丸谷才一 1990年 文春文庫版
たしか去年の秋に買った古本の文庫、最近になってやっと読んだ、いかんね無精で。
単行本は昭和62年だという、初出は「Emma」の昭和60年創刊号から61年の連載なんで、そのころの話題もあったりもする。
しかし「Emma」って今はもう無いけど、センスよかったんだね、丸谷さんの随筆を載せるなんて、私は当時読んでないけど。(写真撮ってプロ野球選手と揉めた週刊誌だよねえ?)
この文庫の巻末解説は、国学院大学で丸谷さんに英語を教わっていたという嵐山光三郎氏が書いてんだが、
>丸谷さんのエッセイの愉しさは、一章を読み、「うむ、なるほど」と感心してから「いや、じつはぼくもその件に関しては言いたいことがある」と、自分の中に眠っていた発想を喚起されるところにある。
なんて、うまいことを言っている。
当時アメリカに駐在している友人から日本の本を何かと言われると、丸谷さんのエッセイ集を送ってたそうな、話のネタ本にもなるから。
そうなんだよねえ、おもしろいんだ。
日本酒の入れ物はずっと樽とか徳利だったのが、明治になってから一升瓶になった、ところが、あの「長方形のレッテルを貼つたやや上方に、半月のやうな形のレッテルを貼るといふ二重構造(p.98「酒を論ず」)」っていう形から、清酒のびんは葡萄酒びんの真似だというとことか。
フィンランドの野球は、アメリカから輸入されたときに重要なルール修正がおこなわれて、外野の柵を越えた打球はファウルであってホームランではない、っていうミニ知識を披露してくれるとことか。
高浜虚子の主宰する「ホトトギス」に句がたくさん採られるにはミツギモノが必要だった、なんて話もいい。
>(略)かなり上のほうには、政治家とか、俳優とか、画家とかの句がしよつちゆうチラホラありましたね。わたしはあれを見て、子供心にも、有名人の名前をちりばめることで雑誌をにぎやかにしてるんだな、虚子つていのはイヤな爺さんだ、なんて思つてましたが(略)(p.121「正岡子規と富士正晴」)
なんて言ってますが。ちなみに虚子の名誉(?)のためにいうと、同人にするのは句がいいからぢゃなくて別の条件による、ってちゃんと書いてたらしいけど。
二十世紀を代表する女性は誰かってお題をかかげて、マリリン・モンローを出しかけて、いや、やっぱちがう、ココ・シャネルだという話もいい。
男出入りがすごくて、ウェストミンスター公とさんざ遊んだけど、結婚の申し出はことわったらしいが、
>そして、第二次大戦後、彼女が対独協力者であつたにもかかはらず、戦犯委員会から逮捕されても数時間で釈放され、さらにアメリカへ渡航することができたのは、ウェストミンスター公がチャーチルに依頼したためであつたらしい。いいですね。情夫といふのはかうでなくちやいけない。(p.132「女の背広」)
なんてエピソードも紹介してるが、「情夫といふのはかうでなくちやいけない」の一文がいい。
ところで、丸谷さん自身の読書について、興味深い一節があって、
>学問だらうとヒマツブシだらうと、何か読むに当つては、考へ方が違ふときでも楽しめる相手のものを読むのがいいので、つまりわたしが大事にしてゐるのは、結論ではなく文体だといふことになるかもしれません。(p.216「夕立」)
なんていう意見なんだそうである。
ちなみに、ここで「妙に愛嬌がある」として好きだとあげられてるのは、山本夏彦さん。
読んだこと、ないなあ。読んでみなくては。
コンテンツは以下のとおり。
男大学
草雲ゑがく
ケインズと伊東光晴
ヒゲを論ず
肉食の研究
教授会
無帽論
共同体と似顔
性的時代
ユートピア
入社試験
月下美人
酒を論ず
不言実行
胴あげ考
正岡子規と富士正晴
女の背広
女傑
もう一つの名前
駅弁とビール
藏書印
褻語考
ダイナマイト
マランゴ
船玉様
自動販売機
ロイアル・キス
夕立
ゲームとルール
日本的方法
ウナギ文の大研究
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