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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

待ち伏せていた狼

2017-08-20 17:56:09 | 読んだ本
E・S・ガードナー/新庄哲夫訳 1960年 ハヤカワ・ポケット・ミステリ版
スペンサーシリーズをひとつ読むとき、ついセットにして一冊読む、ペリイ・メイスンシリーズ。
原題は「THE CASE OF THE WAYLAID WOLF」、そのまんま、持ってるのは1991年の8版。
メイスンの依頼人は、美人で重役室の速記が仕事のアーリン・フェリスという女性。
ある晩、会社から帰ろうとしたら駐車場に置いといた車のエンジンがかかんない、そこへ現れたのが社長の息子の副社長、自分の車に乗っけてってあげようと。
彼女をウチに送る前に、どうしても急ぎで届ける書類があるから、そっちを先に回らせてくれとかなんとか言って、所有する山荘につれこむ。
そこで最初は礼儀正しかった副社長は狼に変身、彼女に襲い掛かる、お嬢さん気取ることないぢゃないか、とかなんとか言って。
彼女はそんなんに負ける女性ぢゃなかったんで、果敢にも椅子を振回して応戦、スキをみて山荘から逃げ出す。
雨の中めちゃくちゃに走り、有刺鉄線はかいくぐるわ、土手はすべりおりるわで、着てるもの泥だらけになるが、やがて車で追っかけてきた副社長が車外に出た隙をついて、その車を奪って逃げることに成功する。
んで、最後その車は副社長の家の近くの消火栓の前に駐車違反状態に乗り捨てておく、どうでもいいけど、昔は人の名前から電話帳ひいて住所まで簡単にわかった。
次の日、会社に出たけど対決する決心を固めた彼女は、上司に断わって抜け出して、ペリイ・メイスン事務所を訪ねる。
そこでメイスンが探偵ポール・ドレイクを呼んで、証拠集めの調査を頼もうとすると、ドレイクはその副社長は昨晩包丁で刺し殺されたとニュースでやってると答える。
メイスンは、依頼人のアーリンに、会社にもどってすぐクビにしてもらって、親しい女友達のところへ行って一晩泊めてもらいなさいと言う。
この女友達のマッジ・エルウッドというのが、偶然にもアーリンと姉妹のように似ているという美人なんだが、彼女をつかって、メイスンは事件現場に残されたかのようなスカートの切れっ端をつくったり、依頼人が車を停めて出てきたところを見たという証人を混乱させたりする。
この目撃証言をひっかきまわしたとこは、けっこう後の裁判に深い影響が出てくるんだが、それはいいとして、二人の女性の登場人物があまりに似ているからというわけではないが、一カ所名前間違ってるとこがあって、メイスンがマッジ・エルウッドと合っているのに、
>メイスンは、立ちあがる彼女に手をかした。アーリン・フェリスはスカートをぱっとひろげ(略)(p.47)
って書いてあって、一瞬こっちのアタマが混乱した。
まあ、とにかくメイスンの依頼人は容疑者として逮捕されてしまい、さっさと予備審問が始まる。
ポケミスの93ページ目から法廷シーンが始まるって、かなり早いような気がする、平均何ページ目からなんてデータあるわけぢゃなく、単なる印象だけど。
そのぶん法廷シーンが長いんだけど、これは退屈しない。「裁判長、異議を申し立てます。その理由は、質問が適格性なく、関連性なく、重要性がないからです。誘導的で暗示的であるからです。さらにその理由を述べますと、検事は、被告が不在の場合にかわされる証言について、裁判長がどんな裁定をくだすか熟知していながら、この誘導的な質問により、被告に対する偏見を、裁判長にいだかせようともくろんでいるからです」(p.191)なんて、メイスンが言ってるのを、こっちは何も考えずにサーっと勢いつけて読んでくのは楽しい。
で、この裁判で、存在感のあるのが裁判長で、このひとなかなか面白い。
最初、事件が多いから予備審問は短時間で終わらせたいのに、なんで休憩挟んで午後までかかるようなことになるんだとブツブツ言ってたようなんだけど。
検察が証人である警部に断定的な推測を持ちださせたところでは、「異議をとなえ、削除を申し立てるのが、弁護人の義務だと思うが」とかメイスンに忠告する。
検事がかなり無理な立証をくわだてようとすると、「検事には、警告を発しておく。(略)今の質問は、さきの裁判長の最低を無効にさせようとする意図を持っていると考えざるをえない。」(p.191)とか厳しい。
しかし、事件の真相解明はすすめたいので、検事に向かって、「(略)いまの段階では、君は推理をはたらかせているにすぎん。裁判長としての見解によれば、情況なるものは、かならずしも被告を問題の着衣に結びつける情況証拠の鎖として強力ではありません。しかし、裁判長としては、捜査のこの一面には、非常に関心を持っており、でき得るかぎりの協力をおしみたくないと思っている」(p.193)と見解を述べたりする。
で、とうとう最後には、目撃証人をもういちど喚問して、検事と弁護人は口をはさむなと言って、直接自ら尋問する、けっこう異例の活躍ぶりだ。
腹を立てた検事が、裁判長がここまで立ち入るのか、予備審問でそこまでする必要があるのかとか言い出すと、「(略)有罪だったとしたら、本法廷は、その真実を知りたいのです。無実ならば、それを立証したいのです。地方検事、司法裁判の機能というものは、だ、法の正義を行なうところにある。裁判長としての所見によれば、そのほうが、予備審問に関する法律の条項を守るよりも、裁判長に課せられたもっと重大な使命だと思う」(p.211)と堂々と説教をする。
かくして、情況証拠は圧倒的に不利で、依頼人がホントのこと言ってないんぢゃないかと、公判一日目の午後の休憩時には「君が享楽できる最高の贅沢とは、君の弁護士に嘘をつくことです」とか、真実を語ってないなら助けられないと言ってたメイスンだけど、最後にはちゃんと逆転することになる。

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