表からではなかなか分からない店内の渋い佇まいが気に入って、機会があれば通っている岐阜県関市の麺類食堂「入船」。店の横の駐車場に車を停めて暖簾をくぐると珍しく先客無し。土間の長テーブルには透明な仕切りが用意され、消毒液もあちらこちらに置いてのコロナ対策。壁に貼った告知を見ると日曜も休むようになったようで日・月・木曜休日ということになる。奥の壁に貼ってあった年季が入って色褪せた品書きも取り外されて、ラミネートされた品書きだけになった。女将さんにそこには載っていない「冷し中華」が出来るか尋ねると「今なら混んでないから出来るよ。」とのこと。「冷し中華」と書いた紙短冊も「本当はあるんやよ。」と見せてくれたが、忙しいと受けられないので貼らないのだとか(笑)。居間のテレビに映し出されたMLB中継の大谷翔平のピッチングを観ながら出来上がりを待つ。作り置きはしないとのことで玉子を溶くところから始めているので、そりゃ他の注文で忙しいと出来ないわな。
しばらくして「お待たせしました。」と龍の絵柄が入った皿に盛られた「冷し中華」が完成。具材は錦糸玉子、きゅうり、チャーシューが3枚、プチトマトが2個分。そしてマヨネーズと辛子が添えられている。つゆの色は濃いが酸味は抑えられていてマイルド。中華そばでも使われるストレート麺が適度に冷やされていて、つゆが絡んで旨い。濃くない味付けのチャーシューがまたいい感じ。箸の先に辛子をつけたり、普段はあまり使わないマヨネーズをつけたりしてあっという間に平らげた。お代わりしたいぐらい。
普段は食べたらさっと店を出るが、後客も来ず自分1人だけだったので女将さん(実は話好き)と久しぶりに世間話。何でも2、3日前に、もう歳だし、えらい(=疲れる)ので店を畳もうとしたら、息子さんや娘さんに反対されて喧嘩したのだとか(笑)。「(あの子らは)何にも手伝わへんのに、ボケるからダメやって…(怒)。」と女将さん。「大変なんやよ。」と。そりゃそうだ。全部自分1人だもの。出汁だって京都の乾物屋から取り寄せる鰹節と鯖節を2時間かけて引くらしい。今は削ってもらっているが以前は自分で削っていたそう。ついでに店内に掛かる古い看板(写真下2枚目)のことを尋ねると、祖父が創業した当時からの物だから100年以上経っているそうだ。天井は以前は平板だったものを女将さんが網代(あじろ)天井に替えてもらったのだとか。店の端に残るブース(写真下4枚目)は、現在は昔の岡持ちとかの物置になっているが、以前はもっと道路側に出っ張っていて麺打ち場だったのだそう。でも広さは変わっていないそうなので「あんな狭いとこで打っとったんやね。」と。普段は店内で写真は撮らないが、たった2、3日前に辞める決意をしたというのだから、お願いして写真も撮らせてもらった。もっと続けてよ、なんて無責任なことは言えないが、どうか1日でも長くお店を開けていただけますように。(勘定は¥650)
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入船
岐阜県関市大平町2-6
( 関 せき たいへいちょう 太平町 いりふね 麺類食堂 大衆食堂 中華そば 冷やし中華 冷し中華 ひやしちゅうか )