「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

感染を制御しつつ、子ども達の学び・育ちの環境づくりをして行きましょう!病児保育も鋭意実施中。子ども達に健康への気づきを。

外国人の人権;参政権(国と地方)、公務就任、生活保護、出入国、政治活動・マクリーン事件

2014-08-10 11:24:30 | 憲法学

 憲法10条で、日本国民の要件は定められていました。

 外国人の人権は、どう考えれば良いのか。

 考え方を整理しておきます。


 芦部『憲法』 「第五章 基本的人権の原理 四 人権の享有主体」に関連しています。

(かつてブログ記載 http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/c6c8ab026320954741ae74e86071f473
****人権の享有主体 3 外国人*********


Q君
 外国人は、どのように定義されますか?

A先生
 以下に大別されます。

1)一般外国人~短期滞在者など(観光その他で日本に在住している。27種のビザあり)
       難民と永住者を除く外国人のことである。
2)難民~難民条約1条の定義に当てはまる人
3)永住者(永住外国人)~一般永住者と特別永住者
特別永住者とは、在日外国人の方の中でも、終戦前から日本に居住している朝鮮半島、台湾出身の方でサンフランシスコ平和条約(1952年)の発効によって日本国籍を失った後も引き続き日本に在留している外国人の方とその子孫の方々のことをいう。特別永住者は、「出入国管理及び難民認定法(入管法)」ではなく「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(入管特例法)」によって定義されている。
4)不法滞在者(パスポートなしで入国またはビザ切れで滞在している者)ももちろん外国人のカテゴリーの一つである。


Q君
 憲法では、外国人には人権の保障は、どのように規定されていますか?


A先生
 外国人の人権も保障されると肯定説が通説です。

 否定説は、「第3章 国民の権利及び義務」という文言にこだわってなされます。


Q君 
 外国人の人権が保障されるその根拠は何ですか?


A先生
 以下の根拠が考えられます。
1)人権の普遍性・前国家性・前憲法性からは、人である以上外国人にも当然認められることになる。
2)人権の国際化(人権思想の進展にともない、人権を国内法的に保障するだけではなく、国際法的にも保障しようという傾向が強まっていること)。
3)憲法98条が謳う国際主義。

第九十八条  この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
○2  日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。


Q君
 すべての人権が保障されるのですか。


A先生
そうではありません。保障されない人権もあります。



Q君
 ある人権が外国人に保障されるかどうかを決定する基準は何ですか。


A先生
 文言説、性質説があって、基準が決定されます。

 文言説は、憲法の記載で、「何人」と規定されているときは、外国人にも保障され、「国民」と規定されているときは、国民のみに保障されるとします。

 性質説(通説・判例)は、権利の性質にしたがって、外国人に保障されるかどうかが決定されるとします。

 判例もマクリーン事件(�-1-2)で「憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであり、政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶものと解するのが、相当である。」と判示しています。


Q君
 文言説の問題点は、なにですか。

A先生
 22条2項の国籍離脱の自由について、「何人」もとしている点の説明が困難になります。

 外国人が日本国憲法の下で、日本国政府や裁判所に対して、国籍離脱の自由を主張する事は意味がありません。

 23条のように、何人もとも、国民とも書いていない条文もあります。

第二十二条  何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
○2  何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

第二十三条  学問の自由は、これを保障する。




Q君
 国レベルの参政権は認められますか?


A先生
 国民主権の原理から認められません。(通説・判例)

 ヒッグス・アラン事件(判例集�-3-2)の「事実」における、主張�及び�に注目してください。
  �国民は、国籍保持者だけではなく、社会の構成員として日本の政治社会における政治決定に従わざるを得ないものを指す。
  �原告は永住許可を得ている者であり、納税義務も負担している以上、帰化している者と同様に扱わないのは差別である。

Q君
 納税義務の負担は、外国人の人権を保障することの根拠となりうりますか。

A先生
 なりうると考え方と、なりえないという考え方ができます。

 なりうる(積極説)。近代憲法は、イギリスのマグナカルタからアメリカの独立宣言においても、「納税者」の権利の政治的権利を確保するという意味があったことから、ここの沿革を重視すると、外国人であって、かつ日本に生活の根拠を置いている以上は、納税義務を果たしていることは、外国人に人権(参政権)を保障することの根拠となりうる。

 なりえない(消極説)。税金は、ある社会に生活していることで発生するコストに対して、応分の負担を支払うものであり、そのことが参政権を保障することの理由にはならない。さらに、納税負担を根拠とすると、生活保護を受けている者や貧困のために納税負担にたえられない者の参政権を否定することになり、これは、戦前の制限選挙と同じ根拠づけになってしまう。


Q君
 では、地方レベルの参政権は認められますか?
 判例は、外国人に対する地方レベルの参政権の付与について、どう判断しているのですか?

A先生
 以下の論理に立っています。

  1)15条1項は外国人に適用されない。
  2)93条2項の「住民」は日本国民である。
  3)外国人に対する地方レベルの参政権付与は憲法上禁止されていない。
    (付与しなくても違憲ではないし、付与しなければならないものでもない)
    もっぱら立法政策の問題である。

  その理由は、次の通りです。
  「住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではない」


Q君
 判例上、外国人が就任できない公務は存在するのですか。存在するとすればその理由は何ですか?


A先生
地方公務員のうち,住民の権利義務を直接形成し,その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い,若しくは普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い,又はこれらに参画することを職務とする者である、「公権力行使等地方公務員」は、外国人が就任できない。と判例ではされています。(外国人管理職選考受験拒否事件上告審判決 判例集�-3-4)

その理由
1)公権力行使等地方公務員の職務の遂行は,住民の生活に直接間接に重大なかかわりを有するものであることから、国民主権の原理に基づき,国及び普通地方公共団体による統治の在り方については日本国の統治者としての国民が最終的な責任を負うべきものである(憲法1条,15条1項参照)。
2)このことから、原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されているとみるべきである。
3)また、我が国以外の国家に帰属し,その国家との間でその国民としての権利義務を有する外国人が公権力行使等地方公務員に就任することは,本来我が国の法体系の想定するところではないものというべきである。

Q君
 この判決の論理の問題点は何ですか?


A先生
 公権力行使等公務員の範囲が無限定であることです。
 外国人に能力の発揮の場を与え、幸福追求の可能性を保障するためには、公権力行使の等公務員の範囲を狭くすべきであり、実際、判例の言うところの「統治のあり方」に影響を与える業務は、警察・検察・国税・入管等の権力業務に限られるのではないかと考えられます。


Q君
 外国人は生活保護を受けられますか?


A先生
 実務上は、生活保護の認定をしています。

 適法に日本に滞在し、活動に制限を受けない永住、定住等の在留資格を有する外国人については、国際道義上、人道上の観点から、予算措置として、生活保護法を準用しています。

 すなわち、
1)出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)の在留資格を有する者(永住者、定住者、永住者の配偶者等、日本人の配偶者等)
2)日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の特別永住者(在日韓国人、在日朝鮮人、在日台湾人)
3)入管法上の認定難民
が生活保護法の準用の対象となります。

 したがって、これら以外の者は対象とならない。
 不法滞在者は生活保護の対象となりません。これは、ある種のジレンマであります。


Q君
 外国人に入国の自由は認められない理由は何ですか。


A先生
国家が国際法上、自己の安全と福祉に危害を及ぼす恐れのある外国人の入国を拒否するのは、当該国家の主権に属し、自由に裁量することができるとされています。(国際協調主義・普遍性の例外。)


Q君
 不法入国者には、日本人と同じ刑事手続が保障されないか。

A先生
 保障されます。


Q君
 外国人に在留の権利を認めていますか。

A先生
入国の自由がない以上、在留の権利も認められないとされています。(判例)



Q君
 外国人の出国の自由を認めていますか?

A先生
 認めています。(判例)



Q君
 外国人の政治活動の自由は大きな制限を受けるとしているが、その根拠は何ですか?

A先生
 外国人の表現の自由は原則として保障されています。

 ただし、国政レベルの参政権が否定されているので、日本国民よりも大きな制約を受けるとされています。

 大きな制約としては日本の政治に直接介入する政治結社の組織、政府打倒運動は禁止されます。
 また、マクリーン事件判決は、ある種の政治活動が、在留資格更新のための消極的要因となることを認めています。

 上記には、以下の反論がなされるところです。

 反論 
 1)表現の自由の自己統治・思想の自由市場という側面からすると、政府転覆等の反政府活動以外は、外国人に自由な言論を許し、言論を活発にして、真理に到達するための道を確保すべきではないか。
 2)実際に、外国人しかできない批判もあるはずであり、デモクラシーの運営にとって、マイナスになる。  
 3)この論理からすると、地方レベルの参政権は否定されていないのであるから、地方レベルの批判はできることになるが、地方レベルの政治批判と国レベルの政治批判の境界があいまいなものもある。
 4)以上のとおり、マクリーン判決は、表現活動を萎縮させ、政治活動が実質的に全面否認になる可能性を秘めている。


Q君
 マクリーン事件(判例集�-1-2)を読んで、要旨を三点にまとめるとすると。


A先生
1)外国人には、入国の自由もない以上、在留する権利もない。
2)法務大臣の在留許可の更新は、自由裁量行為であり、その判断が事実の基礎を欠くか、事実の評価がまったく合理性を欠く場合以外は、違法とはならない。
3)外国人にも権利の性質上許される限り、人権が保障され、表現の自由も政治的意思決定に影響を与えるもの以外は認められるが、当該表現活動が合憲・合法のものであっても、当不当の面から、法務大臣は、それを理由として在留許可を与えないことができる。
 判決は、「消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない」としています。


以上

******小坂メモ****
積み残し課題
○18テキストP97L1~2「在留期間の更新を入国の場合とほぼ同視し、広い裁量権を認めている点に問題がある」とはどういう意味か。☆
P94~95にあるように、正規の手続で入国した外国人には、在留資格をみだりに奪われないことを保障されていることから、入国の自由のように、広い裁量にすることは不当(場合によっては違法)である、ということ。

○19テキストP97L2~3「法人の政治的行為の自由と比べ権衡を失する」とはどう意味か。☆
 八幡製鉄事件では、大企業の政治献金が容易に是認されているが、社会への影響力という点では、大企業の方が極めて大きいという意味。ただし、私見では、影響力の大きい外国人もいることから、この点は、もう少し議論が必要ではないかと思われる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする