陳 述 書
平成29年9月21日
中央区監査委員 御中
医療法人小坂成育会こども元気クリニック 理事長
中央区議会議員
氏 名 小 坂 和 輝
私は、本事業の施行区域内(月島三丁目30-3)でビルを3フロアー賃借し、病児保育併設の小児科クリニックを経営すると共に、隣のビル(月島三丁目30-4)1階フロアーの子育て支援広場「あすなろの木」を支援するものです。「月島三丁目地区地区計画」区域内の権利者でもあります。中央区議会議員の負託も受けています。
本事業は、諸問題が解決されることなく、都市計画手続きを中央区が進める状況にあり、今回の住民監査請求により、差止めをすることを求めます。
以下、理由を述べます。
1、予算執行を差止めすべき最大の理由:住民の合意形成が不十分なまま進められていることについて
第一種市街地再開発事業の施行区域の同意率が9割に満たない状態で、中央区ではいままで都市計画の手続きを進めることはなかった。
この地域でも、権利者103名中82名が「同意書」(資料8左側ページ)を提出しているところであったが(同意率79.6%)、本事業について疑問を抱き、同意書を撤回(資料8右側ページ)するかたが4名出てきている(同意率75.7%に低下)。
すなわち、今回の月島三丁目南地区第一種市街地再開発事業においては、施行区域内の権利者の同意率は現段階で7割5分であり(平成29年9月12日開催の環境建設委員会でも確認、資料1(①頁)の権利者の状況に加筆)、住民の合意形成が不十分なまま、平成29年9月20日に原案説明会を開催し(資料17)、同月21日から原案の公告縦覧を開始するなど中央区は、都市計画の手続きを始めている。
7割5分で都市計画の手続きを開始することは、再開発事業における9割以上の同意率で開始するという今までの中央区のまちづくり行政における慣例に反している。
本事業に潜む諸問題を解決し、住民の合意形成を得るまでは、本事業の都市計画の手続きを進めるべきではないと考え、この差止めの住民監査請求をするに至った。
加えて、昨日開催の原案説明会を、中央区は、都市計画法16条2項に根拠をおき、権利者のみを対象に開催した。都市計画法16条1項及び国土交通省による「都市計画運用指針」において、広く住民に開かれた説明会・公聴会を開催すべきことが示されているにもかかわらず、中央区の姿勢自体が、計画の早期の段階から、住民の合意形成を広く得ようとする姿勢にはない(資料13、⑮頁)。
2、そもそも、本事業が、都市再開発法3条の4つの要件(資料14、⑯頁)に該当せず、違法なことについて
(1)特に、三号要件について(資料14、⑰頁)
この地域(三丁目27番、28番、29番、30番)は、都市再開発法3条の4つの要件、特に三号要件「土地の利用状況が著しく不健全」、少なくとも「著しく」に合致していない。
三号要件の条文解釈については、『逐条解説 都市再開発法解説』(資料14、⑰頁)によると、三号では、①当該区域内に十分な公共施設としての広場や道路がないことや、②当該区域内の土地の利用が細分化されており各戸ばらばらに建て替えられない状況などの場合を例示として、「土地の利用状況が著しく不健全」としていると解される。
①資料5(⑦頁)に施行区域の地図を見てわかる通り、広場や道路については、A敷地では、施行区域全体を、都道(清澄通り)を含め道路が四方を取り囲み、かつ、敷地内に4本の路地が通っており、歩行空間は、十分ある。当該区域に隣接する27番15号には、2,282㎡の公開空地があり、清澄通りを挟んで月島第一小学校もあり広場も十分にある地域である。よって、公共施設がないとは解されない。
②土地の利用が細分化されていることについても、地区内では既に、敷地面積が50㎡を超える建物が、107ある建物中、37(34.5%)存在し、建物面積が50㎡を超える建物(⑥頁左、建物番号2、12、14、26、27、28、37、38、39、43、45、51、71、85、86、87、89、90、100、103、105)は、21(19.6%)存在する。細分化した土地の状況においても、現行「月島三丁目地区地区計画」の制度の中で、当該区域内で個別建て替えがなされ、現在、「建築基準法第2条第9号の2」に規定する耐火建築物の割合は、約4割に達し(⑥頁右)、建物の耐用年数が2/3以下の建物は、建築面積で85%、敷地面積で84%であり(⑥頁右、ロ)、逆に言えば、耐用年数を超え、喫緊の更新の必要な建物は、建築面積で15%、敷地面積で16%に過ぎない。個別建て替えが著しく難しい状況は生まれておらず、土地の利用の細分化の点でも、3号要件に該当していない。
そして、当該区域の建物内には、約35の事業者が、多種多様な事業を展開し、街の賑わいを作り出しており、「土地の利用状況が著しく不健全」であると判断はなしえない。
(2)先行して都市計画決定すべき1号要件の「高度利用地区」について
「高度利用地区」が先行して都市計画決定されている地域であることが、1号要件である(資料14、右側、図5、⑯頁)。その「高度利用地区」の指定の要件も、「土地の利用状況が著しく不健全」であることが入っているが、上述の如く、この地域には該当しないため、「高度利用地区」指定の要件もまた、欠けることとなる。
3、本事業の手続きにおいて重大な瑕疵があることについて
(1)副区長がなした予算特別委員会における虚偽答弁
平成29年3月16日に中央区作成した資料(資料1、①頁)と、昨日の都市計画原案説明会で配布された資料17の21ページ上段を見比べていただきたい。まったく同じ「計画概要」の図面である。
私は、平成29年3月22日に予算特別委員会において、本事業に平成29年度に計上されている予算1億5千8百万円の内容を調査するために、都市計画の案の前段階のようなものでも構わないので、提出するように中央区に要求したが、吉田副区長は、「絵がまとまっていないから、示しようがない」と答弁をしているが、原案の説明会で使用できるほどの計画概要を既に持っていながら、「ない」と答弁することは、明らかに虚偽の答弁である。
虚偽の答弁を用い資料の存在自体を否定し、資料1(①頁)のような本事業について説明する資料を議会に提出することなく、結果、議会に本事業の予算について白紙委任を強いたことは、議会への冒涜であるし、「中央区基本条例4条3項まちづくりに関する必要な情報を区民に提供する区の責務」(資料12、⑭頁)にも明らかに反している。
今後、中央区がまちづくりの情報を適切に区民に提供して、開かれた場でまちづくりが議論されることを担保していくためにも、虚偽答弁を用いた重大な手続きの瑕疵を看過することは許されない。
なお、私は、議員として本事業も含め平成29年度予算案に賛成をしながら、住民監査請求をする理由は、ここにある。
(2)持ち回り決議が「月島地区密集市街地総合防災協議会」規約違反であること
本事業の予算において、国への補助金申請をするに当たり、本事業を「密集市街地総合防災計画」に位置づける必要があった。
防災計画に変更を加えるという重要な決議を、持ち回り決議で済ますこと自体許されるわけではない。中央区は、平成28年度中の申請に間に合わせるために、平成29年4月3日に持ち回り決議をしたというが、果たして新年度に入ってからの決議が、旧年度の申請に遡ることが可能かはなはだ疑問である。国への補助金申請は、年度内でいつでも可能であり、また、申請後1ヶ月で処理される運用であることからすると、時間的な余裕は十分あり、持ち回り決議をしなければならない「やむを得ない」理由も存在しない。
従って、明らかに規約4条2項、3項に反する。
また、平成28年度末に国へ申請する本事業の計画があるなら、前述の同時期開催の予算特別委員会にも、本事業の計画を中央区議会へ提出できたはずであり、副区長の虚偽答弁を裏付ける証拠にもなる。
本事業には、このように重大な手続きの違反であり、予算執行をなすべき事業ではない。
4、本事業は、まちづくりの民主的な手続きに反している
借家人や住民の意見を反映してまちづくりを行うと準備組合は、前身の「協議会」で約束(資料6、⑧頁左)したが、それを果たすことなく、都市計画原案説明会を迎えている状況にある。一時期まで、周辺住民にも情報が出されていたが、理事長が交代してからは、まちづくりの情報が住民と共有されることはなく、借家人や住民は、当該地区のまちづくりの蚊帳の外におかれた。
権利者の一部のものだけで超高層の計画を作り、なんらの意見を反映させる機会を持つことなく、借家人や住民が、本計画を聞かされたのは、平成29年4月27日と同年5月7日の住民説明会の場であった。
両日の住民説明会の「説明会開催報告書」(資料7、⑧頁右)では、住民説明会において、約束違反であることの意見や、本事業の中止を求める意見が出されたが、「参加者からの意見・要望等の内容」で記載から省かれている。住民の貴重な意見を恣意的に取捨選択し、中央区に伝える準備組合の姿勢が見られる。
開かれた場での、まちづくりの議論がなされていないため、一度、本事業を差止め、住民の合意形成を得る時間をつくる必要がある。
また、住民との約束を反故にしたり、都合の悪い情報は、出さないようにする準備組合の姿勢からは、今後、本事業に参加する住民との約束・契約を守れるか不安をぬぐい切れない。
5、地域コミュニティを守る月島の再生の検討について
この地域の課題を解決するために、「このような超高層のマンション建設が必要か?」という疑問が、住民の抱く印象である。
本事業により、風害が月島第一小学校まで拡大し(資料2、②頁)、広範な日影被害も生じ(資料3、3頁、④頁)、周辺住民の健康な生活を害することになる。
今後、中央区の人口が減少することや(資料9、⑩頁)、月島地区に、類似の大規模再開発が、オリンピック選手村跡地含め13事業控えていることからすると(資料10、⑪頁、⑫頁)、高額な管理費や修繕積立金の負担なども慎重に考慮して、本事業の採算性の検討も必要である。昨日の原案説明における質疑応答でも、本事業に参加する住民の資産形成に関する質問に中央区からの有効な回答は得られなかった。本事業に参加する住民のかたが幸せになる保証はない。
路地裏には、緑の風景や、コミュニケーションの場がある(資料16)。
そして、現在、この地域には、失ってはならない、地域のコミュニティの力が存在している。その力は、例えば、認知症のかたの高齢者を見守ることに役立てられている。超高層では、見守ることができない。
少なくとも、現行「月島三丁目地区地区計画」に従い、個別更新をする努力をされてきた方を施行区域から除くなど、規模を縮小して施行区域の設定を再検討することも必要である(資料15、⑱頁)。
大切な地域コミュニティを守るためにも、一度立ち止まり、まちづくりの民主的な手続きの下、月島の再生を考える必要があり、本事業を監査し、請求通りの措置を行うことを求める。
以上