選挙権は、最も重要な権利のひとつです。これを獲得し有効に行使するためにこそ、表現の自由が存在しているとも言い得ます。
その選挙権は、法律上、住民台帳に登録がなければ得ることができません。
東京の下宿生で、地元出身県の実家にそのまま住民票登録が残っているひとは、地元出身県では、居住実態はないため、住民登録があったとしても、原則、その親元に投票用紙が届いていない可能性があります。もしくは、調査漏れで、生活実態があるとみなされ、投票用紙が親元に届いていることも、あるかもしれません。
この場合に、居住実態があって、住民登録がなされていない東京選挙区で投票できるか、考え方が分かれるところです。
ただし、地元出身県であれ、東京都であれ、参院選全国区の比例区選出については、候補は同じわけであるから、投票できると考えるのが当然ではないでしょうか。
なお、現在、在外邦人は選挙区に生活の本拠はないが投票できることになっています。
新聞記事では、岡田信弘・北海学園大法科大学院教授が、選挙制度の不備と述べられておられますが、まさにそのとおりであると考えます。
制度の不備がある中、今のところは、少なくとも各地域の選挙管理委員会が裁量判断で、全国区だけでも、下宿生に選挙権を与える配慮がなされることを願います。
下宿生の皆さん、大事な投票権を、絶対、失わないで下さい!下宿のある区の選挙管理委員会に問い合わせをして、事情を説明し、必ず自分の選挙権を獲得してください!
東京都中央区の場合は、ご相談下さい。一緒に中央区選挙管理委員会に行きましょう。
以下、朝日新聞による問題提起です。
*********朝日新聞20160629***********************
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12432304.html
下宿生の一票、割れる選管 住民票が実家のまま→投票できぬ例も
2016年6月29日05時00分
実家に住民票を残し、親元を離れて大学などに通う下宿生は投票できるのか。「18歳選挙権」で注目される今回の参院選で、選挙管理委員会の判断が割れている。
■名簿登録されず
高知県香南(こうなん)市、三原村選管は参院選公示日前日の21日に18~20歳の計106人を選挙人名簿に登録しなかった。大半が外に出た大学生や短大生という。
香南市は新たに選挙権を得た18~20歳に文書を送り、市内に住んでいるか確認。登録しなかったのは「住んでいない」と返信があった95人だ。返信がなかった297人を含む570人はそのまま登録した。
5月末に文書を送った三原村も全25人から回答を得て、17人を登録しなかった(その後、転居から4カ月未満の6人を補正登録)。
公職選挙法では、居住実態のない住民は投票できないと定め、市町村選管には調査の権限がある。総務省はこれまでも国政選挙時などに「適切な調査」を求めているが、どこまで調査するかは選管の判断に委ねられている。複数の県選管によると、人口の少ない自治体では以前から詳しく調査する傾向があるという。
両市村の今回の調査は、18歳選挙権も踏まえて総務省が4月に出した通知をもとに行われた。これまでも定期的に調査してきたが、選挙権年齢の引き下げで、登録されない若者がほぼ倍増したという。
北海道では少なくとも10町で新たに有権者となった18~19歳の計283人が名簿に登録されていないことがわかった。総務省選挙課は「生活実態に疑義があれば各選管としては調べる。一方で投票できるかどうかは個別事情を踏まえて判断されている」としている。
■不在者投票でも
地元を離れている人が不在者投票で一票を投じることができるかについても、選管の判断が分かれる。愛媛県宇和島市の女性は今月中旬、東京に住む20歳と19歳の子どもに不在者投票をさせようと市役所に出向いたが、断られた。
市選管が根拠とするのが、1954年の最高裁の判例だ。学生寮が住所(生活の本拠)となるかが争われ、「親元を離れて居住する学生の住所は寮または下宿先」と認定された。小島健治係長は「下宿の事実を告げられたら、できないと言わざるを得ない」と話す。
横浜市は市内の下宿生向けに、住民票を移すよう求める一方、「移していない人は不在者投票を」と呼びかけるリーフレット2万部を市内の27大学で配った。投票用紙を地元の選管に請求すると、最寄りの選管で投票できる、と説く。
市選管の橋本幹雄・選挙課長は「個々の生活実態までとても把握できない。棄権を減らす取り組みをするのが現実的」と説明する。
■制度上の不備
選挙制度に詳しい岡田信弘・北海学園大法科大学院教授の話 選挙権は行使して初めて意味がある。制限するには「やむを得ない理由」が必要だ。比例区が全国単位の参院選で生活実態をどこまで厳格に調べる必要があるか、疑問が残る。在外邦人は選挙区に生活の本拠はないが投票できる。それぞれの選管の意向で投票できるかどうかが違うのは不平等で、制度上の不備。若い有権者が住民票を移さなかったことに問題がないわけではないが、不在者投票で一票を行使できるようにするべきだ。
*********新聞記事引用の最高裁判所 1954年昭和29年 判決*****************
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/190/056190_hanrei.pdf
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告人訴訟代理人弁護士坂千秋、同渡辺泰敏の上告理由は末尾添付のとおりであ
る。
上告理由第一点について。
論旨は、原判決は、公職選挙法九条及び二〇条に規定する「住所」の解釈を誤つ
た違法があるというのである。
およそ法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合、反対の解
釈をなすべき特段の事由のない限り、その住所とは各人の生活の本拠を指すものと
解するを相当とする。
本訴の争点は、被上告人等四七名が昭和二八年九月一五日現在において、その日
まで引続き三箇月以来a村の区域内に住所を有していたかどうかの一点にあるので
ある。そこで原判決が確定した事実によれば、同人等はD大学の学生であつて、a
村内にある同大学附属E寮にて起臥し、いずれも実家等からの距離が遠く通学が不
可能ないし困難なため、多数の応募学生のうちから厳選のうえ入寮を許され、最も
長期の者は四年間最も短期の者でも一年間在寮の予定の下に右寮に居住し本件名簿
調製期日までに最も長期の者は約三年、最も短期の者でも五ヶ月間を経過しており、
休暇に際してはその全期間またはその一部を郷里またはそれ以外の親戚の許に帰省
するけれども、配偶者があるわけでもなく、又管理すべき財産を持つているわけで
もないので、従つて休暇以外は、しばしば実家に帰る必要もなく又その事実もなく、
主食の配給も特別の場合を除いてはa村で受けており、住民登録法による登録も、
本件名簿調製期日にはB外五名を除いては同村においてなされていたものであり、
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右六名も原判決判示のような事情で登録されていなかつたに過ぎないものというの
である。以上のような原判決の認定事実に基けば、被上告人等の生活の本拠は、い
ずれも、本件名簿調製期日まで三箇月間はa村内E寮にあつたものと解すべく、一
時的に同所に滞在または現在していた者ということはできないのである。従つて原
判決が被上告人等は本件a村基本選挙人名簿に登録されるベきものとし、これに反
する上告人委員会のした決定を取り消したのは正当であるといわなければならない。
論旨は、国会議員の選挙権と普通地方公共団体の議会の議員及びその長の選挙権
とは、その本質において前者は単に成年以上の国民であれば足るのに反し(公職選
挙法九条一項)、後者は右の外に当該地方公共団体の人的構成員たることの要件、
即ち住所要件を具備することを必要とする(地方自治法一〇条、一一条、一八条及
び公職選挙法九条二項)、しかるに公職選挙法は右両者の選挙人を一の選挙人名簿
によることとしたため前者についても住所地をもつて選挙権行使の地とするに至つ
たのである(公職選挙法一九条)、しかるに原判決は公職選挙法上の住所(即ち国
会議員の選挙の場合の住所)のみを考慮し、地方自治法上の住所(即ち地方公共団
体の選挙の場合の住所)について考慮をしていないと非難する。しかしながら前示
のような事実関係のもとにおいては、被上告人等は、日常a村内E寮を本拠として
生活しているのであつて、これを同村の住民と解することに少しも支障はないので
ある。郷里またはその他の入寮前の居住地こそ、入寮後の日常生活においては直接
に関係がないのであつて、特段の事情のない限り、それらの土地になお生活の本拠
があると認定することこそ却つて失当であるというべきである。また、公職選挙法
二七〇条二項は、病院その他の療養施設に入院加療中の者に対してはその場所に住
所があるものと推定してはならない旨を規定しているけれども、学生と入院加療中
の者とではその原居住地えの復帰の蓋然性その他日常の生活の態様を異にし、右二
七〇条二項をもつて学生の場合を律することはできないものといわなければならな
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い。何れにせよ同条項は療養者にのみ適用ある規定であるから、在寮学生を療養者
と同一視しなかつたことだけは明らかであるのである。論旨はまた、原判決が学資
の出所如何は住所の認定に無関係である旨判示しているのは失当であると非難する。
しかし論旨摘録の原判示は、学資の出所のみによつて住所の認定が左右さるべきわ
けのものではないとの判旨であつて、学資の出所如何は住所の認定上全然無関係で
あるとした趣旨とは解されないから、論旨の非難は当らない。
上告理由第二点について。
論旨は、原審は審理を尽さずして住所を認定し、またその理由において不備があ
り且つ判断遺脱の違法があるというのである。しかし、原判決は当事者の主張及び
立証に基き且つ所論すべての点をも考慮に入れたうえ、被上告人等の住所がa村に
ありと認定判断したものであることは、一件記録に徴し十分肯認できるのである。
そしてもし右修学地以外の場所に生活の本拠ありとすべき特別の事実が存在する場
合においては、かかる事実の存在を主張する当事者において主張立証すべき事項で
あつて、その主張立証のない以上、原判決に所論の各違法ありとはいい得ない。
以上のとおり、原判決はその理由において以上説明と多少異るところがあるけれ
どもその結論は結局正当に帰し、本件上告は理由がないからこれを棄却すべきもの
とし、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見である。
最高裁判所大法廷
裁判長裁判官 田 中 耕 太 郎
裁判官 栗 山 茂
裁判官 真 野 毅
裁判官 小 谷 勝 重
裁判官 斎 藤 悠 輔
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裁判官 藤 田 八 郎
裁判官 岩 松 三 郎
裁判官 河 村 又 介
裁判官 谷 村 唯 一 郎
裁判官 小 林 俊 三
裁判官 本 村 善 太 郎
裁判官 入 江 俊 郎
裁判官霜山精一は退宮につき署名捺印することができない。
裁判長裁判官 田 中 耕 太 郎
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