付け焼き刃の覚え書き

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「黄石公の犬~闇狩り師」 夢枕獏

2009-08-06 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「神も、美も、その存在形式は似ているってことだよ」
 伝奇バイオレンス小説の魁け、夢枕獏の『闇狩り師』シリーズの新刊です。

 一度始まってしまった公共事業を止めさせることは、どんなに理があっても難しい。それがさまざまな利権で暴力団と連んでしまえばなおさらである。
 そのダム工事も典型的な例であった。建設目的が取水から発電に変わり、さらに治水へと変わった。そしてダム工事に反対する人々が死んだり、放火されたりするようになった。
 妖物封じを稼業とする九十九乱蔵は、反対派に妨害工作を仕掛ける推進派議員や建設会社社長を呪殺しようとしている母親を止めてほしいと依頼を受けるのだが……。

 他に短編『媼』を収録。
 身長2m、体重145キロの好漢といわれる九十九乱蔵ですが、この人は好漢なんだと納得するには人の世界から半歩足を踏み外している気がします。確かに、人並みの情はあるけれど決して熱血漢ということはなく、悪人であろうと妖物に狙われていれば守ってやるし、それで死んだところでさほど気にするわけでもない。このあたりの淡々とした態度が、人も妖物も同じ世界の一部に過ぎないという達観を示していて独特の魅力に通じている気がします。
 本筋とまったく関係ない釣りに関するウンチクにかなりの紙幅を費やしているあたり、さすが夢枕獏と思いました。『黄石公の犬』のオチも予想の斜め上をいっていて脱帽。
 この巻からでも愉しめますので、一読の価値有り……というか、まともに『闇狩り師』を読んだのはこれが初めてかも(前に読んだのは来留間慎一の『闇の邂逅』だったりして)。

【黄石公の犬】【闇狩り師】【夢枕獏】【寺田克也】

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