「八重洲一丁目北地区第一種市街地再開発事業」に関する意見書
東京都中央区月島で小児科クリニックを開業しております小児科医師の小坂和輝と申します。気候変動から地球環境を守り、子ども達が健やかに育つ環境をこれからも残していくべき小児科医師の立場から、今回の「八重洲一丁目北地区第一種市街地再開発事業(以下、本件事業)」に対して意見を申し述べます。環境影響評価条例の趣旨を生かし、環境への配慮がなされることで環境保全がなされるようお願い申し上げます。
資料として、令和元年6月11日開催の中央区議会環境建設委員会で配布された「令和元年度(中央区内における)再開発事業等の取組」と題する資料(以下、「添付資料」という。)のコピーを添付致します。添付資料からは、現在中央区内には、大規模な再開発事業が29進行中であることがわかります。添付資料の中で、No.6が本件事業となります。
【意見1】風環境が大幅に悪化しており、本件事業の建物高さを低くすることや規模を小さくすることなど抜本的な対策を求めます。
もし、本件事業を、当初案のまま続行する場合には、建築後の「事後調査報告書」において、領域Dが出現する場合には、都及び事業者が責任を持って対応をすることを求めます。
理由:建設後(対策前)に風環境評価指標で、「好ましくない風環境」である風環境評価指標の「領域D:強風地域相当」が3地点出現し(評価書案 図7.5-8(2) 226頁)、建設後(対策後)にそれらは領域Cや領域Bに軽減しています。建設後(対策後)に、他の場所、例えば外堀通り内などで、領域Dが移動をして発生している可能性もあります。
また、風環境は、領域Aが、建設後(対策後)が、建設前から5地点減少し、領域Cは、建設後(対策後)が建設前から8地点増加しており、風環境について大幅な悪化が認められています(評価書案 223頁、表7.5-5(2))。
従って、本件事業の建物高さを低くすることや規模を小さくすることなど抜本的な対策を求めます。
なお、「領域D」「強風地域相当」の3地点が、対策後に消失した部分については、どのような防風対策をしたのかを具体的に詳細に記述をお願いします。
【意見2】環境影響評価において、「工事の施行中の建設機械の稼働に伴う二酸化窒素が0.069ppm」(評価書案 表7.1-36)、また、「工事用車両の走行に伴う騒音が64~71dB」(評価書案 表7.2-23)であり、環境基準を超えた数値が出されています。再度、工事日程を調整するなど対策をとった上で、環境基準内にそれら数値を押さえることを求めます。前述の風環境において、対策後に領域Dが消失した記述があるように、大気汚染及び騒音の環境基準超過箇所にも対策をして、環境基準内におさめたことの記述をお願いします。もちろん、どのように対策をしたかの記述も具体的にお願いします。
理由:添付資料で分かる通り、この再開発事業だけならまだしも、同時期に、多数の再開発事業が日本橋川周辺でなされます。「塵(ちり)も積もれば山となる」と言われますように、それらが複合的に合わさって大きな環境負荷をかけることをたいへん懸念しています。ゆえに、それぞれの再開発が、少なくとも環境基準内で抑えることが重要と考えています。それこそが、この環境影響評価をすることのひとつの重要な意義ではないでしょうか。
大気汚染については、見解書の記載において、最新の排出ガス対策型建設機械の導入を何台したかなど具体的な対策の記載を求めます。
大気汚染において「事後調査報告書」を取りまとめるということであるが、大気汚染も、騒音・振動も都民生活に密着しており、事後調査中の基準の超過があった場合、工事を止めて再点検をするなど、きめ細かく東京都が指導に入れるように庁内連携をお願いいたします。
【意見3】「調査計画書」を再度作成する段階に立ち戻り、環境影響評価を行うことを求めます。
理由:本来、東京都の環境影響評価は、「調査計画書」を作成・検討し、その後、「評価書案」を作成・検討、最終的に「評価書」を作成していく流れになっています。ところが、本件事業は、「調査計画書」のプロセスを省略しています。現在の条例の規定に沿ったとは言え、延べ床面積18万㎡を越し、高さも233m、工期を2023年度から2035年度と12年間の長期間の工期をかける大規模な施設を建設するため、慎重に環境への負荷を検討するべきであり、「調査計画書」の段階を省くことはできないと考えます。
【意見4】本件事業単体ではなく、「首都高速都心環状線の地下化(神田橋JCT~江戸橋JCT)」含め、日本橋川周辺の同時期の大規模な少なくとも6事業を一体として、環境影響評価を行うことを求めます。
理由:日本橋川周辺には、本件事業以外に再開発事業は、以下の4地区(①~④)が少なくとも進行中であり、首都高地下化をする事業もあり、少なくとも合計6事業がほぼ同時期に進んで行きます。
①日本橋一丁目1・2番街区(所在地 日本橋一丁目1、2番) 敷地面積6600㎡ 図面No.1
②日本橋一丁目中地区(所在地 日本橋一丁目4~12番) 敷地面積24600㎡ 図面No.2
③日本橋一丁目東地区(所在地 日本橋一丁目14~17番、18番の一部、20、21番)敷地面積9300㎡ 図面No.3
④日本橋室町一丁目地区(所在地 日本橋室町一丁目5番の一部、6、8番)敷地面積6830㎡ 図面No.5
これら6事業がそれぞれに規模が大きく、現実的には総体として周辺地域への環境負荷を及ぼすこととなるため、6事業を合せた形での環境影響評価を行うべきと考えます。
少なくとも、これら事業の影響も加味して、本件事業の環境影響評価を行うべきと考えます。
【意見5】工事用車両走行ルートは、「日本橋」の橋梁や中央通りを通過しないことを求めます。
理由:工事用車両走行ルートが、「日本橋」の橋梁や中央通りを通過することが示されています(見解書 25頁と26頁、図3.3-1(1)と同(2))。中央通りは、特に、中央区の商業観光の中心である場所であり、訪れる方々が、極力、工事車両の騒音や排ガスに暴露しないようにして、「日本橋」の橋梁を中心に楽しめるようにするため、走行ルート変更を求めます。人通りも多く、交通事故などを防ぐためにもよろしくお願い致します。
【意見6】排水において、トイレからの糞尿の負荷が多大になることからすると「水質汚濁」の項目も、環境影響評価に入れることを求めます。
理由:「水質汚濁」の項目の評価がなされておりません。糞尿は、結局、下水道から公共下水道に流されていくことになります。公共下水道が合流式のため、水質汚濁の原因の一つとなりますので、評価に入れることを求めます。(参照 評価書案の概要 23頁 図5.2-9)
【意見7】日本橋川沿いの空間を活かすために、日影や建物の圧迫感がないように建物の位置に配慮することを求めます。
理由:本事業の基本的な目標・方針自体、日本橋川交流拠点の象徴を謳っています(評価書案16頁)。
【意見8】施行区域内で、エネルギーをまかなうZEB(Net Energy Building、ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)の取組みを行うことを求めます。
理由:延べ床面積18万㎡と大規模な開発であり、排出する温暖化ガスも多量となることが考えられます。(熱源計画 評価書案の概要 19頁)
本件事業の基本的な目標・方針にある環境負荷を減らすために(評価書案16頁)、同取組を求めます。
【意見9】本件事業で建設された施設・建築物を、耐用年数が過ぎて取り壊す際に、どれだけ廃棄物が出るかの評価も併せて行うことを求めます。
理由:大規模な建築物であり、耐用年数後の取り壊しにおいても、多量の廃棄物が出ることが明らかです。それらも併せて、全体で評価をすることが、後の世代への環境負荷を減らすためにも重要だと考えます。
【意見10】日本橋川周辺へは、日影をさける更なる配慮をお願いいたします。
理由:日本橋の橋梁付近はじめ日本橋川の川沿い空間において、日影時間が、周辺開発建物も含めるとかなりの時間がかかることとなります。せっかく首都高を地下化して上空を取り戻したのであるから、ぜひとも、太陽のある上空であることを願います。(参照 評価書案 181頁、表7.3-9)
以上