付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

★お仕事ミステリ系ライトノベル

2020-11-15 | 雑談・覚え書き
 この10年ほど、具体的に言えばビブリア古書堂の事件手帖(2011)のヒットあたりから、喫茶店とか古書店とか雑貨屋とかの主人や店番がちょっとした日常系の謎を解くミステリを、ちょっと落ち着いたタッチのマンガ風イラストで売り出すことが増えたのです。その代表が『珈琲店タレーランの事件簿』(2012)となります。
 他には骨董品店で客の依頼をこなしたり預かり品の真贋鑑定したりする『京都寺町三条のホームズ』(2015)。覧強記の天才女医が患者にかかわる謎を解く天久鷹央の推理カルテ(2015)。美貌の宝石商と大学生のコンビが宝石に潜む謎を解く『宝石商リチャード氏の謎鑑定』(2015)。大学の教授が化学の力で謎解きする『化学探偵Mr.キュリー』(2013)あたりが売上げ上位となります。
 このあたりまで来ると、もう一般的にはライトノベルとは見てもらえないかもしれませんし、たいてい売り場も別になりますが、ライトノベルコーナーに面陳でポンと置かれても、表紙イラストだけでは区別できそうにありません。
 つまり、こういう装丁にした、軽く読めそうなミステリは売れる!と出版サイドが購読者層を想定して判断しているということですね。
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★お仕事小説系ライトノベル

2020-11-14 | 雑談・覚え書き
 一般にライトノベルと呼ばれている文芸作品群には、従来のジュブナイルの延長である少年少女が主人公であるものと、かつてのサラリーマン夢小説の変化系が混在しているという論に従って、もうちょいリストを見てみることとした。
 お仕事小説系ライトノベルなんてものを想定したい。現代社会もしくは異世界でお仕事をすることがメインテーマのものだ。ちなみに、魔王退治や兵士や冒険者の仕事は含まない。技術者・職人・商売人・料理人あたりだろうか。完全な勤め人が主役の話でラノベ系は多くなくて、『これは経費で落ちません!~経理部の森若さん~』(2016)みたいな技能職を主人公にした社内ミステリのようなものなものか物語式のノウハウ本しかない。領地経営も別カテゴリだろう。お仕事にしてしまったら、『太閤記』『三国志』だってお仕事小説だ。ライトノベルはプレジデントじゃない。
 「書籍ランキングデータベース」を見ると、シリーズ累計部数50万部以上のライトノベル295タイトルのうち、お仕事小説っぽいのは18作。全体の1割以下で決して多くはない。
 書籍売上げでの筆頭が狼と香辛料(2006)、アニメ化もされた旅商人の物語。続いて異世界居酒屋「のぶ」(2012)、異世界とつながってしまった料理屋が平然と営業を続ける話で、『美味しんぼ』(1983)みたいな現実社会で現代人相手に商売するより、相手が当たり前の料理で大げさに驚いてくれるのが特色。これも一種の格差チートだね。そして、珈琲店タレーランの事件簿(2012)が登場します。シリーズ累計部数でいうと93番目くらいに。
 店頭で文芸棚を見ていると、カフェや古道具屋でかっこいい主人やかわいい店員や妖怪が活躍するミステリ系文芸ばかりになっているように見えるけど、絶対量ではまだまだ数字は小さそう。
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★比率は高いが売上げではまだまだ

2020-11-13 | 雑談・覚え書き
 文芸全体だと埋没しちゃうので、対象をライトノベル・ライト文芸に絞ってみた。
 比較対象のウェブ小説が「小説家になろう」の総合累計ランキングなので、書籍については「書籍ランキングデータベース」による、ライトノベル関連書籍の累計発行部数を見ることにして、とりあえず、コミックや電子書籍も含めたシリーズ累計50万部以上に絞って集計してみた。
 対象となったのは全295タイトル。そのうち、主人公が20歳以上の作品は88タイトル。ウェブだけで見るより比率は下がっているが、それでもパーセンテージで考えると、まだ30%という数字に留まっている。そして、このうち初出がウェブであるものは、おおよそ55タイトル。ただし、これには主人公が何万歳という魔王とか龍とか人外、また成人していても学生は含めていない。
 ただし、それでもランキング上位陣は、少年少女の成長譚あるいはチート主人公の無双話と、ジュブナイル系ライトノベルの圧勝である。
 1位の『とあるシリーズ』(2004)が3100万部突破。2位のソードアート・オンライン(2002)が2600万部。3位になって初めて転生したらスライムだった件(2013)が登場し、2000万部と『涼宮ハルヒシリーズ』(2003)やスレイヤーズ(1990)と型を並べている。これに続くのが魔法科高校の劣等生(2008)、『魔術士オーフェン』(1994)、『十二国記』(1991)、ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか(2013)、フルメタル・パニック!(1998)と、ある程度を予想通りのラインナップとなっている。
 このランキングに再び「おっさんの夢小説」が戻ってくるのは、21位のオーバーロード(2012)を待つことになる。
 おっさん小説はたくさん書かれていて、いっぱい読まれてはいても、まだそんなに買ってもらっていないのである。
(2020/10 集計)
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★ウェブのランキングは書籍の売上高じゃない

2020-11-12 | 雑談・覚え書き
 統計的に見て、ウェブ小説の4割くらいがジュブナイルとはちょっと違うということになった。おっさんやら少女になったおっさん、はたまた悪役令嬢になったおばさんが主役の物語を少年少女向きと言うには無理があると判断したからだ。
 しかし、ウェブで人気があったからといって、書籍になったらどうだろう? ウェブで人気の作品は片っ端から青田買いで書籍化されているけれど、ウェブの人気と書籍の人気は連動するものなのか?
 結論から言うと違う。
 そもそも、2019年年間ベストセラー(日販調べ)だと、ライトノベルで10位以内にランキング入りしてるのは単行本フィクション部門で転生したらスライムだった件(14)(8位)と転生したらスライムだった件(15)(9位)、文庫部門で『白銀の墟 玄の月3 十二国記』(5位)、コミック部門で『転生したらスライムだった件(10)』(10位)のみという結果に。
 とりあえず、文芸作品全部ひっくるめちゃうと個々のライトノベルはそんなに強くないのだ。
 そんな中で食らいついているのが「転生したらスライムだった件」。アニメのできも良かったし、(スピンオフや島耕作とのコラボ含めた)コミックとかで横に広がっているからなあ……。スライムだけに粘っこく。(でも2020年は鬼滅で一色でしょう)
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「宇宙へ(下)」 メアリ・ロビネット・コワル

2020-11-11 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「宇宙計画が安全であることを証明したければ、ロケットが女性を乗せられるほど安全であることを誇示すべきなのよ」
 エルマ・ヨークは逆境をきっかけへと転じるべきと論じた。

 大きな事故も起きるが、宇宙開発を止めるわけにはいかない。地球環境は刻々と悪化し、食糧不足が進行し、暴動やテロが起きるようになっていたのだ……。

 女たちは翔びたい。
 話としては、確かに「巨大隕石落下から始まる、人類脱出計画としての宇宙開発の物語」なんだけれど、『遙かなる星』や『デイヴィッド王の宇宙船』のように技術開発の難しさや面白さ、宇宙へ向ける貪欲さみたいなものは語られません。
 結局、メインテーマは「女性と黒人の地位向上」なんですね。つまりは朝ドラ。NHKの朝ドラで戦争が取り上げられようと、それは主人公である女性が夢に向かって進むための障害としての背景に過ぎません。この話における隕石落下も宇宙計画も同じなのです。

【宇宙へ(下)】【メアリ・ロビネット・コワル】【ハヤカワ文庫SF】【改編歴史】【宇宙開発SF】【気候変動】【レディ・アストロノート・クラブ】【公聴会】【フォン・ブラウン】【ナイト・ウィッチーズ】【骨粗鬆症】
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★スローライフって何だ?

2020-11-10 | 雑談・覚え書き
 だいたいスローライフという言葉が広まってきたのは21世紀になってから。ウィキペディアを見たりしてみたけれど定義は曖昧です。
 結局、高度経済成長期に行け行けドンドンでやってきて、バブル景気で調子に乗っていていたのがバブル崩壊からリーマンショックの舵取りに失敗しての景気後退。今更ゼロから再出発したくはないけれど既得権益も手放したくない団塊の世代が、自分たちの悠々自適な老後生活と、若い世代への景気を悪化させたままにした不満そらしに便利に使った言葉に思えて仕方がない。がむしゃらに働いても仕方がない。身の丈に合った暮らしでのんびりしましょう……と。
 そんな個人の感想はともかく、きっかけになったのは紀行文学『南仏プロヴアンスの12か月』(1989)が世界的なベストセラーになったあたり。南仏が気に入って移住した英国人作家の日々の生活の物語です。
 自宅を手に入れ改造し、地元の人々との交流、農作業、家庭料理やレストランを楽しむ毎日……スローライフの定義はないけれど、今の異世界スローライフものの要素はすべて詰まってます。
 のんびり人生を楽しもうということだけれど、異世界ものでスローライフしようというと当然、現代社会以上に財力だか権力だか武力がないとできないわけで、異世界ファンタジーでスローライフをする話というと、いろいろ陰謀やら闘争に巻き込まれてせわしかったり、波瀾万丈になったりしていて全然スローライフでなかったりします。もしくは本当におだやかな田舎の日々が続いていて、読んでいてまったく物足りなかったり。
 このバランスがいちばん巧くとれているのは『異世界のんびり農家』(2016)かな。主人公は本当に田舎でのんびり農家の仕事をしているだけなんだけれど、そのポテンシャルに周囲が恐れおののき右往左往する対比が面白いのよ。
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「宇宙へ(上)」 メアリ・ロビネット・コワル

2020-11-10 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「結婚もまた、人生における"以前"と"以後"の境目なのですから。わたしたちは日々、たくさんの境目に遭遇しています--たんにそれと気づいていないだけで。境目自体は問題ではありません。これからもつねに、"以前"と"以後"はあるでしょう。問題は、その境目を越えたとき、自分がどう対処するかなのです」
 ユダヤ教ラビの説法。

 冷戦下の1952年。ワシントンD.C.近海に巨大隕石が突如落下した。上院下院ともに議会中であり、合衆国の政治中枢は大統領諸共壊滅してしまう。難民が何十万人も発生する中、たまたま地方にいた農務長官チャールズ・F・ブラナンが大統領代行に昇格し、欧州からはアイゼンハワー将軍が帰国の途につく。
 しかし、その頃、第二次大戦に従軍した元パイロットで数学の博士号を持つエルマは、この隕石落下によって地球の気候が変動し、人間が棲める環境ではなくなっていくことを計算から導き出していた……。

 1952年の隕石落下による環境の激変から逃れるため、人類規模で進められる宇宙開発を、まだ社会的地位が低く、能力があっても認められることがなかった女性や黒人たちの姿を通じて描いていく物語。
 テーマ的に上巻は「大災害」「宇宙開発」より「女性解放運動」がメイン。宇宙飛行士には飛行経験が十分にあって、なおかつ小柄が条件と言いつつ、条件を満たす女性飛行士たちを無視して男性飛行士の中から適格者を探して回る滑稽さ。
 ときおり場面転換時に挟みこまれる濡れ場が唐突に感じます。うん。ドラマ的です。

【宇宙へ(上)】【メアリ・ロビネット・コワル】【ハヤカワ文庫SF】【改編歴史】【宇宙開発SF】【気候変動】【生理痛】【WASP】【婦人参政権運動】【ブラッドベリ】【テレビショー】【Watch Mr. Wizard (1954)】
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★誰も出世レースに勝とうとは思わない

2020-11-09 | 雑談・覚え書き
 念を入れてみよう。「小説家になろう」の総合ランキングの累計順位を200位までチェックするようにしてみた。
 数え間違いや解釈違いがあるかもしれないが、「小説家になろう」総合ランキング(累計)の200位以内の作品に、「不遇な成人主人公(以下「大人」)が転生・召喚・その他の理由で環境が変わり、再スタートして幸せになろうとする」作品は107タイトルであった。
 しかし、その環境変化後の目標あるいは成功を評価する基準には、「最初に所属していた組織での栄達」は含まれない。異世界に転生・召喚されず、あくまで現代社会で幸せな生活をつかむ話にしても、それは転職や独立によるものでしかなく、かつてのサラリーマン小説のように「ライバルたちに打ち勝って、会社内で立身出世を果たして異性にモテる」ようなルートは存在しない。
 彼ら「大人」にとっての成功とは、「商人や職人として独立して成功する」「冒険者や勇者・聖者として世界を救って名声を得る」「気のあった家族や仲間と、誰にも邪魔されないスローライフを満喫する」だ。
 もう誰も会社に帰属意識を持っていないのだ。

 なお、この集計では「オーバーロード」前後編は合わせて1タイトル扱いなので、正しくは108タイトル。また、20歳以上であっても学生、および明確に20歳以上であるか社会人相当であるという言及のない作品は除いている。全般に、「乙女ゲー」「エロゲー」と称される、ゲームの世界、あるいはシチュエーションがゲームときわめて酷似している世界に転生する作品においては、主人公の年齢のみならず、もともとの職業や前世の記憶等が明示されているものは少なく、多くがゲームのシステムやシナリオに関する知識のみを継承していることが多い。
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★ライトノベルのアニメ化

2020-11-08 | 雑談・覚え書き
 ランキングに名前の挙がった作品のほとんどは、書籍化だけではなくアニメ化までされている。
 勇者として異世界召喚された大学生が裏切られながらも世界を救う、アネコユサギ『盾の勇者の成り上がり』(2012)は2019年。スライムに転生してモンスターも人間も共存できる国を作ろうとする、伏瀬『転生したらスライムだった件』(2013)は2018年。異世界に放り出されたプログラマーがチートな能力で異世界を食べ歩く、愛七ひろ『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』(2013)も同じく2018年。さらに、貧乏貴族の末っ子に転生した男が成り上がる、Y.A『八男って、それはないでしょう!』(2013)、本好きの女性が街に本のない世界に転生する、香月美夜『本好きの下剋上』(2013)はどちらも2020年にアニメ化。Roy『神達に拾われた男』(2015)も同じく2020年秋予定となっている。
 唯一、ひよこのケーキ『謙虚、堅実をモットーに生きております!』(2013)だけはアニメ化やコミカライズのみならず書籍化すらされていないが、これは少女マンガの悪役令嬢に転生した元OLが主役の学園コメディだ。これが今の悪役令嬢もの転生小説の原点となっている。
 このあたりで、従来の主人公を本当のティーンエイジャーにした作品との傾向の違いも見えて気がする。
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★ランキングと物語の傾向

2020-11-07 | 雑談・覚え書き
 では、本当にティーンエイジャー以外が主役の作品は増えているのだろうか?
 ここで、小説投稿サイドの代表である「小説家になろう」の人気ランキングを見てみよう。日間や週間ランキングは変動が大きく、ジャンルによっても読者数が違うので、2020年10月の総合ジャンルの累計ランキングが対象だ。(2020/10/13)

順位/著者/タイトル/初掲載/初出時主人公年齢
①伏瀬 『転生したらスライムだった件』(2013)37歳
②江口連 『とんでもスキルで異世界放浪メシ』(2016)27歳
③白米良 『ありふれた職業で世界最強』(2013)17歳
④理不尽な孫の手 『無職転生~異世界行ったら本気だす~』(2012)34歳
⑤愛七ひろ 『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』(2013)29歳
⑥長月達平 『Re:ゼロから始める異世界生活』(2012)17歳
⑦逢沢大介 『陰の実力者になりたくて!』(2018)18歳
⑧Y.A 『八男って、それはないでしょう!』(2013)25歳
⑨ハム男 『ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~』(2019)25歳
⑩FUNA 『私、能力は平均値でって言ったよね!』(2016)18歳

⑪香月美夜 『本好きの下剋上』(2013)22歳
⑫月島秀一 『一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた』(2019)15歳
⑬内藤騎之介 『異世界のんびり農家』(2016)39歳
⑭馬場翁 『蜘蛛ですが、なにか?』(2015)高校生?
⑮アネコユサギ 『盾の勇者の成り上がり』(2012)20歳
⑯ひよこのケーキ 『謙虚、堅実をモットーに生きております!』(2013)20歳?
⑰蘇我捨恥 『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』(2011)17歳
⑱日向夏 『薬屋のひとりごと』(2011)17歳
⑲橘由華 『聖女の魔力は万能です』(2016)20代のOL
⑳Roy 『神達に拾われた男』(2015)39歳

 物語が始まった時点で主人公が20歳未満のものは8作品。つまり、純粋に少年少女が主役の話は半分以下で、残り12作品は成人男女が人生をやり直す小説なのです。さらに、20作品中19作品が書籍化されているので、平均的な書店のラノベ文芸棚のサンプルと考えて良いかもしれない。
 ただし、このリストでは、読者層がどの年齢層なのかとかまでは把握できないし、実際に書籍化された作品としての全体評価ではないことには留意したい。単に売上げランキングを見れば上位陣の大半は、やはり「ティーンエイジャーが武勇知謀で無双する」話が主流なのだ。
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★趣味嗜好と年齢層

2020-11-06 | 雑談・覚え書き
 ときおり「若いときの趣味嗜好と老後の趣味嗜好」は違うと思われがちだが、肉体的条件の変化に依るものを除けば、その差はさほど多くないのではなかろうか。日本では三味線や編み物は年寄りの趣味と考えられそうだが、それは若い頃から三味線や編み物をしていた若者がそのまま歳を重ねただけだ。パンク・ロックは第二次大戦後に生まれた若者文化の代表だが、その代表とも言えるセックス・ピストルズは75年のデビュー以来、解散と再結成を繰り返しながら30年以上演奏していた。
 人間の趣味などというものは、一朝一夕には変わらないのだ。
 それゆえに、文芸ジャンルにおいても、30代40代の読者でも書籍にアニメ絵がついていても違和感を覚えない者は増えているようだ。売り手である出版・編集者サイドにおいても、読者層を高くしたライトノベルを意識する傾向を強め、あえてライト文芸と呼び分けたいとしているようたが、今のところ店頭の棚の並びやレーベル等で判断することは難しい。
 書き手においても、2000年代に入ってインターネット上に「アルカディア」や「アルファポリス」「小説家になろう」などの小説投稿サイトが普及してウェブ上に書かれた投稿小説が探しやすくなる一方、それに伴い文芸作品執筆への敷居が低くなることで、社会人となった読者が自分でも作品を発表しようとする流れが出てきた。
 この流れを後押しするように、新たな読者投稿サイトの創設や、これらサイトに投稿された小説を対象にした文学賞を各出版社が募集して書籍化への道が一気に広がった。
 その結果が、対象がジュブナイルではないのに、アニメ絵が採用された文芸作品の増加であった。
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★人口推移とジャンル移動

2020-11-05 | 雑談・覚え書き
 人口分布は急速には変化しない。生まれた子供がいきなり大人になるわけではない。戦争で成人男性がいきなり数を減らしたりすることも現状ではあまり考えられない。人口ピラミッドが逆三角形を描いているなら、年数が経てば経つほど高齢者が増え、若い世代は減っていく。読者の層としても執筆者の層としても若い世代が減っていくのだから、いつまでも少年少女向けだけに文芸作品を書いていても売っていても販売戦略としては先細りである。
 それゆえにゼロ年代には、ライトノベル(=ジュブナイル小説)でデビューした作家の一般文芸への移動が意識されるようになっていた。それは有川浩の出版物に象徴される。
 有川浩は『塩の街』で第10回電撃ゲーム小説大賞を受賞しデビューした。この作品はライトノベルの代表レーベルと認識されている電撃文庫でアニメ絵が付けられて刊行された。この『塩の街』(2004)は突如出現した怪獣と戦う陸上自衛隊の活躍を中心に語られており、空に出現した怪獣と戦う航空自衛隊が主役の『空の中』(2004)、海から現れた怪獣と海上自衛隊のクルーが中心となる『海の底』(2005)と合わせて「自衛隊三部作」と呼ばれるようになるが、『空の中』からは電撃文庫ではなく、アニメ絵を廃した装丁の一般文芸として刊行された。
 有川浩はその後『図書館戦争』(2006)シリーズなど、少女マンガ誌でコミカライズされたりアニメ化される作品を発表していくが、主人公は成人であり、次第に恋愛色の強い、働く男女を主役にした作品に軸を移すようになっていった。
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★ライトノベルのサラリーマン小説化

2020-11-04 | 雑談・覚え書き
 「ライトノベル」と呼ばれる文芸作品群がある。1980年代にニフティサーブの会議室で生まれた言葉で、表紙イラストとしてマンガ家のイラストやアニメのような一枚絵(以下「アニメ絵))を使い、挿画もふんだんに盛り込んだ本のパッケージスタイルを指す言葉である。当時、想定されていたのはソノラマ文庫やコバルト文庫といった、ティーンエイジャーの少年少女向けのレーベルであったため、ライトノベルという言葉についても今風に出版されたジュブナイル小説とイコールになる一面があった。ジュブナイル小説では、物語の主人公はあくまで同世代の少年少女であって、大人はそれを横から助ける存在か立ちはだかる壁に留まることが多い。それゆえに、ジュブナイル小説=ライトノベルと判断してもさほどおかしくはない。
 しかし、2010年代になるとライトノベルに区分されるべき、イラストにアニメ絵を採用する文芸作品に、少年少女以外が主人公になる作品が増えてきた。その初期作品群の代表が、理不尽な孫の手『無職転生~異世界行ったら本気だす~』(2012)である。
 『無職転生~異世界行ったら本気だす~』の主人公は、34歳になるまで一度も働いたことがなく、親の葬式にも顔を出さないことから兄弟に家から放り出された先で自動車事故に遭い死亡。異世界に転生し、あらためて人生を本気でやり直そうと決意する。物語は主人公の幼年時代から始まるが、これは少年少女の成長譚ではない。人生に失敗した男の再チャレンジ・ストーリーであり、喪われた家族を再生する物語なのである。
 こうした傾向の作品は、その後も増え続ける。考えてみれば当然の流れである。
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★サラリーマン小説から企業エンタテイメントへ

2020-11-03 | 雑談・覚え書き
 戦前のユーモア小説の流れで、戦後になってサラリーマン小説と呼ばれる娯楽小説が1950年代になると発表されるようになった。その代表は、源氏鶏太『三等重役』(1951)である。『三等重役』は前社長の追放でいきなり社長昇格したサラリーマンの奮闘譚だが、このように会社組織の中で、創業者一族でも何でもないサラリーマンが出世したり、恋愛に花を咲かせるのがサラリーマン小説の醍醐味だった。
 そんな中から単なる大衆娯楽の枠を超え、企業の経済活動や経営者の姿が描かれる経済小説が生まれ始めた。スーパーマーケットのチェーンを生み出したダイエー創業者の中内功をモデルにした城山三郎『価格破壊』(1969)などである。日本の高度経済成長とともに、こうした企業間の競争を扱う経済小説や企業内での出世レースを扱うサラリーマン小説は増えていった。
 この流れは青年コミック誌にまで拡がり、サラリーマン男性の出世と女性遍歴といえる弘兼憲史『課長島耕作』(1983)や、元暴走族が大企業で出世していく『サラリーマン金太郎』(1994)などが登場する。
 しかし、その流れに反して1991年からバブル景気が崩壊し始め、労働者派遣法改正、自民党・小泉政権による規制改革が始まり、そして2009年には民主党が政権奪取。「コンクリートから人へ」を打ち出し、公共事業への投資を抑制し始める。これが何を意味するかと言えば、すなわち終身雇用、年功序列、賃金スライドといった、それまで日本式経営と言われていたシステムの崩壊である。
 つまり、会社はもはや従業員を家族とは思っていないし、従業員にとっても会社は既に定年までの拠り所ではなくなってしまったのだ。

 池井戸潤の『オレたちバブル入行組』(2003)から始まる半沢直樹シリーズや『下町ロケット』(2011)は、サラリーマン小説と経済小説を融合させた企業エンターテインメント小説というべきものであったが、日本の経済成長期は終焉を迎えており、会社は絶対の忠誠心の対象でもなく、団塊世代の人々が景気悪化の後始末をする物語となっていた。
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「気づいたら最強のアンデッドになってた」 九頭七尾

2020-11-02 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「だって、これはもう、ただの屍よ」

 ジオンはコミュ障気味でソロでダンジョンに挑む冒険者だが、20歳の若さでBランク昇格したから、それなりに才能はあったのだ。それでも、高難易度に挑むには力が足りなかった。魔物の猛攻の前についに倒れてしまう。
 ダンジョンの奥底で屍となったジオンだったが、アンデッド化阻止のために浄化されることはなく、しかも折悪しくダンジョンの真上で2体の竜帝が争って大暴れし、ほぼ相打ち。都市は亡び、大地は荒れ果て、周囲は魔力が満ちあふれた人外魔境と化した。
 それから幾年月。いくつもの国が亡び、生まれ……気がつけばアンデッドとして覚醒していた。それもそこらの高位アンデッドすらしのぐ魔力の塊として……。

 死にたくても死ねない体になってしまった男が、成仏する手段を求めて放浪することで世界を震撼させる放浪譚。
 本人は誰も殺したくないし、誰かに殺してもらいたいのだけれど、誰もがジオンが悪いアンデッドと決めつけ、退治しようとして……結局殺せないという、誰にとっても得のない展開です。

【ただの屍のようだと言われて幾星霜、気づいたら最強のアンデッドになってた】【九頭七尾】【チワワ丸】【ファンタジア文庫】【小説家になろう
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