付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

★ウェブ版と書籍版の差

2018-09-01 | 雑談・覚え書き
 ウェブなどで連載していたものが書籍化される際に、ウェブで読んでいた人にも買ってもらえるよう、おまけ小説をつけたり、内容を少し変えたり、いろいろ工夫することがあります。

1)良くも悪くもウェブ版との違いはない。
 最低限の誤字脱字の直しくらいで、ほぼそのまま。ウェブ版の読者は「あの作品が書籍化された!」とお祝儀半分に購入したりする。

『坂の上の雲』 司馬遼太郎
 元々は新聞連載小説。なので、書籍としてまとめ読みすると、各所に「それは先々週分で書いてたよね」というような人物紹介や状況説明の文章が何度も出てくるあたり、ウェブ小説の書籍化と似ています。直せや。


2)ウェブ版の文章にそこそこ手を加えている。
 ウェブ版の文章の言い回しがおかしかったり、難しい漢字を使いすぎていたりするのを手直しし、誤字脱字を直した上で、描写が足りなければ付け加え、回りくどければ端折る。イラストや図版が充実していればなお良し。

『本好きの下剋上』 香月美夜
 基本的にはウェブ版の文章のままで、読者リクエストの書き下ろし短編を付け、ストーリー進行に合わせた地図を作成。イラストはウェブ連載分を最終回までしっかり読み込んだ上で絵として見たいシーンを構図の難しさに負けずに描いてくるという書籍化の理想形態。スタッフに作品が愛されているなあと思います。


3)ウェブ版とはまったくの別物。
 ウェブ版の読者にも初見で読んでもらおうというのか、編集者が流行りの作品に寄せようと指示したのか不明だけれど、いろいろ違ってウェブ版をサンプル代わりに読んでいると涙目。

『ネクストライフ』 相野仁
 物語のスタート位置は同じで、配置されているキャラクターやイベントは同じなのに、ウェブ版では左回りに動いていた主人公が今度は右回りに動き始めた……みたいにルート変更したためストーリーは別物。これはこれで意外性があって面白いです。

『10年ごしの引きニートを辞めて外出したら』 坂東太郎
 異世界に転移した主人公と、彼を現代日本から支援する半ば野次馬な掲示板住人たちの群像劇で、それぞれの冒険を描いたのがウェブ版の特色。未知の森を彷徨うのも冒険だけど、対人恐怖症のひきこもりが夜中にコンビニに行けるようになるのも冒険だという特異な視点が面白かったけれど、書籍版は掲示板住人たちのプライベートなそれぞれの冒険部分をばっさりカットし、異世界転移組に若い女性を追加した結果、どこにでもある異世界開拓ものになりました。

『出遅れテイマーのその日暮らし』 棚架ユウ
 バーチャルリアリティのゲーム世界で、テイマーの主人公がかわいいモンスターを使役して大活躍する話。なぜか最初の書籍版では新キャラの美少女を冒頭にねじ込み、オリジナルのエピソードを挿入したためモンスターな従魔たちの出番が激減。ネットでも悪評ふんぷん。幸か不幸か出版社が撤退して別会社から再リリースしたときには、変なオリジナルキャラはおらず、かわいい従魔たちが大暴れしていました。


 書籍版で手を入れましたという場合、往々にして作者の好きなキャラの出番がやたら増えて話が冗長になったり、ウェブ版の見所を削り取るような改編が見られるので、買う方は毎回が冒険。まだ「人気があるから」とウェブ連載分をそのまま書籍に流し込むのはマシな方で、おかしな編集者の指導があったのか、きちんとした助言がなかったのか知らないけれど、流行りの型にはめようとしておかしくなるパターンも散見。ちゃんと作品の長所を伸ばして欲しいな。角を矯めて牛を殺す編集者はいらない。
 そういう意味で、巻末に担当編集者の名前がきちんと載っているアルファポリスとかの評価が、最近高くなってます。個人的に。
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