16期田代です。不確実性の高い今の世の中を生き抜くために、自分自身の価値を高める自己投資を惜しまない人が増えているようです。果たしてリターンは如何ほどでしょうか。
さて、英語やMBAなど対象はさまざまですが、ここ数年の間に社会人の勉強熱の高まりを強く感じるようになりました。私も中小企業診断士を目指すかたわら、一時期ビジネススクールに通ったことがありました。そこで学ぶ科目の中では、経営戦略、人的資源管理、マーケティング、アカウンティング等に比べ、最も人気が少ないのがファイナンスでした。多くの社会人にとって、財務や会計の専門知識が少なく、数字に苦手意識があることが主な理由のようですが、実際に実務で使用する機会がないことや、必要な場合には専門家に頼る領域という認識があるのかもしれません。
中小企業診断士の試験においても、ファイナンスは得手不得手が大きく分かれる科目だったと思います。わたしも苦手とする領域であり、試験勉強はしたものの、その知識を実務で使うことはこの先それほど多くはないだろうと思っていました。
ところがその認識を少し変えてくれる書籍に出会いました。
『あれか、これか 「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門(野口真人著 ダイヤモンド社)』
本書の冒頭において、ピラミッドとヴェルサイユ宮殿、もらえるならどちらを選ぶか?とフェルミ推定のような問いを投げかけてきます。それぞれにコストアプローチ、インカムアプローチの視点からの価値評価を解説して、ファイナンスへの興味を引き、続いての問いでは、兄弟2人で父の遺産を相続する場合に、毎月25万円の家賃収入のある耐用年数50年の新築マンション1室か、同じく25万円の家賃収入のある築20年の中古マンションの1室+現金2000万円のどちらを選ぶか?という比較的身近に感じやすい題材を使って、難解なNPV、DCF法による価値評価をわかりやすく解説してくれます。そしてノーベル経済学賞を受賞したファイナンスの4つの主要理論であるMM理論や現代ポートフォリオ理論、CAPM理論、オプション理論にも面白くわかりやすい解説を加えており、飽きることなく、非常に読みやすい入門書でした。
本書から学んだことは、そのファイナンス理論もさることながら、難解な理論を相手の身近に感じるモノゴトに置き換えて、余計な説明をできる限り省略し、ポイントを絞って説明することの大切さです。
どれほど優れた内容の話をしたとしても、相手のおかれている立場や環境、相手の持つ興味・関心、知識や経験などに全く配慮せず、自分の考えをあれこれと難解な用語を使って装飾し、一方的に押し付けるように話したとしたら、相手に伝わる内容は全体の数パーセントということにもなりかねません。
一方、本書のように巧みに相手の興味を引き付けながら、エッセンスだけを凝縮したシンプルな説明を受けると、まるで難解な理論をかなり理解できたかのように感じることができました。そしてその対価として、著者の主張に共感したい気持ちがジワジワとわいてきました。
相手に何かを伝えたいとき、話す内容だけでなく、相手の立場、興味・関心、知識や経験にまで気を配り、相手に合わせた話し方をすることが、相手の理解と共感を得るためには大切であると思わせてくれた一冊でした。