青木富貴子氏著の”731”を読了した。731部隊に特に深い関心があるわけではないが、昔、森村誠一氏著の”悪魔の飽食”を読んだ印象が強く、読んでみようと思ったわけだ。そういえば、森村誠一氏の悪魔の飽食では、まったく関係のない写真が多数使われ、問題になった。やはり、当事者ではない小説家や、ルポライターが、本を著すには、限界もある。
この”731”も、その限界を露呈してしまっている。一所懸命取材をして、資料を集めて、人にあって、書いたことはわかるのだが、時代があまりにも経ちすぎていることと、日本、アメリカ、ロシア等、この部隊の存在を否定しようとして証拠隠滅したり、その成果を戦後に独り占めしようとして、他国に隠密で事を図ろうとした輩ばかりであったわけだから、60年も経って事実を探ろうとすること自体にかなり無理がある。
ただ、きめ細かい取材により、当時のにおいが濃密に伝わってくるところは、見事だ。青木氏は、元々”ニューズウィーク誌日本版”のニューヨーク支局長だったそうであるから、取材したことをリアルに仕上げるのは、得意とすることだろう。
それにしても、取り上げた題材の難易度が高すぎたということか。
ただ、この731部隊のやったといわれている行為が、南京事件と共に、日本の中国で戦時中に行った悪事の象徴になっていることは、日本人として知っておくべきだろう。
北京滞在で時間が余った人は、盧溝橋の手前にある抗日戦争記念館を訪れることをお勧めする。不愉快になることは間違いないが。盧溝橋自体は、マルコポーロの東方見聞録にも紹介されているぐらい美しい橋です(念のため)。