』とか『枕草子』だったら当時の文化や風俗について注釈をつければいいだろうけれど、基本的にはコメディ作品なので「この話のどこが面白いかというと……」などと解説つけても面白くないもんね。
 いや、今でも好きですよ。面白いもん。キャラクターでいうと、怪人オヨヨ大統領そのものはあまり魅力的ではないな。ファントマのような恐怖の犯罪者と比べれば庶民的すぎるし、怪人二十面相のようなカリスマにも不足している。それよりは、鬼貫警部と丹羽刑事のパロディである鬼面警部と旦那刑事とか、老獪な(怪人二十面相あらため)怪人千面鬼とか、ジャパンテレビの辣腕プロデューサー・細井忠邦の方が魅力的だと思いませんか?
 同時代性に依存していて、読者との共通認識を暗黙の前提条件にしているという意味では、今のライトノベル作品のいろいろとも共通しています。ただ、日活アクションや鮎川ミステリの代わりに、『ウィザードリイ』のようなパソコンRPGや人気アイドルが元になっているくらいの違いで(それが「通俗」ってことでしょうか)。

 当然のように70年代に刊行された角川文庫版は絶版で、90年代のちくま文庫版も壊滅。でも、こういう本ってアマゾンではたいてい1円+送料というのが相場なのに、ちゃんと定価並みの価格設定されているということは、それなりに今でも売れてるんじゃないかと思いました。

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