私たち小児科医師が、予防接種行政のあるべき形と考える点を4点、
小児科学会から、厚生労働大臣に要望書としてH24.9.19に提出されました。
水痘ワクチン、おたふくかぜワクチン、B型肝炎ワクチンの定期接種化と
ワクチンの接種間隔の変更に関する要望です。
ぜひ、前進されますことを期待いたしております。
水痘ワクチンの早期定期接種化について
http://www.jpeds.or.jp/saisin/saisin_120921_1.pdf
おたふくかぜワクチンの早期定期接種化について
http://www.jpeds.or.jp/saisin/saisin_120921_2.pdf
B型肝炎ワクチンの定期接種化等に関する要望
http://www.jpeds.or.jp/saisin/saisin_120921_5.pdf
異なるワクチンの接種間隔変更に関する要望書
http://www.jpeds.or.jp/saisin/saisin_120921_4.pdf
******小児科学会ホームページより******
平成24 年9 月19 日
厚生労働大臣
小宮山 洋子 殿
公益社団法人 日本小児科学会
会長 五十嵐 隆
要 望 書
水痘ワクチンの早期定期接種化について
厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会から予防接種制度の見直しについて(第二次
提言)が平成24 年5 月23 日に公表されました。この中で水痘について、1 類疾病の「集団
予防を図る目的で予防接種を行う疾病」に位置づけ、広く接種を促進していくことが望ま
しいと記載されています。この提言に沿って、速やかに水痘ワクチンの定期接種化を実現
して頂けるように要望します。
水痘は、水痘−帯状疱疹ウイルス( varicella-zoster virus:VZV)の初感染によって起こる
感染症です。一般に、水痘は子どもの軽い病気とあなどられがちですが、中には重症化し
て入院が必要となったり、様々な合併症を併発して後遺症を残したり死亡することがあり
ます1)。また、水痘は感染力が極めて強く、保育所や幼稚園では毎年大規模な流行が繰り返
されており、小児科病棟では入院中の水痘発症が後を絶たず、発症者が複数となり、病棟
閉鎖をせざるを得ない状態になった小児科病棟もあり2)、小児の医療現場では水痘の患者数
をまず減少させることが喫緊の課題となっています。
水痘は感染症法に基づく5類感染症定点把握疾患として、全国約3,000 カ所の小児科定点
医療機関から毎週患者数が報告されていますが,毎年約25 万人の報告があり、ここから推
計した全国の年間受診患者数は、約120~150 万人と考えられています。
2004~2005 年度の厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)により実施
した「水痘・帯状疱疹の重症化例・死亡例全国調査(主任研究者:岡部信彦、分担研究者:
神谷 齊、浅野喜造、堤 裕幸、多屋馨子)」では、2004 年は回収率41%の段階で、年間
1,655 名の入院と7 名の死亡(2 名は健康成人)、2005 年は回収率37.3%の段階で1,276 名の
入院と3 名の死亡が報告されており、水痘ワクチンの定期接種化が求められてきました3)。
しかし、2012 年現在、定期接種化は実現されておらず、接種率が30%程度と低いことから、
毎年100 万人を超える発症者とそれに伴う重症化例、死亡例が発症しています。生ワクチ
ンが開発されている麻疹、風疹、水痘、おたふくかぜの4 疾患の中で、麻疹と風疹は定期
接種化に加えて2 回接種導入により患者数は激減していることから、2004 年以降わが国で
2
死亡報告が最も多い疾患が水痘になっています(人口動態統計より)。
日本医師会・日本小児科医会・日本小児科学会合同調査委員会は、入院施設を有する全
国の病院を対象に、2009~2011 年の3 年間に水痘・帯状疱疹による重症例や重篤な後遺症
例・死亡例がどの程度存在したかの実態を明らかにすることを目的に、全国調査を実施し
ました。その結果、回収率18.7%の段階で既に、水痘による入院例が3 年間で3,458 人、帯
状疱疹による入院例が同期間で19,277 人報告され、ACTH あるいは化学療法中に水痘ある
いは帯状疱疹を発症し6 名(小児1 名、成人5 名)が死亡していました。水痘そのものが
重症化して入院になった例も多くありましたが、肺炎・気管支炎、熱性痙攣、肝機能障害、
脳炎・脳症、小脳失調、基礎疾患の増悪が多く報告され、9 名(小児5 名、成人4 名)が急
性脳症あるいは髄膜脳炎等を合併し重篤な後遺症を残していました4)。
0 歳児や30 歳以上の成人が罹患すると、他の年齢で発症するより致命率が高く、30 歳以
上の成人では、水痘患者10 万人あたりの致命率は約25 人と報告されています5)。特に、出
産前5 日、出産後2 日に水痘を発症した母親から生まれた新生児、免疫不全患者、乳児期
後期、15 歳以上、妊婦は水痘が重症化することからハイリスク集団と言われており、妊婦
が妊娠20 週までに発症した場合、先天性水痘症候群(低出生体重,四肢低形成,皮膚瘢痕,
局所的な筋萎縮,脳炎,皮質の萎縮,脈絡網膜炎,小頭症など)の児が出生する可能性が
有ります。
国内での血清疫学調査によると、3~6 歳児で約70%、7~12 歳で約90%が抗体を保有し
ていることがわかっており6)、水痘ワクチンの接種率は高くないことから,抗体獲得のほと
んどが自然感染によって得られたものと考えられます。
米国では水痘ワクチンの2 回接種により重症の水痘患者が激減しており、水痘による入
院例が減少しています7)。これはすなわち、現在わが国で問題になっている水痘の重症化
例・死亡例の発症と、院内発症に伴う医療関連感染を予防することに繋がることが既に海
外で証明されていることになります。水痘ワクチンは、高橋理明博士により国内で開発さ
れたワクチンであり、もともと白血病や免疫不全症等の基礎疾患を有する子ども達を水痘
から予防することを目的に開発されたワクチンであることから、健康小児に接種した場合
の副反応は極めて少なく、安全性の非常に高いワクチンであることが証明されています。
厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会水痘ワクチン作業チーム報告書によると、定
期接種化により2 回接種し、将来において定常状態となった場合、社会経済的視点では1
年あたり約362.3 億円の費用低減が期待できると推計されています8)。
小児のみならず、免疫のない成人を水痘の重症化あるいは死亡から守り、水痘ワクチン
を受けることができない基礎疾患を有する者や妊婦を重症の水痘あるいは死亡から守るた
めには、水痘ワクチンの定期接種化によりまず接種率を上げ、水痘患者数を減少させるこ
とが必要であるので、医学的、医療経済学的、公衆衛生学的観点から、一刻も早い水痘ワ
クチンの定期接種化を要望いたします。
3
(文献)
1. 中井英剛, 菅田健, 吉川哲史, 浅野喜造:医原性免疫不全宿主に発症した水痘または
帯状疱疹による重症化例の全国調査. 小児感染免疫.23(1):29-34,2011.
2. 勝田友博, 中村幸嗣, 鶴岡純一郎,他:大規模小児医療施設における院内水痘発症状況.
日本小児科学会雑誌.115(3):647-652, 2011.
3. 多屋馨子、神谷 齊、浅野喜造、他:水痘、流行性耳下腺炎重症化例に関する全国
調査.平成16 年度・平成17 年度厚生労働科学研究費補助金新興・再興感染症研究事
業(主任研究者 岡部信彦)分担研究報告書
4. 日本医師会・日本小児科医会・日本小児科学会合同調査委員会 保坂シゲリ、小森 貴、
保科 清、他: ムンプスウイルスおよび水痘・帯状疱疹ウイルス感染による重症化症
例と重篤な合併症を呈した症例についての調査. 日本小児科医会報. in press
5. Education, Information and Partnership Branch, National Center for Immunization and
Respiratory Diseases. Varicella. In: Centers for Disease Control and Prevention. 12th
Edition Second Printing. Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable
Diseases.The Pink Book: Course Textbook. Atlanta: 2012. p301-324. 2012 年7 月
現在URL:http://www.cdc.gov/vaccines/pubs/pinkbook/varicella.html
6. Ueno-Yamamoto K, Tanaka-Taya K, Satoh H, et al: THE changing seroepidemiology
of varicella in Japan: 1977-1981 and 2001-2005. Pediatr Infect Dis J. 29(7):667-9, 2010.
7. Marin M, Zhang JX, Seward JF: Near elimination of varicella deaths in the US after
implementation of the vaccination program. Pediatrics. 128:214-220, 2011.
8. 予防接種部会 ワクチン評価に関する小委員会 水痘ワクチン作業チーム:水痘ワ
クチン作業チーム報告書.( URL
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000014wdd-att/2r98520000016rqn.pdf)
*********
要 望 書
おたふくかぜワクチンの早期定期接種化について
厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会から予防接種制度の見直しについて(第二次
提言)が平成24 年5 月23 日に公表されました。この中でおたふくかぜについて、1 類疾病
の「集団予防を図る目的で予防接種を行う疾病」に位置づけ、広くワクチン接種を促進し
ていくことが望ましいと記載されています。この提言に沿って、速やかにおたふくかぜワ
クチンの定期接種化を実現して頂けるように要望します。
おたふくかぜは、流行性耳下腺炎あるいはムンプスとも呼ばれ、ムンプスウイルスの感
染によって起こる感染症です。一般的に、おたふくかぜは子どもの軽い病気とあなどられ
がちですが、中には重症化し入院が必要となることがあり、また、様々な合併症を併発し
後遺症を残すこともあります。たとえば、ムンプス難聴は、片側が多いものの、稀ではあ
りますが両側となり、人工内耳埋込手術が必要になることもあります。また、思春期以降
に罹患すると精巣炎(睾丸炎)あるいは卵巣炎を併発することがありますが、特に精巣炎
では精巣萎縮を伴い、精子数が減少するという報告もあります1)。髄膜炎・脳炎・脳症、膵
炎も軽視できない合併症です。
流行性耳下腺炎は、毎年、保育所や幼稚園で患者発生とそれに伴う流行が見られるため、
3~6 歳で患者数の約60%を占めますが、成人での発症もあります。流行性耳下腺炎は感染
症法に基づく5類感染症定点把握疾患として、全国約3,000 カ所の小児科定点医療機関から
毎週患者数が報告されていますが, 5~6 年毎に大規模な流行が繰り返されているのが現状
です。年間の報告数は約7~25 万人であり、ここから推計した全国の年間受診患者数は、
約40~120 万人と考えられています。
2004~2005 年度の厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)により実施
した「流行性耳下腺炎の重症化例・死亡例全国調査(主任研究者:岡部信彦、分担研究者:
神谷 齊、浅野喜造、堤 裕幸、多屋馨子)」では、2004 年は回収率41%の段階で、年間
1,624 名の入院が、2005 年は回収率37.3%の段階で2,069 名の入院が報告されており、5 歳
をピークに合併症による入院が多く報告されました。成人でも合併症による入院が20~40
代をピークとして認められました。合併症としては、髄膜炎の頻度が最多で、ついで精巣
炎、熱性痙攣、難聴・内耳炎・内耳障害、膵炎が続きました。以上のようなことから、お
2
たふくかぜワクチンの定期接種化が求められてきました2)が、2012 年現在、定期接種化は
実現されておらず、接種率は30%程度と低迷しています。
日本医師会・日本小児科医会・日本小児科学会合同調査委員会は、入院施設を有する全
国の病院を対象に、2009~2011 年の3 年間におたふくかぜによる重症例や重篤な後遺症例・
死亡例がどの程度存在したかの実態を明らかにすることを目的に、全国調査を実施しまし
た。その結果、回収率18.7%の段階で既に、おたふくかぜによる入院例が3 年間で4,808 人
報告され、基礎疾患のない小児1 名が急性脳症発症後に肺炎を合併して死亡していました。
おたふくかぜそのものが重症化して入院になった例も多くありましたが、髄膜炎の2,523 名
を筆頭に、脱水症、精巣(睾丸)炎、難聴、膵炎、脳炎・脳症、心筋炎、卵巣炎等多数の
合併症が報告され、基礎疾患の増悪や他疾患で入院中の発症も多く報告されました。また、
78 名(小児55 名、成人23 名)は重篤な後遺症を残したと報告されました。内訳は、聴力
低下が61 名(小児43 名、成人18 名)、髄膜炎・脳炎・脳症11 名、精巣炎3 名、喉頭浮腫
1 名、肝炎1 名、部分てんかん1 名であり3)、決して子どもの軽い病気とは言えません。
森島らは、厚生労働科学研究費補助金(新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事
業)により、小児の急性脳炎・脳症の実態を研究していますが、15 歳以下の小児だけで年
間約1,000 名の急性脳炎・脳症例が発症しており、その中で、ムンプス脳炎は、全体の3%
を占め、インフルエンザ、HHV-6/7,ロタウイルスに次いで4 番目に多い原因と報告されてい
ます4)。
海外では麻疹風疹おたふくかぜ(MMR)ワクチンの2 回接種が小児の定期接種に導入さ
れている国が多く、ワクチンの効果によりおたふくかぜの患者数は激減しており、先進国
でおたふくかぜワクチンが定期接種化されていない国は日本だけになっています1)。
一方、おたふくかぜワクチン接種後に無菌性髄膜炎を発症することがあります。予後良
好とは言え、頻度が国産の単味ワクチンで0.03~0.06%と報告されており1)、接種前には十
分な説明と被接種者の理解が必要です。自然感染による無菌性髄膜炎の発生は日本外来小
児科学会の永井らの調査によると1.24%とされており5)、ワクチン接種後の方がその頻度は
低いことが明らかです。日本医師会・日本小児科医会・日本小児科学会合同調査委員会で
は、おたふくかぜワクチンによる副反応で入院した患者数も同時に調査していますが、3 年
間で40 名が髄膜炎の合併により入院加療を受けていました。いずれも軽症であり、ワクチ
ン接種による聴力低下や脳炎・脳症、死亡例の報告はありませんでした3)。
厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会おたふくかぜワクチン作業チーム報告書によ
ると、定期接種化により2 回接種し、将来において定常状態となった場合、社会経済的視
点では1 年あたり約289.8 億円の費用低減が期待できると推計されています6)。
小児のみならず、免疫のない成人をおたふくかぜの重症化あるいは後遺症から守り、お
たふくかぜワクチンを受けることができない基礎疾患を有する者や妊婦をおたふくかぜか
ら守るためには、おたふくかぜワクチンの定期接種化によりまず接種率を上げ、おたふく
かぜの患者数を減少させることが必要です。医学的、医療経済学的、公衆衛生学的観点か
ら、一刻も早いおたふくかぜワクチンの定期接種化を要望いたします。
3
(文献)
1. 国立感染症研究所:おたふくかぜワクチンに関するファクトシート.平成22 年7 月7
日版(URL:
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000bx23-att/2r9852000000bybc.pdf.)
2. 多屋馨子、神谷 齊、浅野喜造、他:水痘、流行性耳下腺炎重症化例に関する全国
調査.平成16 年度・平成17 年度厚生労働科学研究費補助金新興・再興感染症研究事業
(主任研究者 岡部信彦)分担研究報告書.
3. 日本医師会・日本小児科医会・日本小児科学会合同調査委員会保坂シゲリ、小森 貴、
保科 清、他: ムンプスウイルスおよび水痘・帯状疱疹ウイルス感染による重症化症
例と重篤な合併症を呈した症例についての調査. 日本小児科医会報. in press.
4. 森島恒雄.小児の急性脳炎・脳症の現状. ウイルス. 59(1): 59-66, 2009.
5. Nagai T, Okafuji T, Miyazaki C, et al: A comparative study of the incidence of aseptic
meningitis in symptomatic natural mumps patients and monovalent mumps vaccine recipients
in Japan. Vaccine 25: 2742-2747, 2007.
6. 予防接種部会 ワクチン評価に関する小委員会 おたふくかぜワクチン作業チー
ム:おたふくかぜワクチン作業チーム報告書
(URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000014wdd-att/2r98520000016rqu.pdf.)
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要 望 書
B型肝炎ワクチンの定期接種化等に関する要望
厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会から予防接種制度の見直しについて(第二次
提言)が平成24 年5 月23 日に公表されました。この中でB型肝炎について、1類疾病の
「致命率が高いこと、または感染し長期間経過後に重篤になる可能性が高い疾病になるこ
とによる、重大な社会的損失の防止を図る目的で予防接種を行う疾病」に位置づけ、広く
ワクチン接種を促進していくことが望ましいと記載されています。この提言に沿って、速
やかにB型肝炎ワクチンの定期接種化を実現して頂けるように要望します。
日本ではB型肝炎ウイルス(HBV)に起因する肝癌の死亡者数は年間約5,000 人、肝硬
変による死亡者数は1,000 人と推計されており、子宮頚癌による死亡者数の2倍以上に達
しています1)。また医療経済面では、医療費助成制度が設けられるなど、B型慢性肝疾患の
治療には高額な費用負担が生じます。加えて、HBV のキャリア状態が終息したと判断され
た人も、近年の多様化している免疫抑制療法の治療中にHBV 感染の再活性化が起こり非
常に重篤な肝炎を起こす事例(de novo 肝炎など)が日本には多いことが判明し、その予
防や治療のために多額の医療費が必要になっています1)。
日本ではこれまでHBV の母子感染予防に力を入れ、大きな成果をあげてきたと評価でき
ます。一方、近年これらの予防措置からはずれる症例も多く、また若年成人を中心に現在
も年間6,000 人以上の新規感染者がいると推計されます2)。このため母子感染予防だけでは
制御できない現状があり、水平感染を視野に入れた感染防止対策が強く求められています。
とくに小児のHBV 感染者は無症状でも体液中のウイルス量が多く、感染源になりやすい可
能性も考えられ、保育所や運動部での集団感染事例も散見されます。このためかHBV キャ
リア小児が保育所通園を断られるなど、深刻な事態も発生しています。
2
HBV 感染者が1歳未満の場合 90%、1~4歳の場合は20~50%、それ以上の年齢にな
ると1%以下の確率でキャリアに移行します。一方、乳児にB型肝炎ワクチンを接種する
と95%以上で抗体が獲得され、感染防止効果は20 年以上続き、安全性も高いことが確認さ
れています1)。このため、世界保健機関(WHO)は全ての小児へのB型肝炎ワクチン接種を
勧告しており、2010 年の時点ですでに179 か国がこれを導入しています。
以上のような経緯から、B型肝炎ワクチンの定期接種化は極めて重要な施策であり、早
期に実現できるよう、よろしくお願い申し上げます。これに関連して、乳児へのワクチン
接種回数を減らし、接種費用の軽減を図るために、他のワクチンとの混合ワクチンの開発・
導入を早急に検討して下さるようにお願いいたします。また、小児HBV 感染では家族内感
染が多くを占めることから2)、定期接種化と並行して、HBV キャリアの同居家族へのワク
チン接種も緊急の施策として進めて頂けるようにお願い申し上げます。
1) 厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会 ワクチン評価に関する小委員会報告書
2)厚生労働科学研究 肝炎等克服緊急対策研究事業「B 型肝炎の母子感染および水平感染
の把握とワクチン戦略の再構築に関する研究」平成23 年度 総合・分担研究報告書 研
究代表者 森島恒雄
***********
異なるワクチンの接種間隔変更に関する要望書
異なるワクチンの接種間隔について、従来我が国においては、生ワクチン接種後は27 日
以上、不活化ワクチン接種後は6 日以上空けるように定められている。
注射生ワクチン同士の接種については、免疫産生のうえで理論的に起こり得る干渉現象
を回避するために、同時接種でない場合は27 日間以上の接種間隔が必要である。しかし、
不活化ワクチンや経口生ワクチン接種後のすべての種類のワクチン接種、あるいは注射生
ワクチン接種後の不活化ワクチンや経口生ワクチン接種については接種間隔を置かなけれ
ばならない特段の科学的理由は見当たらない。米国や英国をはじめとする海外のほとんど
の国においては、注射生ワクチン同士の接種間隔に規制を設けているが、他の接種間隔に
は規制を設けていない。また、最近の我が国における有害事象報告において、接種間隔が
最短である同時接種における重篤な有害事象の明らかな増加はみられない。
沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン、インフルエンザ菌b型ワクチン、肺
炎球菌結合型ワクチン、組換え沈降B 型肝炎ワクチン、弱毒生ロタウイルスワクチン、不
活化ポリオワクチン(平成24 年9 月1 日導入)など乳児期に接種すべきワクチンは増加し
ているが、現状の接種間隔の規定により、適切な時期に適切な数のワクチン接種が行いに
くい状況となっている。
以上より、異なるワクチンの接種間隔について、以下のように改訂することを要望する。
1) 乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチン、乾燥弱毒生麻しんワクチン、乾燥弱毒生
風しんワクチン、乾燥弱毒生水痘ワクチン、乾燥弱毒生おたふくかぜワクチン、経皮用
乾燥BCG ワクチンなど注射生ワクチンを接種した日から、次の注射生ワクチン接種を
行うまでの間隔は27 日以上置くこと、次の不活化ワクチンや経口生ワクチン接種を行
うまでの間隔は制限しないこと。
2) 沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン、インフルエンザ菌b型ワクチ
ン、肺炎球菌結合型ワクチン、乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン、沈降ジフテリア破傷風
混合トキソイド、組換え沈降B 型肝炎ワクチン、組換え沈降ヒトパピローマウイルス
2
様粒子ワクチンなど不活化ワクチンを接種した日から、次のすべての種類のワクチン接
種を行うまでの間隔は制限しないこと。
3) 弱毒生ロタウイルスワクチンなど経口生ワクチンを接種した日から、次のすべて
の種類のワクチン接種を行うまでの間隔は制限しないこと。
3
我が国においては、異なるワクチンの接種間隔について、かつては予防接種実施規則で、
生ワクチン(ポリオ、種痘、麻しん、風しんワクチン)接種後は1 ヶ月間、他の生ワクチ
ンの接種は禁忌とされていた。不活化ワクチンについては法令上の規定はなかったが、副
反応の観察期間を置くために、生ワクチンから不活化ワクチンまで4 週間、不活化ワクチ
ン接種後は1~2 週間隔をあけることが慣習化していた。
しかし平成6 年の予防接種法改正時に、生ワクチン同士の接種間隔に関する上記禁忌規
定はなくなり、予防接種実施要領(局長通知)の中で、生ワクチン接種後は1 ヶ月以上(平
成17 年度以降は27 日以上)、不活化ワクチンやトキソイド接種後は1 週間以上(平成17
年度以降は6 日以上)接種間隔をあけることとされた。
一般に、生ワクチンを同時ではなく1か月以内の短い間隔で接種した場合、免疫産生の
うえで理論的には干渉がありうる(ただし、現行ワクチン同士で明らかな干渉現象が起こ
る証拠は挙げられていない)ので、互いに1 ヶ月の間隔をあけて接種するのが望ましいと
されている。
一方、生ワクチンと不活化ワクチン、死菌ワクチン、トキソイドの組み合わせ、あるい
は不活化ワクチン、死菌ワクチン、トキソイド同士の組み合わせに関しては、免疫学的干
渉は起こらず、同時接種を含め接種間隔を置かなければならない特段の科学的理由はない。
しかし我が国では、接種後に偶発疾患が生じたときに、続けて接種したためと誤認される
ことを防ぐために、生ワクチンの副反応がでやすい接種後約4 週間、不活化ワクチンの副
反応がでやすい接種後約1 週間、それぞれ間隔をあけて他のワクチンを接種する方がよい
とする(各ワクチンの副反応の出現時期が重ならないよう観察期間を置く)考えから、生
ワクチン同士の接種間隔に加え、生ワクチン接種から不活化ワクチン接種まで4 週間以上、
不活化ワクチンから他のワクチン接種まで1 週間以上あけることが追記された。
平成18 年改正の予防接種実施要領においても、1)3 価混合の経口ポリオ生ワクチン、
乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチン、乾燥弱毒生麻しんワクチン、乾燥弱毒生風しんワ
クチン、又は経皮用乾燥BCGワクチンを接種した日から次の予防接種を行うまでの間隔は、
27 日以上置くこと。沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン、日本脳炎ワクチン
又は沈降ジフテリア破傷風混合トキソイドを接種した日から次の予防接種を行うまでの間
隔は、6 日以上置くこと。2)2 種類以上の予防接種を同時に同一の接種対象者に行う同時
接種(混合ワクチンを使用する場合を除く)は、医師が特に必要と認めた場合に行うこと
ができること、としている。
海外における異なるワクチンの接種間隔については、米国の疾病予防対策センター
(Center for Disease Control and Prevention: CDC)が推奨するワクチン接種間隔の規定
4
が参考となる。英国をはじめ、他の多くの国々では、これを追従する形となっており、こ
の規定を採用している。
その規定では、1)同じワクチンを接種する際には、それぞれのワクチンの決められた
接種間隔を守ること、2)注射生ワクチン同志の接種は、お互いの干渉作用を避けるため、
4 週間の間隔を空けることとしており、それ以外のワクチン接種においては、特に接種間隔
を定めていない。すなわち、不活化ワクチン同志の接種の場合には、日本で実施されてい
る6 日以上の間隔を空ける必要はなく、また、生ワクチン接種後の不活化ワクチン接種、
あるいは、不活化ワクチン接種後の生ワクチン接種に関しても、接種間隔の規定は存在し
ない。更には、経口投与するロタウイルスワクチンと他の生ワクチン投与もその投与方法
が異なることから、原則接種間隔の制限はない。
生ワクチンと不活化ワクチンの接種間隔ガイドライン
(American Academy of Pediatrics. Pertussis. In: Pickering LK, Baker, CJ, Kimberlin DW,
Long SS, eds. Red book: 2009 report of the Committee on Infectious Diseases. 28th ed.
Elk Grove Village, IL: American Academy of Pediatrics; 2009:22.より改編)
抗原の組み合わせ 推奨される最低接種間隔
2 つ以上の不活化 同時に、あるいはどの様な間隔で接種してもよいかもしれない
不活化と生 同時に、あるいはどの様な間隔で接種してもよいかもしれない
2 つ以上の注射生ワクチン† 同時に接種されなければ、最低28 日間あける
† 経口生ワクチン (腸チフスやロタウイルスワクチン)は 同時に、あるいは不活化、注射の
生ワクチンの前後でどの様な間隔で接種してもよいかもしれない
これまで、我が国において、生ワクチンを26 日以内の間隔で接種した場合や、不活化ワ
クチンを6 日以内の間隔で接種した場合は少なく、接種間隔が規定よりも短い場合の有効
性や有害事象に関してエビデンスと成り得る報告はなかった。しかし近年、インフルエン
ザ菌b型ワクチンや肺炎球菌結合型ワクチンなど乳児期に接種すべきワクチンが増加し、
また子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業によりこれらワクチンに公費助成がなされる
ようになり、2 種類以上の予防接種の接種間隔が最短となる同時接種が医師の判断のもとに
行われるようになった。この促進事業では、予防接種と起こった症状の因果関係に関わら
5
ず、接種後一定期間に発生した有害事象はすべて報告するよう求められている。このため、
同時接種後の重篤な有害事象例が報告されるようになった。
平成23 年3 月から平成24 年5 月まで、最も重篤な有害事象である予防接種後の死亡症
例は17 例報告され、同時接種後が13 例、単独接種後が4 例であった。定期的に厚生労働
省薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会で詳細な調査が行われてお
り、同時接種後の13 例(男児7 例、女児6 例)は、1 歳未満が11 例、1 歳1 例、2 歳1 例
で、基礎疾患が記載されているのが2 例であった。接種後死亡までの期間は、接種翌日5
例、2 日後2 例、3 日後2 例、5 日後1 例、7 日後1 例、11 日後1 例であった。 経過や所
見に基づいて1 例ずつ詳細に評価された。解剖は8 例で行われており、そのうち4 例でSIDS
(乳児突然死症候群)が推定された。その他の死因は誤嚥1 例、急性感染症1 例、急性循
環不全1 例とされている。「現在得られている各症例の経過や所見では、いずれもワクチン
接種との直接的な明確な因果関係は認められないと考えられる」とされている。
海外でも予防接種後に一定頻度の死亡例があることが報告されている。 インフルエンザ
菌b型ワクチンや肺炎球菌結合型ワクチン接種後の死亡頻度は10 万接種あたり0.02~1.0
と報告され、死因は感染症や乳幼児突然死症候群が大半を占めており、いずれもワクチン
との因果関係は明確ではない。国内での頻度は、昨年3 月末時点でインフルエンザ菌b型
ワクチンは10 万接種あたり0.13、肺炎球菌結合型ワクチンは10 万接種あたり0.15 と推計
され、経過も海外の症例と大差なく、ワクチン接種の安全性に特段の問題があるとは考え
にくいとされた。本年5 月末時点での頻度は、両ワクチンとも死亡頻度は0.2 前後であり増
加はしていない。
すなわち、接種間隔が最短で行われる同時接種において、重篤な有害事象が増加すると
は考えられていない。
注射生ワクチン同士の接種については、免疫産生のうえで理論的に起こり得る干渉現象
を回避するために、同時接種でない場合は27 日間以上の接種間隔が必要である。しかし、
不活化ワクチンや経口生ワクチン接種後のすべての種類のワクチン接種、あるいは注射生
ワクチン接種後の不活化ワクチンや経口生ワクチン接種については接種間隔を置かなけれ
ばならない特段の科学的理由は見当たらない。米国や英国をはじめとする海外のほとんど
の国においては、注射生ワクチン同士の接種間隔に規制を設けているが、他の接種間隔に
は規制を設けていない。最近の我が国における有害事象報告において、接種間隔が最短で
ある同時接種における重篤な有害事象の明らかな増加はみられない。以上より、異なるワ
クチンの接種間隔については、注射生ワクチン同志の接種は、お互いの干渉作用を避ける
ため、同時接種以外の場合は27 日間以上の間隔を空けることとし、それ以外のワクチン接
種においては、特に接種間隔を設けないよう改訂することを要望する。