「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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セクハラ・パワハラ・アカデミックセクハラから職場守る。家庭仕事と自己実現が両立できる職場のために

2012-05-31 09:34:12 | シチズンシップ教育

 どの職場も、家庭仕事と自己実現が両立できる職場である必要があります。

 それであれば、子育てもしやすい環境につながっていくはずです。


 最低限であるべきものは、セクハラ・パワハラ・アカデミックセクハラがないことです。


第1 職場でおこるハラスメント

1.セクハラ、パワハラとは。

セクハラ(セクシュアルハラスメント):「相手方の意に反する性的言動で、それに対する対応によって仕事を遂行する上で、一定の不利益を与えたり、就業環境を悪化させること」
『セクシュアルハラスメント防止のために』 東京都労働経済局 1994年

パワハラ(パワーハラスメント):「職権などのパワーを背景にして、本来業務の適正な範囲を超えて、継続的に人格や尊厳を侵害する言動を行い、就労者の働く環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与えること」
(岡田康子氏)

アカデミックセクハラ:学業や研究環境で起こる場合


そのハラスメントの共通点として、

1)相手方の意に反する言動

2)就業環境を悪化させる。



第2 セクシュアルハラスメント
1.セクシュアルハラスメントの種類

1)対価型:求めに応じなかったことで、解雇する、人事考課を下げる

2)環境型:性的な風評を流す。プライベートなことを根ほり葉ほり聞く


2.セクシュアルハラスメント問題の原因と背景

 継続的な人間関係が存在している職場で、上司や同僚によって行われることが少なくない。

 職場内の地位や上下関係等が背後にあるために、性的な発言・言動に対し、拒否の意思が表示されにくい環境にあることがその要因としてあげられる。

 友人関係なら、やめればよいし、やめる自由もあるが、職場ではそれがかなわない。逆に、職場で調和しようとするため、ノーを言えなくなる。

 相手は、自覚なくやっている場合もある。パワハラも、負荷をかけ育てるつもりであったということが言われることがある。
 他の人がやって許されるから、自分もやって許されると勘違いをする場合もある。


3.セクシュアルハラスメントの判断基準
相手の意に反する性的な言動 判断が困難なことが多い

なぜなら、
1)個人の感じ方(苦痛の程度)によるところが大きい

2)男女間でのギャップがある



4.最近のセクシュアルハラスメントの動向

 ひとことでいうと、判断しにくくなってきている。

 多いパターンは、既婚男性上司と未婚女性部下(派遣も含め)

1)強制わいせつ型から、疑似恋愛型、プチセクハラ型へ(グレーゾーンの存在)

2)男女雇用機会均等法改正
 女性から男性に対するハラスメントも

3)複合形態の顕在化


第 3パワーハラスメント
1.パワーハラスメントの定義
:「職権などのパワーを背景にして、本来業務の適正な範囲を超えて、継続的に人格や尊厳を侵害する言動を行い、就労者の働く環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与えること」
(岡田康子氏)

パワーハラスメントについて、厚労省WGの報告が出される(2000年)

2.パワーハラスメントの判断基準
「本来業務の適正な範囲を超えて」いるかどうかで判断



3.動向
 パワーハラスメントと過労死、自殺との関連性


第4 それらハラスメントの法的な問題点
1)民事上の責任:被害の回復の観点

○加害者に対する精神的苦痛に対する慰謝料請求(民法709条)

○加害者に対する逸失利益(職場に行けなくなったことで得られなくなった収入など)に対する損害賠償請求(民法709条)

○事業者に対する雇用契約に基づく職場環境調整義務の債務不履行(民法415条)

○事業者に対する精神的苦痛に対する慰謝料請求権、加害者の監督責任(民法715条)


2)刑事上の責任:国家的ペナルティーの観点

○加害者に対する刑罰
 傷害罪(PTSDやうつ病発症に対し)
 強要罪
 強姦罪
 強制わいせつ罪


3)社内の責任:職場環境の適正化の観点
○懲戒処分

○男女雇用機会均等法(H19.4.1改正)
 男女ともに平等に扱う
 努力義務ではなく、措置義務となっている。


4)裁判例のリーディングケース
 福岡地判平成4年4月16日
 判例タイムズ783号60頁


第5 職場対応
1職場対応
1)調査
 調査は、男女混合で、当事者から聞き取る

2)弁護士など専門家
 早期の被害者の心の安定を目指す。そのための、すべての観点からの法的責任の調整。


3)対応マニュアル






*****男女雇用機会均等法*****

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
(昭和四十七年七月一日法律第百十三号)


最終改正:平成二〇年五月二日法律第二六号


 第一章 総則(第一条―第四条)
 第二章 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等
  第一節 性別を理由とする差別の禁止等(第五条―第十条)
  第二節 事業主の講ずべき措置(第十一条―第十三条)
  第三節 事業主に対する国の援助(第十四条)
 第三章 紛争の解決
  第一節 紛争の解決の援助(第十五条―第十七条)
  第二節 調停(第十八条―第二十七条)
 第四章 雑則(第二十八条―第三十二条)
 第五章 罰則(第三十三条)
 附則

   第一章 総則


(目的)
第一条  この法律は、法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのつとり雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とする。

(基本的理念)
第二条  この法律においては、労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあつては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることをその基本的理念とする。
2  事業主並びに国及び地方公共団体は、前項に規定する基本的理念に従つて、労働者の職業生活の充実が図られるように努めなければならない。

(啓発活動)
第三条  国及び地方公共団体は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等について国民の関心と理解を深めるとともに、特に、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を妨げている諸要因の解消を図るため、必要な啓発活動を行うものとする。

(男女雇用機会均等対策基本方針)
第四条  厚生労働大臣は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する施策の基本となるべき方針(以下「男女雇用機会均等対策基本方針」という。)を定めるものとする。
2  男女雇用機会均等対策基本方針に定める事項は、次のとおりとする。
一  男性労働者及び女性労働者のそれぞれの職業生活の動向に関する事項
二  雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等について講じようとする施策の基本となるべき事項
3  男女雇用機会均等対策基本方針は、男性労働者及び女性労働者のそれぞれの労働条件、意識及び就業の実態等を考慮して定められなければならない。
4  厚生労働大臣は、男女雇用機会均等対策基本方針を定めるに当たつては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くほか、都道府県知事の意見を求めるものとする。
5  厚生労働大臣は、男女雇用機会均等対策基本方針を定めたときは、遅滞なく、その概要を公表するものとする。
6  前二項の規定は、男女雇用機会均等対策基本方針の変更について準用する。
   第二章 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等

    第一節 性別を理由とする差別の禁止等


(性別を理由とする差別の禁止)
第五条  事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。

第六条  事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。
一  労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練
二  住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの
三  労働者の職種及び雇用形態の変更
四  退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新

(性別以外の事由を要件とする措置)
第七条  事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置であつて労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない。

(女性労働者に係る措置に関する特例)
第八条  前三条の規定は、事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。

(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
第九条  事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2  事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3  事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4  妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

(指針)
第十条  厚生労働大臣は、第五条から第七条まで及び前条第一項から第三項までの規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
2  第四条第四項及び第五項の規定は指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第四項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。
    第二節 事業主の講ずべき措置


(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)
第十一条  事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2  厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
3  第四条第四項及び第五項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第四項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。

(妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置)
第十二条  事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法(昭和四十年法律第百四十一号)の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。

第十三条  事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。
2  厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
3  第四条第四項及び第五項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第四項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。
    第三節 事業主に対する国の援助


第十四条  国は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇が確保されることを促進するため、事業主が雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善することを目的とする次に掲げる措置を講じ、又は講じようとする場合には、当該事業主に対し、相談その他の援助を行うことができる。
一  その雇用する労働者の配置その他雇用に関する状況の分析
二  前号の分析に基づき雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善するに当たつて必要となる措置に関する計画の作成
三  前号の計画で定める措置の実施
四  前三号の措置を実施するために必要な体制の整備
五  前各号の措置の実施状況の開示
   第三章 紛争の解決

    第一節 紛争の解決の援助


(苦情の自主的解決)
第十五条  事業主は、第六条、第七条、第九条、第十二条及び第十三条第一項に定める事項(労働者の募集及び採用に係るものを除く。)に関し、労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関(事業主を代表する者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とする当該事業場の労働者の苦情を処理するための機関をいう。)に対し当該苦情の処理をゆだねる等その自主的な解決を図るように努めなければならない。

(紛争の解決の促進に関する特例)
第十六条  第五条から第七条まで、第九条、第十一条第一項、第十二条及び第十三条第一項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第百十二号)第四条、第五条及び第十二条から第十九条までの規定は適用せず、次条から第二十七条までに定めるところによる。

(紛争の解決の援助)
第十七条  都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
2  事業主は、労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
    第二節 調停


(調停の委任)
第十八条  都道府県労働局長は、第十六条に規定する紛争(労働者の募集及び採用についての紛争を除く。)について、当該紛争の当事者(以下「関係当事者」という。)の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第六条第一項の紛争調整委員会(以下「委員会」という。)に調停を行わせるものとする。
2  前条第二項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。

(調停)
第十九条  前条第一項の規定に基づく調停(以下この節において「調停」という。)は、三人の調停委員が行う。
2  調停委員は、委員会の委員のうちから、会長があらかじめ指名する。

第二十条  委員会は、調停のため必要があると認めるときは、関係当事者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。
2  委員会は、第十一条第一項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争に係る調停のために必要があると認め、かつ、関係当事者の双方の同意があるときは、関係当事者のほか、当該事件に係る職場において性的な言動を行つたとされる者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。

第二十一条  委員会は、関係当事者からの申立てに基づき必要があると認めるときは、当該委員会が置かれる都道府県労働局の管轄区域内の主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者から当該事件につき意見を聴くものとする。

第二十二条  委員会は、調停案を作成し、関係当事者に対しその受諾を勧告することができる。

第二十三条  委員会は、調停に係る紛争について調停による解決の見込みがないと認めるときは、調停を打ち切ることができる。
2  委員会は、前項の規定により調停を打ち切つたときは、その旨を関係当事者に通知しなければならない。

(時効の中断)
第二十四条  前条第一項の規定により調停が打ち切られた場合において、当該調停の申請をした者が同条第二項の通知を受けた日から三十日以内に調停の目的となつた請求について訴えを提起したときは、時効の中断に関しては、調停の申請の時に、訴えの提起があつたものとみなす。

(訴訟手続の中止)
第二十五条  第十八条第一項に規定する紛争のうち民事上の紛争であるものについて関係当事者間に訴訟が係属する場合において、次の各号のいずれかに掲げる事由があり、かつ、関係当事者の共同の申立てがあるときは、受訴裁判所は、四月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する旨の決定をすることができる。
一  当該紛争について、関係当事者間において調停が実施されていること。
二  前号に規定する場合のほか、関係当事者間に調停によつて当該紛争の解決を図る旨の合意があること。
2  受訴裁判所は、いつでも前項の決定を取り消すことができる。
3  第一項の申立てを却下する決定及び前項の規定により第一項の決定を取り消す決定に対しては、不服を申し立てることができない。

(資料提供の要求等)
第二十六条  委員会は、当該委員会に係属している事件の解決のために必要があると認めるときは、関係行政庁に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができる。

(厚生労働省令への委任)
第二十七条  この節に定めるもののほか、調停の手続に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
   第四章 雑則


(調査等)
第二十八条  厚生労働大臣は、男性労働者及び女性労働者のそれぞれの職業生活に関し必要な調査研究を実施するものとする。
2  厚生労働大臣は、この法律の施行に関し、関係行政機関の長に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができる。
3  厚生労働大臣は、この法律の施行に関し、都道府県知事から必要な調査報告を求めることができる。

(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
第二十九条  厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
2  前項に定める厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。

(公表)
第三十条  厚生労働大臣は、第五条から第七条まで、第九条第一項から第三項まで、第十一条第一項、第十二条及び第十三条第一項の規定に違反している事業主に対し、前条第一項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

(船員に関する特例)
第三十一条  船員職業安定法(昭和二十三年法律第百三十号)第六条第一項に規定する船員及び同項に規定する船員になろうとする者に関しては、第四条第一項並びに同条第四項及び第五項(同条第六項、第十条第二項、第十一条第三項及び第十三条第三項において準用する場合を含む。)、第十条第一項、第十一条第二項、第十三条第二項並びに前三条中「厚生労働大臣」とあるのは「国土交通大臣」と、第四条第四項(同条第六項、第十条第二項、第十一条第三項及び第十三条第三項において準用する場合を含む。)中「労働政策審議会」とあるのは「交通政策審議会」と、第六条第二号、第七条、第九条第三項、第十二条及び第二十九条第二項中「厚生労働省令」とあるのは「国土交通省令」と、第九条第三項中「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたこと」とあるのは「船員法(昭和二十二年法律第百号)第八十七条第一項又は第二項の規定によつて作業に従事しなかつたこと」と、第十七条第一項、第十八条第一項及び第二十九条第二項中「都道府県労働局長」とあるのは「地方運輸局長(運輸監理部長を含む。)」と、第十八条第一項中「第六条第一項の紛争調整委員会(以下「委員会」という。)」とあるのは「第二十一条第三項のあつせん員候補者名簿に記載されている者のうちから指名する調停員」とする。
2  前項の規定により読み替えられた第十八条第一項の規定により指名を受けて調停員が行う調停については、第十九条から第二十七条までの規定は、適用しない。
3  前項の調停の事務は、三人の調停員で構成する合議体で取り扱う。
4  調停員は、破産手続開始の決定を受け、又は禁錮以上の刑に処せられたときは、その地位を失う。
5  第二十条から第二十七条までの規定は、第二項の調停について準用する。この場合において、第二十条から第二十三条まで及び第二十六条中「委員会は」とあるのは「調停員は」と、第二十一条中「当該委員会が置かれる都道府県労働局」とあるのは「当該調停員を指名した地方運輸局長(運輸監理部長を含む。)が置かれる地方運輸局(運輸監理部を含む。)」と、第二十六条中「当該委員会に係属している」とあるのは「当該調停員が取り扱つている」と、第二十七条中「この節」とあるのは「第三十一条第三項から第五項まで」と、「調停」とあるのは「合議体及び調停」と、「厚生労働省令」とあるのは「国土交通省令」と読み替えるものとする。

(適用除外)
第三十二条  第二章第一節及び第三節、前章、第二十九条並びに第三十条の規定は、国家公務員及び地方公務員に、第二章第二節の規定は、一般職の国家公務員(特定独立行政法人等の労働関係に関する法律(昭和二十三年法律第二百五十七号)第二条第四号の職員を除く。)、裁判所職員臨時措置法(昭和二十六年法律第二百九十九号)の適用を受ける裁判所職員、国会職員法(昭和二十二年法律第八十五号)の適用を受ける国会職員及び自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第二条第五項に規定する隊員に関しては適用しない。
   第五章 罰則


第三十三条  第二十九条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。

   附 則 抄


(施行期日)
1  この法律は、公布の日から施行する。

   附 則 (昭和五八年一二月二日法律第七八号)


1  この法律(第一条を除く。)は、昭和五十九年七月一日から施行する。
2  この法律の施行の日の前日において法律の規定により置かれている機関等で、この法律の施行の日以後は国家行政組織法又はこの法律による改正後の関係法律の規定に基づく政令(以下「関係政令」という。)の規定により置かれることとなるものに関し必要となる経過措置その他この法律の施行に伴う関係政令の制定又は改廃に関し必要となる経過措置は、政令で定めることができる。

   附 則 (昭和六〇年六月一日法律第四五号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、昭和六十一年四月一日から施行する。

(その他の経過措置の政令への委任)
第十九条  この附則に規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、政令で定める。

(検討)
第二十条  政府は、この法律の施行後適当な時期において、第一条の規定による改正後の雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律及び第二条の規定による改正後の労働基準法第六章の二の規定の施行状況を勘案し、必要があると認めるときは、これらの法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

   附 則 (平成三年五月一五日法律第七六号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成四年四月一日から施行する。

   附 則 (平成七年六月九日法律第一〇七号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成七年十月一日から施行する。

(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律の一部改正に伴う経過措置)
第九条  この法律の施行の際現に設置されている働く婦人の家については、前条の規定による改正前の雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律第三十条及び第三十一条の規定は、この法律の施行後も、なおその効力を有する。
2  この法律の施行の際現に設置されている働く婦人の家に関し、労働省令で定めるところにより、当該働く婦人の家を設置している地方公共団体が当該働く婦人の家を第二条の規定による改正後の育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第三十四条に規定する勤労者家庭支援施設に変更したい旨の申出を労働大臣に行い、労働大臣が当該申出を承認した場合には、当該承認の日において、当該働く婦人の家は、同条に規定する勤労者家庭支援施設となるものとする。

   附 則 (平成九年六月一八日法律第九二号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成十一年四月一日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一  第一条(次号に掲げる改正規定を除く。)、第三条(次号に掲げる改正規定を除く。)、第五条、第六条、第七条(次号に掲げる改正規定を除く。)並びに附則第三条、第六条、第七条、第十条及び第十四条(次号に掲げる改正規定を除く。)の規定 公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日
二  第一条中雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律第二十六条の前の見出しの改正規定、同条の改正規定(「事業主は」の下に「、労働省令で定めるところにより」を加える部分及び「できるような配慮をするように努めなければならない」を「できるようにしなければならない」に改める部分に限る。)、同法第二十七条の改正規定(「講ずるように努めなければならない」を「講じなければならない」に改める部分及び同条に二項を加える部分に限る。)、同法第三十四条の改正規定(「及び第十二条第二項」を「、第十二条第二項及び第二十七条第三項」に改める部分、「第十二条第一項」の下に「、第二十七条第二項」を加える部分及び「第十四条及び」を「第十四条、第二十六条及び」に改める部分に限る。)及び同法第三十五条の改正規定、第三条中労働基準法第六十五条第一項の改正規定(「十週間」を「十四週間」に改める部分に限る。)、第七条中労働省設置法第五条第四十一号の改正規定(「が講ずるように努めるべき措置についての」を「に対する」に改める部分に限る。)並びに附則第五条、第十二条及び第十三条の規定並びに附則第十四条中運輸省設置法(昭和二十四年法律第百五十七号)第四条第一項第二十四号の二の三の改正規定(「講ずるように努めるべき措置についての指針」を「講ずべき措置についての指針等」に改める部分に限る。) 平成十年四月一日

(罰則に関する経過措置)
第二条  この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

   附 則 (平成一一年七月一六日法律第八七号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成十二年四月一日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一  第一条中地方自治法第二百五十条の次に五条、節名並びに二款及び款名を加える改正規定(同法第二百五十条の九第一項に係る部分(両議院の同意を得ることに係る部分に限る。)に限る。)、第四十条中自然公園法附則第九項及び第十項の改正規定(同法附則第十項に係る部分に限る。)、第二百四十四条の規定(農業改良助長法第十四条の三の改正規定に係る部分を除く。)並びに第四百七十二条の規定(市町村の合併の特例に関する法律第六条、第八条及び第十七条の改正規定に係る部分を除く。)並びに附則第七条、第十条、第十二条、第五十九条ただし書、第六十条第四項及び第五項、第七十三条、第七十七条、第百五十七条第四項から第六項まで、第百六十条、第百六十三条、第百六十四条並びに第二百二条の規定 公布の日

(新地方自治法第百五十六条第四項の適用の特例)
第百二十二条  第三百七十五条の規定による改正後の労働省設置法の規定による都道府県労働局(以下「都道府県労働局」という。)であって、この法律の施行の際第三百七十五条の規定による改正前の労働省設置法の規定による都道府県労働基準局の位置と同一の位置に設けられているものについては、新地方自治法第百五十六条第四項の規定は、適用しない。

(職業安定関係地方事務官に関する経過措置)
第百二十三条  この法律の施行の際現に旧地方自治法附則第八条に規定する職員(労働大臣又はその委任を受けた者により任命された者に限る。附則第百五十八条において「職業安定関係地方事務官」という。)である者は、別に辞令が発せられない限り、相当の都道府県労働局の職員となるものとする。

(地方労働基準審議会等に関する経過措置)
第百二十四条  この法律による改正前のそれぞれの法律の規定による地方労働基準審議会、地方職業安定審議会、地区職業安定審議会、地方最低賃金審議会、地方家内労働審議会及び機会均等調停委員会並びにその会長、委員その他の職員は、相当の都道府県労働局の相当の機関及び職員となり、同一性をもって存続するものとする。

(国等の事務)
第百五十九条  この法律による改正前のそれぞれの法律に規定するもののほか、この法律の施行前において、地方公共団体の機関が法律又はこれに基づく政令により管理し又は執行する国、他の地方公共団体その他公共団体の事務(附則第百六十一条において「国等の事務」という。)は、この法律の施行後は、地方公共団体が法律又はこれに基づく政令により当該地方公共団体の事務として処理するものとする。

(処分、申請等に関する経過措置)
第百六十条  この法律(附則第一条各号に掲げる規定については、当該各規定。以下この条及び附則第百六十三条において同じ。)の施行前に改正前のそれぞれの法律の規定によりされた許可等の処分その他の行為(以下この条において「処分等の行為」という。)又はこの法律の施行の際現に改正前のそれぞれの法律の規定によりされている許可等の申請その他の行為(以下この条において「申請等の行為」という。)で、この法律の施行の日においてこれらの行為に係る行政事務を行うべき者が異なることとなるものは、附則第二条から前条までの規定又は改正後のそれぞれの法律(これに基づく命令を含む。)の経過措置に関する規定に定めるものを除き、この法律の施行の日以後における改正後のそれぞれの法律の適用については、改正後のそれぞれの法律の相当規定によりされた処分等の行為又は申請等の行為とみなす。
2  この法律の施行前に改正前のそれぞれの法律の規定により国又は地方公共団体の機関に対し報告、届出、提出その他の手続をしなければならない事項で、この法律の施行の日前にその手続がされていないものについては、この法律及びこれに基づく政令に別段の定めがあるもののほか、これを、改正後のそれぞれの法律の相当規定により国又は地方公共団体の相当の機関に対して報告、届出、提出その他の手続をしなければならない事項についてその手続がされていないものとみなして、この法律による改正後のそれぞれの法律の規定を適用する。

(不服申立てに関する経過措置)
第百六十一条  施行日前にされた国等の事務に係る処分であって、当該処分をした行政庁(以下この条において「処分庁」という。)に施行日前に行政不服審査法に規定する上級行政庁(以下この条において「上級行政庁」という。)があったものについての同法による不服申立てについては、施行日以後においても、当該処分庁に引き続き上級行政庁があるものとみなして、行政不服審査法の規定を適用する。この場合において、当該処分庁の上級行政庁とみなされる行政庁は、施行日前に当該処分庁の上級行政庁であった行政庁とする。
2  前項の場合において、上級行政庁とみなされる行政庁が地方公共団体の機関であるときは、当該機関が行政不服審査法の規定により処理することとされる事務は、新地方自治法第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務とする。

(手数料に関する経過措置)
第百六十二条  施行日前においてこの法律による改正前のそれぞれの法律(これに基づく命令を含む。)の規定により納付すべきであった手数料については、この法律及びこれに基づく政令に別段の定めがあるもののほか、なお従前の例による。

(罰則に関する経過措置)
第百六十三条  この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(その他の経過措置の政令への委任)
第百六十四条  この附則に規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、政令で定める。
2  附則第十八条、第五十一条及び第百八十四条の規定の適用に関して必要な事項は、政令で定める。

(検討)
第二百五十条  新地方自治法第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務については、できる限り新たに設けることのないようにするとともに、新地方自治法別表第一に掲げるもの及び新地方自治法に基づく政令に示すものについては、地方分権を推進する観点から検討を加え、適宜、適切な見直しを行うものとする。

第二百五十一条  政府は、地方公共団体が事務及び事業を自主的かつ自立的に執行できるよう、国と地方公共団体との役割分担に応じた地方税財源の充実確保の方途について、経済情勢の推移等を勘案しつつ検討し、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

第二百五十二条  政府は、医療保険制度、年金制度等の改革に伴い、社会保険の事務処理の体制、これに従事する職員の在り方等について、被保険者等の利便性の確保、事務処理の効率化等の視点に立って、検討し、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

   附 則 (平成一一年七月一六日法律第一〇四号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、内閣法の一部を改正する法律(平成十一年法律第八十八号)の施行の日から施行する。

   附 則 (平成一一年一二月二二日法律第一六〇号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律(第二条及び第三条を除く。)は、平成十三年一月六日から施行する。

   附 則 (平成一三年七月一一日法律第一一二号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成十三年十月一日から施行する。

   附 則 (平成一三年一一月一六日法律第一一八号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、公布の日から施行する。

   附 則 (平成一四年五月三一日法律第五四号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成十四年七月一日から施行する。

(経過措置)
第二十八条  この法律の施行前にこの法律による改正前のそれぞれの法律若しくはこれに基づく命令(以下「旧法令」という。)の規定により海運監理部長、陸運支局長、海運支局長又は陸運支局の事務所の長(以下「海運監理部長等」という。)がした許可、認可その他の処分又は契約その他の行為(以下「処分等」という。)は、国土交通省令で定めるところにより、この法律による改正後のそれぞれの法律若しくはこれに基づく命令(以下「新法令」という。)の規定により相当の運輸監理部長、運輸支局長又は地方運輸局、運輸監理部若しくは運輸支局の事務所の長(以下「運輸監理部長等」という。)がした処分等とみなす。

第二十九条  この法律の施行前に旧法令の規定により海運監理部長等に対してした申請、届出その他の行為(以下「申請等」という。)は、国土交通省令で定めるところにより、新法令の規定により相当の運輸監理部長等に対してした申請等とみなす。

第三十条  この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

   附 則 (平成一四年七月三一日法律第九八号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、公社法の施行の日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一  第一章第一節(別表第一から別表第四までを含む。)並びに附則第二十八条第二項、第三十三条第二項及び第三項並びに第三十九条の規定 公布の日

(罰則に関する経過措置)
第三十八条  施行日前にした行為並びにこの法律の規定によりなお従前の例によることとされる場合及びこの附則の規定によりなおその効力を有することとされる場合における施行日以後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(その他の経過措置の政令への委任)
第三十九条  この法律に規定するもののほか、公社法及びこの法律の施行に関し必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、政令で定める。

   附 則 (平成一八年六月二一日法律第八二号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成十九年四月一日から施行する。ただし、附則第七条の規定は、社会保険労務士法の一部を改正する法律(平成十七年法律第六十二号)中社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)第二条第一項第一号の四の改正規定の施行の日又はこの法律の施行の日のいずれか遅い日から施行する。

(紛争の解決の促進に関する特例に関する経過措置)
第二条  この法律の施行の際現に個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第百十二号)第六条第一項の紛争調整委員会(以下「委員会」という。)に係属している同法第五条第一項のあっせんに係る紛争については、第一条の規定による改正後の雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「新法」という。)第十六条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

(時効の中断に関する経過措置)
第三条  この法律の施行の際現に委員会に係属している第一条の規定による改正前の雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第十四条第一項の調停に関し当該調停の目的となっている請求についての新法第二十四条の規定の適用に関しては、この法律の施行の時に、調停の申請がされたものとみなす。

(罰則に関する経過措置)
第四条  この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(検討)
第五条  政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、新法及び第二条の規定による改正後の労働基準法第六十四条の二の規定の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、これらの規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

   附 則 (平成二〇年五月二日法律第二六号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成二十年十月一日から施行する。

(罰則に関する経過措置)
第六条  この法律の施行前にした行為及び前条第四項の規定によりなお従前の例によることとされる場合におけるこの法律の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(政令への委任)
第七条  附則第二条から前条までに定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。

(検討)
第九条  政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改正後の規定の実施状況を勘案し、必要があると認めるときは、運輸の安全の一層の確保を図る等の観点から運輸安全委員会の機能の拡充等について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

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行政訴訟の難しさ。法律の枠の中での戦いであるがゆえに。大阪 パチンコ店周辺住民敗訴の分析から。

2012-05-30 10:12:44 | シチズンシップ教育
 行政訴訟の難しさを感じます。

 例えば、昨日とりあげた、
 「パチンコ店周辺住民が、風営法を下に、その営業所拡張の承認の取り消しを求めた事案 大阪地裁H20.2.14」
 http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/7ca3d3a50ca7487507cdd7f967da421b

 住民側から出された請求は、以下、3点。

請求1 大阪府公安委員会がS株式会社に対して平成14年10月21日付けでした営業所「Bパチンコ」の営業所拡張の変更承認処分を取り消す。
請求2 大阪府公安委員会がS株式会社に対して平成17年12月22日付けでした営業所「Bパチンコ」の営業所拡張の変更承認処分を取り消す。
請求3 大阪府公安委員会は,S株式会社が平成18年1月17日付けで提出した営業所「Bパチンコ」の駐車場増設の変更届出書を受理してはならない。




 まず、住民側は、原告適格はありと判事されました。

 出訴期間に関しては、実際の訴えの提起は、平成18年9月12日。

請求1 大阪府公安委員会がS株式会社に対して平成14年10月21日付けでした営業所「Bパチンコ」の営業所拡張の変更承認処分を取り消す。
 →一年以上経過しており、×

請求2 大阪府公安委員会がS株式会社に対して平成17年12月22日付けでした営業所「Bパチンコ」の営業所拡張の変更承認処分を取り消す。
 →6か月以上経過しているが、公安委員会から、営業所拡張の変更承認がおりたことを知ることは、第三者である住民が知るのは難しいわけであるが、拡張工事が始まって以後、知ることができた。それが、3月12日以降である。住民らは、3月12日以降に、変更承認が許可されたことを知り、その6か月以内の9月12日以内に提訴しており、訴えの提起は、出訴期間内である。


 請求3は、「届出」であり、請求1、2の「承認」と異なる。

請求3 大阪府公安委員会は,S株式会社が平成18年1月17日付けで提出した営業所「Bパチンコ」の駐車場増設の変更届出書を受理してはならない。
 →「届出」であり、「処分」とは言えず、取消訴訟の対象にならない。よって、×


 入口論では、
 原告適格、出訴期間でふるいにかけられ、請求2の訴えだけが残りました。

 本案審議では、
 以下、論理展開で、請求2も×となりました。

 請求1,2,3いずれも×で、住民側が敗訴となりました。



 本案審議の結論を見てみます。

******判決抜粋***
 4 争点(4)(行政事件訴訟法10条1項の適用の有無)
 (1)前記のとおり,本件処分1の取消し及び本件届出の受理の差止めを求める訴えは,不適法であるから,以下では,本件処分2の取消しを求める部分について,原告らの主張する違法事由が「自己の法律上の利益に関係のない違法」(行政事件訴訟法10条1項)か否かを検討する。
 (2)同項は,取消訴訟においては,自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができないとしている。同項の趣旨は,取消訴訟が,判決によって,違法な行政作用を排除し,公益に資することを目的とするものではなく,行政庁の処分によって原告の被っている権利利益の侵害の救済を目的とするものであり,原告の権利利益に関係のない違法事由の主張を許すことは上記取消訴訟の目的に反することから,原告の法律上の権利利益に関係のない違法事由の主張を制限したものと解される。
 この趣旨に照らせば,「自己の法律上の利益に関係のない違法」とは,行政庁の処分に存する違法のうち,原告の権利利益を保護する趣旨で設けられたとはいえない法規に違背した違法をいうと解すべきである。
 そこで,原告らの主張がこのような違法を主張するものか否かを検討するに,原告らの主張は,本件営業所が営業制限地域にあるところ,本件処分2に係る本件営業所の拡張は,従前の営業所との同一性が損なわれるほどの規模にわたるものであり,既得権益の範囲を逸脱し,営業制限地域を定めた風営法4条2項2号の趣旨を潜脱するというものである
 ここで,前記法令の定めのとおり,風営法4条2項2号,風営法施行令6条1号,2号及び大阪府風営法施行条例2条1項1号本文は,営業制限地域として,住居が多数集合しており,住居以外の用途に供される土地が少ない地域(第1種低層住居専用地域,第2種低層住居専用地域,第1種中高層住居専用地域,第2種中高層住居専用地域,第1種住居地域,第2種住居地域及び準住居地域)及び学校等の敷地の周囲おおむね100メートル以内の区域と定めている。そして,風営法及び同施行規則等の前記各規定や違法な営業許可に基づく営業がされた場合の被害の性質等に照らせば,風営法4条2項2号は,上記営業制限地域内に居住している住民の法律上の利益を保護する趣旨を含む規定と解し得るものの,前記前提事実のとおり,原告らが居住する本件マンションが上記制限地域外の準工業地域にある以上,風営法等の上記各規定が原告らの法律上の利益を保護する趣旨で設けられた規定と解することはできない。
 したがって,本件処分2が風営法4条2項2号に違反するという原告らの主張は,原告らの権利利益を保護する趣旨で設けられた法規に違背した違法を主張するものとはいえず,それ自体失当である
 (3)よって,請求2項は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
**************

 パチンコ店拡張によって、「騒音や振動等によって営業所周辺地域に居住する住民の健康や生活環境に係る被害が発生する」との住民側の主張であります。

 この根拠法令をもう一度見ます。


*****風営法*****

(構造及び設備の変更等)
第九条  風俗営業者は、増築、改築その他の行為による営業所の構造又は設備の変更(内閣府令で定める軽微な変更を除く。第五項において同じ。)をしようとするときは、国家公安委員会規則で定めるところにより、あらかじめ公安委員会の承認を受けなければならない。
2  公安委員会は、前項の承認の申請に係る営業所の構造及び設備が第四条第二項第一号の技術上の基準及び第三条第二項の規定により公安委員会が付した条件に適合していると認めるときは、前項の承認をしなければならない。

(営業の許可)
第三条  風俗営業を営もうとする者は、風俗営業の種別(前条第一項各号に規定する風俗営業の種別をいう。以下同じ。)に応じて、営業所ごとに、当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)の許可を受けなければならない。
2  公安委員会は、善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要があると認めるときは、その必要の限度において、前項の許可に条件を付し、及びこれを変更することができる。

(許可の基準)
第四条  (1項省略)
2  公安委員会は、前条第一項の許可の申請に係る営業所につき次の各号のいずれかに該当する事由があるときは、許可をしてはならない。
一  営業所の構造又は設備(第四項に規定する遊技機を除く。第九条、第十条の二第二項第三号、第十二条及び第三十九条第二項第七号において同じ。)が風俗営業の種別に応じて国家公安委員会規則で定める技術上の基準に適合しないとき。
二  営業所が、良好な風俗環境を保全するため特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内にあるとき。

三  営業所に第二十四条第一項の管理者を選任すると認められないことについて相当な理由があるとき。

************

 パチンコ店許可は、風営法第9条1項で、拡張の承認が必要であるとし、第9条2項で、それは、第4条2項1号の技術上の基準によるとしています。
 その技術上の基準は、第4条2項1号で「国家公安委員会規則で定める技術上の基準」となり、その具体は、「国家公安委員会規則」を見ていくことになります。

 一方、根拠として住民側が用いた条文は、実は、第4条2項1号ではなく、第4条2項2号。
 第4条2項2号は、承認許可の根拠となる第4条2項1号ではなく、ある意味“急所”を外しています。(技術的なところで戦うのは、難しく、技術的にあっていれば、結局、第4条2項1号に適合するとなり、これすなわち、第9条2項をみたし、承認許可が下りてしまいます。よって、外さざるを得なかったのだとは思われますが。)
 
 第4条2項2号で戦おうとしたときに、実は、その地域は、「都道府県の条例で定める」ことになり、

 それは、この場合、大阪府では、

 大阪府風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例(昭和34年大阪府条例第6号。以下「大阪府風営法施行条例」という。)を定め,「第1種低層住居専用地域,第2種低層住居専用地域,第1種中高層住居専用地域,第2種中高層住居専用地域,第1種住居地域,第2種住居地域及び準住居地域」(2条1項1号本文)及び「学校教育法第1条に規定する学校若しくは同法第83条第1項に規定する各種学校のうち主として外国人の幼児,児童,生徒等に対して教育を行うもの,児童福祉法第7条に規定する保育所又は医療法第1条の5第1項に規定する病院若しくは同条第2項に規定する診療所の敷地の周囲おおむね100メートルの区域」(2条1項2号本文)を営業制限地域として定めている(以下,同号所定の各施設を合わせて「学校等」ということがある。)。

 この規定が、原告適格は言えたはずの住民側の首をしめることになりました。
 住民側が住んでいたのは、都市計画法上の「準工業地域」。

 訴えた側の住民側が、第4条2項2号からは、守られない地域に住んでいることになり、この法令を根拠に、することができなくなりました。

 よって、本案審議でも、×となる結果となりました。

 法律の一文一句が合わないことからの結論です。
 しかし、それは、敗訴という大きな結論となりました。

 法律の枠内で戦うことの難しさが、行政訴訟が住民側によい結論をもたらしづらいことにつながっているように思います。
 法律の枠内であることの必要性は、当然のルールなのだけど。

 ルールを熟知する、すなわち、行政学をきちんと修めることが大事ということと理解し努力します。
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再掲:本日30日16時半東京地裁522号法廷 守るべきものは守る。築地市場は土壌汚染地へ移転させません。

2012-05-30 09:13:50 | 築地を守る、築地市場現在地再整備
 築地市場移転問題に関連して、5/24に新たに提訴されたものを含め現在3つの裁判が進行中です。
 
 明日5月月30日、豊洲新市場予定地(汚染地)購入についての裁判が開かれます。

 是非傍聴をお願いします。
 

*****以下、原告団事務局から****


【転送歓迎】

 皆様、日頃より築地移転問題にご注目いただきありがとうございます。

 築地市場移転候補地である東京都江東区豊洲東京ガス工場跡地、その日本最大規模の土壌汚染地の土地購入(豊洲市場用地・2006年(H18)購入分)についての公金支出金返還請求裁判が開かれますのでご案内いたします。

  事件名:豊洲汚染土地購入に関する公金返還請求訴訟

  事件の内容:東京都が築地市場移転計画に関して、土壌汚染のある豊洲の土地を 「汚染なし」 の高額で購入したことが違法な公金支出にあたるとして、東京都知事らに公金返還を求めるように訴えた事件

  期日:2012年5月30日(水) 午後4時30分~
       東京地方裁判所民事522号法廷 
      30分前、1階ロビーで集合しています。 公判後の報告会もあります。


 上記都知事他関係局長等5名に対する「公金支出金返還請求訴訟」は、提訴(2010年5月24日)から丁度2年になります。

 現在、入口論(訴えの期間について)の段階で激しく争われています。

 東京都は真実を捻じ曲げるなど一連の市場用地購入のために相当無理をしており、本論に入ることに必死で抵抗しています。

 今回の公判は、この入り口論を突破して本題に入れるかどうか、いよいよ裁判所が方向を示すと思われます。

 皆様の傍聴がこの裁判の大きな支えになっています。一人でも多くの傍聴をよろしくお願いいたします。

 今月24日に残りの土地の購入に関して新たな住民訴訟を東京地裁に提起しました。

 この訴訟も加え、築地市場移転問題に関連する東京都の不法・違法な財政支出について、都知事の責任を追及して行きたいと思います。

 引き続きご注目をよろしくお願いいたします。(新たな住民監訴訟/訴訟提起関連について後述いたします。)

〒104-0052 中央区月島3―30-4 イイジマビル1F
 築地市場移転問題裁判原告団   事務局  TEL;03-5547-1191
 原告団HP::http://tsukiji-wo-mamoru.com/_src/sc260/sign.png


***********************


 5月24日、移転候補のうちの残りの汚染地購入(豊洲市場用地・2011年(H23)購入分)について、都知事に対して公金支出金返還を求める住民訴訟が原告41名により起こされました。

 提出については翌日の朝刊、朝日、毎日、東京、読売の新聞各紙に記事が掲載されました。

 提訴後の記者会見では記者からの質問も多数あり、活発な会見となりました。
 移転事業が進む事に対して「このままで良いとは思わない」と本音を話してくれる記者も居ましたが、築地移転問題が改めて注目されていると感じました。

 新たな裁判では市場用地が、土壌汚染が“無い”更地として東京ガス(株)などから購入された問題に加え、汚染の大半の除去費用を東京ガス(株)に対し免責した、2011年(H23)の協定についても問題としています。

 
 この裁判のベースになっている住民監査請求(3月2日提出)は、下記の監査委員会により監査されました。

 石毛しげる  監査委員・非常勤 都議会議員(民主)
 林田  武  監査委員・非常勤 都議会議員(自民)
 友淵 宗治  代表監査委員・常勤 (有識者)元警視庁生活安全部長
 筆谷 勇   監査委員・非常勤(有識者)公認会計士、元中央大学専門職大学院教授
 金子 庸子  監査委員・非常勤(有識者)元資生堂監査役.

 結果は「土地取得額は高額であるとはいえない」として4月26日付けで「棄却」されました。


 監査に先立ち行った私たち請求人の陳述(平成24年4月5日)では、

 「議会、財産価格審議会に対し行ってきた真実を捻じ曲げた内容の答弁や議案書について」も資料を示しながら問題としました。

 すなわち、
  東京都は東京ガスに対しては残置汚染を容認しながら、一方で、

 「(汚染工事は)その作業が完了しており、現在、汚染物質は存在しない」

 「操業に基づく汚染物質などが発見された場合には(中略)東京ガスが処理をするという了解は得てございます」

 などと真実を捻じ曲げた内容の情報を、関係者や都民、議会、財産価格審議会に流してきたこと

 を委員の皆様にお伝えいたしました。


 ところが、監査委員会では、監査結果書の中で、これらの問題には全く触れられませんでした。


 土地が高いか安いについての議論は勿論できますが、問題はそれ以前の地方自治が民主的に行われているかどうかの地方自治法の根幹にかかわるものです。
 (地方自治法第1条【目的】には「地方自治体における民主的にして能率的な行政の確保を図る」と示されています。)

 この裁判は一連の公金支出問題関連裁判の総決算の意味を持つものと考えています。

 全体の汚染対策工事に対する東京ガスの負担分はおおよそ4分の1にしか過ぎません。これまでに行った東京ガスの対策工事は約100億円ですが、協定書(H23年3月)により決定した負担分の78億円を加えて、東京ガスの負担分は全体で約178億円。
 一方汚染の全体の除去費用は、現在の契約ベース541億円として、過去東京ガスが行った100億円を加えて641億円となります。
 
 東京都は都の安全確保条例を一種の“隠れ蓑”に、汚染の残置を隠してきました。
 条例は汚染の拡散の防止は求めていても、汚染の除去までは求めていません。

 東京ガスに対し、どうして4分の3もの汚染の除去費用を免責できたのか(したのか)、事の経緯はほぼ判っており、これらは裁判の過程のなかで詳らかにして行けるものと考えていいます。

 公判の日程が決りましたらまたお知らせをさせていただきます。

 コアサンプル廃棄差し止めの控訴審の裁判も続行しています。(東京高等裁判所 次回期日平成24年7月26日14時~822号法廷)

 これら裁判を根拠に、真実を見出し、守るべきものは守る、築地の現在地での再整備に必ずやつなげていきたいと考えます。


 引き続き、築地移転問題関連裁判にご注目ください。     
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手付を理解する:民法557条

2012-05-30 01:49:23 | シチズンシップ教育
 民法557条は手付に関する規定です。
 (557条2項で関係するため、参考までに545条も掲載。)

 この民法557条を理解するに当たって、ふたつ問題があります。

 履行の着手とは?

 誰の履行の着手をいうか?


 以下の重要判例が、その問題を解決しています。

 履行の着手の判定基準は、「民法五五七条一項にいう履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すものと解すべき」

 誰の履行の着手であるかに関しては、「売買の当事者の一方が履行に着手した後は、(イ)その相手方は契約を解除することはできないが、(ロ)履行に着手した当事者は解除権を行使することを妨げないという」考え方をとることになります。
 

*****民法*****

(手付)
第五百五十七条  買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
2  第五百四十五条第三項の規定は、前項の場合には、適用しない。

(解除の効果)
第五百四十五条  当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2  前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3  解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

************


【事案の概要】
1)昭和34年12月22日、買主Xは、売主Yから、大阪府所有の本件不動産を
  a代金200万円
  b即日、手付金40万円を支払う
  c手付金を控除した残金180万円は昭和35年2月までに所有権移転登記と鋼管に支払う
 との約定で買い受けた。

2)Xは、契約の日にYに対し手付金40万円支払い、昭和35年2月29日に180万円を提供して義務の履行を求めたが、Yに拒絶されたので、登記の移転と引渡しを請求した。

3)これに対し、Yは、手付金額の倍額80万円をXに提供して契約を解除した。

4)本件不動産の売り主Yは、Xから受け取った手付金のうちから19万余円を本件不動産の所有者である大阪府に支払い、これをXに譲渡する前提としてまずY名義に所有権移転登記を得たことから、契約の履行に着手したから、その後の契約解除は無効であると、原審でXは主張。

【最高裁判決】

主   文

 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人阿部幸作、同越智譲の上告理由第一点について。
 論旨は、本件手附は解約手附であるとした原判決は、民法五五七条の解釈を誤り、理由不備の違法がある、というにある。
 しかし、原判決の引用する第一審判決の認定した事実関係のもとに、所論の本件手附は損害賠償の予定をかねた解約手附の性質を有するものであるとした原判決(第一審判決理由を引用)の説示は相当であつて、その判断の過程において所論の違法はない。所論は、原判決を正解せず、原審が適法に行なつた証拠の取捨判断および事実認定を非難するに帰し、採用することができない。
 同第二点および上告会社代表者Aの上告理由について。
 論旨は、要するに、被上告人と大阪府との間で本件売買契約の目的物件である本件不動産についての払下契約が締結された時点あるいは右不動産について上告人主張の仮登記仮処分手続がなされた時点において、被上告人又は上告人が民法五五七条一項にいう契約の履行に着手したものというべきである旨の上告人の主張を排斥した原判決は、右法条の解釈適用を誤つた違法がある、というに帰する。
 よつて按ずるに、民法五五七条一項にいう履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すものと解すべきところ、本件において、原審における上告人の主張によれば、被上告人が本件物件の所有者たる大阪府に代金を支払い、これを上告人に譲渡する前提として被上告人名義にその所有権移転登記を経たというのであるから、右は、特定の売買の目的物件の調達行為にあたり、単なる履行の準備行為にとどまらず、履行の着手があつたものと解するを相当とする。従つて、被上告人のした前記行為をもつて、単なる契約の履行準備にすぎないとした原審の判断は、所論のとおり、民法五五七条一項の解釈を誤つた違法があるといわなければならない。(なお、本件の事情のもとに、上告人主張の仮登記仮処分手続がなされたことをもつては所論の履行の着手があつたものとみることができない旨の原判決の判断は正当である。)
 しかしながら、右の違法は、判決に影響を及ぼすものではなく、原判決破棄の理由とはなしがたい。その理由は、次のとおりである。
 解約手附の交付があつた場合には、特別の規定がなければ、当事者双方は、履行のあるまでは自由に契約を解除する権利を有しているものと解すべきである。然るに、当事者の一方が既に履行に着手したときは、その当事者は、履行の着手に必要な費用を支出しただけでなく、契約の履行に多くの期待を寄せていたわけであるから、若しかような段階において、相手方から契約が解除されたならば、履行に着手した当事者は不測の損害を蒙ることとなる。従つて、かような履行に着手した当事者が不測の損害を蒙ることを防止するため、特に民法五五七条一項の規定が設けられたものと解するのが相当である。
 同条項の立法趣旨を右のように解するときは、同条項は、履行に着手した当事者に対して解除権を行使することを禁止する趣旨と解すべく、従つて、未だ履行に着手していない当事者に対しては、自由に解除権を行使し得るものというべきである。このことは、解除権を行使する当事者が自ら履行に着手していた場合においても、同様である。すなわち、未だ履行に着手していない当事者は、契約を解除されても、自らは何ら履行に着手していないのであるから、これがため不測の損害を蒙るということはなく、仮に何らかの損害を蒙るとしても、損害賠償の予定を兼ねている解約手附を取得し又はその倍額の償還を受けることにより、その損害は填補されるのであり、解約手附契約に基づく解除権の行使を甘受すべき立場にあるものである。他方、解除権を行使する当事者は、たとえ履行に着手していても、自らその着手に要した出費を犠牲にし、更に手附を放棄し又はその倍額の償還をしても、なおあえて契約を解除したいというのであり、それは元来有している解除権を行使するものにほかならないばかりでなく、これがため相手方には何らの損害を与えないのであるから、右五五七条一項の立法趣旨に徴しても、かような場合に、解除権の行使を禁止すべき理由はなく、また、自ら履行に着手したからといつて、これをもつて、自己の解除権を放棄したものと擬制すべき法的根拠もない。
 ところで、原審の確定したところによれば、買主たる上告人は、手附金四〇万円を支払つただけで、何ら契約の履行に着手した形跡がない。そして、本件においては、買主たる上告人が契約の履行に着手しない間に、売主たる被上告人が手附倍戻しによる契約の解除をしているのであるから、契約解除の効果を認めるうえに何らの妨げはない。従つて、民法五五七条一項にいう履行の着手の有無の点について、原判決の解釈に誤りがあること前に説示したとおりであるが、手附倍戻しによる契約解除の効果を認めた原判決の判断は、結論において正当として是認することができる。論旨は、結局、理由がなく、採用することができない。
 上告代理人阿部幸作、同越智譲の上告理由第三点について。
 論旨は、上告人の信義則違反、権利濫用の抗弁を排斥した原判決は、民法一条の解釈を誤つた違法がある、というにある。
 しかし、被上告人のなした本件手附倍戻しによる本件売買契約解除の意思表示は何ら信義則違反、権利濫用にあたらないとした原判決の判断は、正当として是認することができる。論旨は理由がない。
 よつて、民訴法四〇一条、三九六条、三八四条二項、九五条、八九条に従い、裁判官横田正俊の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。
 裁判官横田正俊の反対意見は、次のとおりである。
 民法五五七条一項の解釈について多数意見は、売買の当事者の一方が履行に着手した後は、(イ)その相手方は契約を解除することはできないが、(ロ)履行に着手した当事者は解除権を行使することを妨げないというが、私は、右(ロ)の点について見解を異にし、履行に着手した当事者もまた解除することをえないものと解するのである。けだし、履行に着手した当事者は、手附による解除権を抛棄したものと観るのを相当とするばかりでなく、履行の着手があつた場合には、その相手方も、単に契約が成立したに過ぎない場合や、履行の準備があつたに過ぎない場合に比べて、その履行を受けることにつきより多くの期待を寄せ、契約は履行されるもの、すなわち、契約はもはや解除されないものと思うようになるのが当然であるから、その後における解除を認容するときは、相手方は、手附をそのまま取得し又は手附の倍額の償還を受けてもなお償いえない不測の損害をこうむることもありうるからであり、また、右のように解することは、民法の前示法条の文理にもよく適合するからである。多数意見を推し進めれば、当事者の一方が履行の一部、いな大部分を終つた場合においても、相手方において履行に着手しないかぎり、その当事者の都合次第で契約を解除することを認容しなければならなくなるものと思われるが、このような場合の解除が相手方の利益を不当に害する結果を伴い(相手方は、履行に対する期待を甚しく裏切られるばかりでなく、原状回復義務を負わされることにもなる)、時には、信義に反するきらいさえあることを否定することができないであろう。もつとも、一部でも履行があつた場合には、解除権を抛棄したものと観るべきであるとの論が予想されるが、もしそのような考え方が正しいとするならば、履行の準備の域を越えすでに履行の着手があつた段階において同様の結論を認めて然るべきであり、これが正に民法五五七条一項の法意であると解される。
 ところで、本件売買契約の履行に関し、被上告人において上告人の主張するような行為をしたとすれば、右は、履行の着手に該当するものと解されるから(この点においては、上告代理人阿部幸作、同越智譲の上告理由第二点および上告会社代表者Aの上告理由に対する多数意見に全く同調する)、被上告人は、以上に説示した理由により、手附による解除権をすでに喪失したものと解するほかなく、したがつて、被上告人がした解除の効力を認めて上告人の本訴請求を棄却した原判決には、右の点において民法五五七条一項の解釈を誤つた違法があるに帰し、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。
 よつて、民訴法三九四条、四〇七条を適用して、原判決を破棄し、本件を原裁判所に差し戻すべきものと思料する。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
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判決の効力(拘束力)について「個人タクシー値下げ請求却下処分取消等請求訴訟」大阪高裁H22.9.9

2012-05-29 14:48:12 | シチズンシップ教育
 行政学演習における、「判決の効力(拘束力)」をテーマとした課題です。

 理解をしているところですが、甲事件の判決(大阪地方裁判所平成17年(行ウ)第68号)で、Xの主張は認められました。
 しかし、国側は、Xの再申請を却下処分とし、Xは、乙事件として、再度、訴訟を提起しました。
 原審である大阪地方裁判所(大阪地方裁判所平成20年(行ウ)第66号)は、再度、Xの主張を認めました。
 
 しかし、大阪高等裁判所は、Xの主張を認めませんでした。
 「個人タクシー値下げ請求却下処分取消・一般乗用旅客自動車運送事業運賃及び料金認可申請却下処分取消等請求控訴事件」
 【事件番号】 大阪高等裁判所判決/平成21年(行コ)第141号
 【判決日付】 平成22年9月9日

 なぜ、そこまで言えるのか、理解を深めたいと思っています。


【事案の概要】
 Xは,国土交通大臣からその権限の委任を受けた近畿運輸局長から,平成13年3月28日付けで,事業区域を大阪市,豊中市,吹田市,守口市,門真市,東大阪市,八尾市,堺市及び大阪国際空港(池田市のうち空港地域に限る。),使用する事業用自動車を1両などとして,一般乗用旅客自動車運送事業の許可を受け,同年4月20日から,同許可に係るタクシー事業(以下「本件タクシー事業」という。)を営んでいる個人タクシー事業者である。
 Xが本件タクシー事業において使用する事業用車両は,運賃等の適用上,小型車(道路運送車両法施行規則2条に定める小型自動車のうち自動車の長さが4.6m未満で乗車定員5名以下のもの)に区分され,燃料の種類はガソリン(ハイブリッド車)である。

 近畿運輸局長は,道路運送法88条2項,同法施行令1条2項に基づき国土交通大臣から近畿地区におけるタクシー事業の運賃及び料金を認可する権限の委任を受けた,国Yに所属する行政庁である。


(1)甲事件(大阪地方裁判所平成17年(行ウ)第68号)

 Xは、平成14年11月26日,近畿運輸局長に対し,初乗運賃を480円に値下げすることなどを内容とするタクシー事業に係る旅客の運賃及び料金の変更認可申請(以下「本件申請」という。)をした。
 しかし,近畿運輸局長は,平成16年2月13日付で,Xに対し,他の事業者との間の不当な競争を引き起こすおそれについて規定した道路運送法9条の3第2項3号の要件を充足しないとの理由で,本件申請を却下する処分(以下「本件却下処分」という。)をした。
 Xは,本件却下処分は違法であると主張して,国Yに対し,①本件却下処分の取消し,②本件申請に応じた運賃等の変更認可処分の近畿運輸局長への義務付けを求めた。

 大阪地方裁判所は,本件却下処分の取消請求についてのみ終局判決をすることがより迅速な争訟の解決に資すると判断して,平成19年3月14日,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)37条の3第6項前段に基づき,甲事件のうち本件却下処分の取消請求について,これを認容する判決(以下「前判決」という。)をした。
 前判決は,控訴期間の経過により,平成19年3月29日に確定した。
     
 原審は,同年4月10日,甲事件のうち義務付け請求について,口頭弁論を再開した。


(2) 乙事件(大阪地方裁判所平成20年(行ウ)第66号)

 近畿運輸局長は,平成20年2月27日,Xに対し,再度,他の事業者との間の不当な競争を引き起こすおそれについて規定した道路運送法9条の3第2項3号の要件を充足しないとの理由で,本件申請を却下する旨の処分(以下「本件再却下処分」という。)をした。
 乙事件は,Xが,近畿運輸局長がした本件再却下処分は違法であり,これについての同局長の判断及び前判決から本件再却下処分までの長期にわたって処分を遅らせた怠慢は,いずれもXに対する国家賠償法上の違法行為に当たると主張して,Xに対し,①本件再却下処分の取消し,②国家賠償法1条に基づき,慰謝料500万円及びこれに対する乙事件の訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

 原審は,乙事件の提起を受けて,これを甲事件のうち義務付けの訴えにかかる部分(上記(1)記載)に併合して審理した。

(3) 原審の判断と控訴提起
 原審は,①本件再却下処分を取り消し,②本件申請認可の義務付けを命じ,③損害賠償金20万円及びこれに対する平成20年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を命じ,Xの20万円を超える損害賠償請求を棄却する判決を言い渡した。
 国Yは,原審の上記判断を不服として,控訴を提起した。

【関係法令】
○道路運送法
2条3項:「旅客自動車運送事業」とは,他人の需要に応じ,有償で,自動車を使用して旅客を運送する事業をいう,と規定

同法3条:旅客自動車運送事業の種類は,①一般旅客自動車運送事業(特定旅客自動車運送事業以外の旅客自動車運送事業),②特定旅客自動車運送事業(特定の者の需要に応じ,一定の範囲の旅客を運送する旅客自動車運送事業)とし,一般旅客自動車運送事業(上記①)の種類は,イ一般乗合旅客自動車運送事業(乗合旅客を運送する一般旅客自動車運送事業),ロ一般貸切旅客自動車運送事業(一個の契約により国土交通省令で定める乗車定員以上の自動車を貸し切つて旅客を運送する一般旅客自動車運送事業),ハ一般乗用旅客自動車運送事業(一個の契約によりロの国土交通省令で定める乗車定員未満の自動車を貸し切つて旅客を運送する一般旅客自動車運送事業)とする,と規定。

タクシー業務適正化特別措置法2条:上記ハの一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者がその事業の用に供する自動車のうち,当該自動車による運送の引受けが営業所のみにおいて行われるものを「ハイヤー」,それ以外の自動車を「タクシー」とそれぞれ定義し,タクシーを使用して行う一般乗用旅客自動車運送事業を「タクシー事業」,タクシー事業を経営する者を「タクシー事業者」とそれぞれ定義している。

タクシー業務適正化特別措置法施行規則29条1項2号:当該許可を受ける個人のみが自動車を運転することにより当該事業を行うべき旨の条件の附された一般乗用旅客自動車運送事業の許可を受けた者を「個人タクシー事業者」としている(以下,用語については上記の各定義に従う。)。


○道路運送法
9条の3第1項:一般乗用旅客自動車運送事業者(一般旅客自動車運送事業を経営する者をいう。同法8条4項)は,旅客の運賃及び料金(旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める料金を除く。以下,単に「運賃等」ということがある。)を定め,国土交通大臣の認可を受けなければならない,これを変更しようとするときも同様とする,と規定している。

同法9条の3第2項:国土交通大臣は,上記の認可をしようとするときは,①能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること(1号),②特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと(2号),③他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること(3号),④運賃及び料金が対距離制による場合であって,国土交通大臣がその算定の基礎となる距離を定めたときは,これによるものであること(4号),という基準によって,これをしなければならない,と規定。


第171回国会において可決成立した,特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適性化及び活性化に関する特別措置法の附則において,道路運送法9条の3第2項1号の規定の適用については,当分の間,「加えたものを超えないもの」とあるのは,「加えたもの」とすることとされた(ただし,上記特別措置法はまだ施行されていない。)。

【前提となる事実等】
*運賃等の下限規制の緩和
 道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律(平成12年法律第86号)は,第147回国会衆議院運輸委員会及び同参議院交通・情報通信委員会における審議を経て,平成12年5月26日,同国会で可決成立し,平成12年政令第532号により平成14年2月1日に施行された(以下,この道路運送法の改正を「平成12年改正」という。)。

 平成12年改正前の道路運送法(以下「旧道路運送法」という。)9条2項は,一般乗用旅客自動車運送事業を含む一般乗合旅客自動車運送事業等の運賃変更の認可基準として,「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものであること」(1号)を掲げることにより,運賃等の下限を規制していたが,平成12年改正によりこの下限規制は撤廃され(平成12年改正後の道路運送法9条の3第2項1号の「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること」という基準は,運賃等の上限規制である。),一般乗用旅客自動車運送事業の運賃等の下限規制としては,道路運送法9条の3第2項3号の「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」を残すのみとなった。

*近畿運輸局長における道路運送法9条の3第2項の審査基準
   ア 近畿運輸局長は,平成14年1月18日付けで,道路運送法9条の3第2項に基づく審査基準として,「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可申請の審査基準について」(平成14年近運旅二公示第11号。以下「審査基準公示」という。)を公示した。本件再却下処分当時の審査基準公示の内容は,別紙第3記載のとおりである。審査基準公示では,道路運送法施行規則10条の3第3項により運賃等の認可申請に当たって原価計算書等の添付の必要がないと認める場合として設定された自動認可運賃に該当する運賃等の認可申請については速やかに処理を行うものとし,これに該当しない申請の認可に当たっては個別に審査することとしている。
     なお,本件却下処分後の平成16年10月1日改正により,審査基準公示別紙4の第4の4として,「個人タクシー事業者に係る運賃認可の取扱いについて」の項目が追加された。その内容は,「個人タクシー事業者が,自動認可運賃を下回る運賃を設定しようとする場合であって,既存の法人タクシー事業者において認可されていない運賃を設定しようとするときは,当該個人タクシー事業者の申請に係る原価の算定に当たっては,当該申請に係る運賃適用地域における原価計算対象事業者の標準人件費の9割に相当する額を所要の人件費として計上するものとする。」というものである。
   イ 近畿運輸局長は,平成14年1月18日付けで,審査基準公示に基づき,「一般乗用旅客自動車運送事業の自動認可運賃について」(平成14年近運旅二公示第12号。以下「自動認可運賃公示」という。)を公示した。自動認可運賃公示の大阪地区の運賃・料金の定めによれば,大型車・中型車・小型車別の初乗運賃(2.0km),加算運賃及び時間距離併用制運賃は,それぞれ次のとおりである。
    ① 大型車
      上限運賃 680円 235m80円 1分25秒80円
      下限運賃 610円 264m80円 1分35秒80円
    ② 中型車
      上限運賃 660円 273m80円 1分40秒80円
      下限運賃 590円 306m80円 1分50秒80円
    ② 小型車
      上限運賃 640円 305m80円 1分50秒80円
      下限運賃 570円 345m80円 2分 5秒80円

*甲事件での前判決の示した判断基準等
   ア 道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」の意義(前判決57頁19行目から58頁7行目までを抜粋)
    「(現行)道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」とは,他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれをいうものと解するのが相当であり,そのようなおそれのある運賃等に該当するか否かについては,当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価,すなわち,個々の一般乗用旅客自動車運送事業者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価を下回るものであるか否かという観点のほか,当該事業者の市場の中での位置付け,当該運賃等を設定した意図等を総合的に勘案して判断すべきであるところ,このような判断は,専門的,技術的な知識経験及び公益上の判断を必要とするものであるから,同号の基準に適合するか否かの判断については,国土交通大臣及びその権限の委任を受けた地方運輸局長にある程度の裁量権が認められるものと解される。」

   イ 審査基準公示の定める運賃査定によっては平年度における収支率が100%に満たない運賃等の設定等が道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合するか否かの判断基準(前判決69頁10行目から70頁11行目まで,80頁5行目から同頁19行目までを抜粋)
    「以上説示したところからすれば,このような運賃等(注:審査基準公示の定める運賃査定によっては収支率が100%に満たない運賃等)の申請が同項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」の基準に適合するか否かについては,当該申請に係る運賃等の額の運賃査定額からのかい離の程度,当該申請に係る運賃等が当該申請者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価(能率的な経営の下における適正な原価)を下回るものであるか否か,下回るものであるとすればその程度(上記の意味における適正な原価を著しく下回るものである場合には,当該申請者について不当な競争により他の一般旅客自動車運送事業者を排除する意図,すなわち,いわゆるダンピングの意図の存在が推認される場合もあろう。),当該申請に係る当該申請者の運転者1人当たり平均給与月額(添付書類に基づくもの)と標準人件費(原価計算対象事業者の運転者1人当たりの平均給与月額の平均の額)とのかい離の程度に加えて,当該運賃適用地域の立地条件,規模(都市部か地方部か,人口密集地域か否か,当該地域における他の公共交通機関の事業展開の内容,態様等),当該運賃適用地域における市場の構造,特性等(タクシー事業者の構成(大規模法人による寡占状態か中小規模の事業者を中心とする構造か等),タクシー事業の営業形態(流し営業が中心か車庫待ち営業が中心か等),利用者の利用の実態(近距離利用か遠距離利用か,配車利用か否か等),当該地域において設定されている運賃及び料金の内容,態様等),当該申請者の種別(いわゆる法人タクシーか個人タクシーか等),企業規模,営業形態,運転者の賃金構造等,当該地域における需給事情(供給過剰地域か否か,供給過剰の程度等),運転者の賃金水準,さらには一般的な経済情勢等を総合勘案した上,当該申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるか否かを社会通念に従って判断すべきである。」「本件認可申請に係る運賃の設定が上記の具体的なおそれがあると認められるか否かについては,以上説示した諸事情のほか,原告の営業区域である大阪府域におけるタクシー事業者の構成(個人タクシー事業者の車両数に占める割合及び売上高に占める割合等),法人タクシー事業者及び個人タクシー事業者の各営業形態,利用者の利用の実態,運賃及び料金の内容,態様等に加えて,距離制運賃の初乗運賃を500円とする運賃ないし5000円を超える金額について5割引の遠距離割引運賃とする運賃といった低額運賃の認可を受けた事業者のその後の営業実績の推移,売上高に占める割合,利用者の利用状況,当該運賃の設定に対する他の事業者の対応,追随状況など当該認可が当該区域の市場に及ぼした影響の内容,態様,程度等をも総合勘案した上,本件認可申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるか否かを社会通念に従って判断すべきである。」


【判決】
控訴人は、国Y, 被控訴人は、Xです。

 主   文

 1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
 2 本件訴えのうち,近畿運輸局長に対し,原判決添付別紙第1記載のとおり一般乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃及び料金を変更することを認可することの義務付けを求める部分を却下する。
 3 被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
 4 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
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立憲主義の憲法 【中学公民教科書・日本文教出版】(佐藤幸治、五百旗頭真他)39頁

2012-05-29 12:40:22 | シチズンシップ教育
 憲法で、立憲主義とはなにか。

 改憲をするにしろ、護憲するにしろ、
 まずは、憲法とは何か、
 その憲法があることで何ができ、逆に、もし、不都合なことが起こっているなら、それは何か、
 国会議員をはじめ、私たちひとりひとりが、よく考え、よく分析をして、
 ようやく議論ができると思います。

 以下は、立憲主義に関し、中学校の公民の教科書で説明されているとのこと。
 そのまま、引用させていただきます。


*****以下、引用****

芳賀淳‏@jjjhaga

1)【中学公民教科書・日本文教出版】(佐藤幸治、五百旗頭真他)39頁。「人権規範としての憲法」 憲法は、私たちの人権を守るために政治権力を制限するしくみを定めたものです。まず、憲法は、人がその人らしく生きていく(個人の尊重)のために必要な自由を人権として明記しています。

2)そして、政治権力が1か所に集中して人々の自由を踏みにじることがないように、政治権力を立法権(国会)・行政権(内閣)・司法権(裁判所)に分けて、それぞれを別の組織に分担させる権力分立制を採用しています。

3)このように、国民の自由を守り、権力分立制を採用している憲法を立憲主義の憲法といいます(この項終わり)

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国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)第16回委員会2012/5/28参考人聴取録画:菅前総理

2012-05-29 11:11:48 | 防災・減災

 国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)http://www.facebook.com/jikochoで、審議されています。

 昨日は、菅直人前内閣総理大臣の参考人聴取。

 以下、録画もみれるようです。

 その時、国のトップがどのように考え行動したのか、ひとつの参考になると思います。

***************************


国会事故調、第16回委員会(参考人: 前内閣総理大臣 菅直人氏)
5/28(月) 14時~記者会見までUSTREAMで生中継されました。

http://www.ustream.tv/channel/jikocho/theater


 

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「風疹、近畿で流行の兆し 厚労省が注意呼びかけ」朝日新聞記事。皆さん、予防接種徹底 大丈夫ですか?

2012-05-29 10:54:27 | 築地を守る、築地市場現在地再整備
 風疹が近畿地方で流行の兆しがあるとのことです。

 三日はしかといわれるように、三日で治るように思っても、実は、発熱、発疹などの重い症状が出たりします。

 妊婦が罹患すると、おなかの中の子どもに、悪い影響を与える場合もあります。

 予防接種の徹底をお願いします。
 風疹の抗体価が低いと言われた方は、再度接種をご検討ください。



*****朝日新聞(2012/05/29)*****
http://www.asahi.com/national/update/0529/TKY201205290128.html

風疹、近畿で流行の兆し 厚労省が注意呼びかけ


 風疹が流行の兆しをみせている。今年は23日までに患者数が205人と、患者総数を把握している過去4年間で最多だった昨年を上回る勢いだ。近畿を中心に感染が広がっている。厚生労働省は予防接種の徹底などを呼びかける通知を全国の自治体に出した。こうした通知は8年ぶりという。

 国立感染症研究所(感染研)によると、23日までの患者数205人は、昨年同時期の126人に比べ2倍近い。このうち兵庫県が62人と最多、大阪府46人、京都府12人と近畿で流行が顕著だ。患者の7割以上が男性で、特に20~40歳代に多い。1994年までの公的な予防接種が女子中学生に限られ、免疫がない男性が多いことが影響している。

 風疹はせきやくしゃみなどから感染し、発疹や発熱が起こる。特に妊娠初期に感染すると、胎児にも感染して先天性の心疾患や難聴、白内障などを引き起こす危険性がある。感染研感染症情報センターの多屋馨子室長は「妊婦にうつすことのないよう、夫や周りの人は接種を心がけて」と話している。(森本未紀)
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パチンコ店周辺住民が、風営法を下に、その営業所拡張の承認の取り消しを求めた事案 大阪地裁H20.2.14

2012-05-29 08:38:50 | シチズンシップ教育


【事案の概要】
 Yは、大阪府。

1)大阪府公安委員会は,昭和59年10月22日,S社に対し,大阪府I市〈番地等略〉所在の営業所「Bパチンコ」(以下「本件営業所」という。)に係る営業許可処分をした。

2)S社は,平成14年8月5日,大阪府公安委員会に対し,本件営業所について,風営法9条1項に基づく営業所の拡張等の承認申請(客室床面積等の変更を内容とするもの)をした。これに対し,大阪府公安委員会は,同年10月21日付けで上記申請を承認(以下「本件処分1」という。)した。

3)S社は,平成17年7月26日,大阪府公安委員会に対し,本件営業所について,風営法9条1項に基づく営業所の拡張等の承認申請(客室床面積等の変更を内容とするもの)をした。これに対し,大阪府公安委員会は,同年12月22日付けで上記申請を承認(以下「本件処分2」といい,本件処分1と合わせて「本件各処分」という。)した。

4)S社は,同年12月27日に駐車場を増設する変更をしたとして,大阪府公安委員会に対して,平成18年1月17日付けで風営法9条3項に基づく届出(以下「本件届出」という。)をし,同日,受理された。

5)本件営業所の敷地(以下「本件敷地」という。)は,西側が都市計画法上の第1種住居地域に,東側が準住居地域に位置している。また,本件敷地は,その半分以上がI市立要保育所の敷地から100メートル以内の場所に位置している。


 Xらは,大阪府I市〈番地等略〉に所在する賃貸マンション「Aハイム」(以下「本件マンション」という。)に居住する者である。
 本件マンションは,本件敷地とは幅員約9mの道路を隔てた南西隣に位置しており,本件マンションの敷地は,都市計画法上の準工業地域に位置している。

6)Xらは,平成18年9月12日,本件訴訟提起。すなわち、大阪府公安委員会がぱちんこ店を営業するS株式会社(以下「S社」という。)に対し,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)9条1項に基づいて営業所拡張の承認等をしたことから,近隣住民であるXらが,上記承認等は,風営法4条2項2号に違反すると主張して,その取消し等を求め抗告訴訟を提起した。


【関係法令】
(1)風営法は,風俗営業を営もうとする者に対し,営業所ごとに,当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)の営業許可を受けることを義務付けており(同法3条1項),公安委員会は,当該営業所が,良好な風俗環境を保全するため特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内にあるときには,当該営業所につき風俗営業の許可をすることができないと定める(同法4条2項2号)。
 そして,上記政令として定められた風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行令(以下「風営法施行令」という。)6条1号は,風俗営業者の営業所の設置を制限する地域(以下「営業制限地域」という。)の指定は,イ 住居が多数集合しており,住居以外の用途に供される土地が少ない地域,ロ その他の地域のうち,学校その他の施設で学生等のその利用者の構成その他のその特性にかんがみ特にその周辺における良好な風俗環境を保全する必要がある施設として都道府県の条例で定めるものの周辺の地域について行うものとし,同条2号は,上記ロの制限地域の指定を行う場合には,当該施設の敷地の周囲おおむね100メートルの区域を限度とし,その区域内の地域につき指定を行うことと定めている。
 また,大阪府では,風営法4条2項2号の条例として大阪府風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例(昭和34年大阪府条例第6号。以下「大阪府風営法施行条例」という。)を定め,「第1種低層住居専用地域,第2種低層住居専用地域,第1種中高層住居専用地域,第2種中高層住居専用地域,第1種住居地域,第2種住居地域及び準住居地域」(2条1項1号本文)及び「学校教育法第1条に規定する学校若しくは同法第83条第1項に規定する各種学校のうち主として外国人の幼児,児童,生徒等に対して教育を行うもの,児童福祉法第7条に規定する保育所又は医療法第1条の5第1項に規定する病院若しくは同条第2項に規定する診療所の敷地の周囲おおむね100メートルの区域」(2条1項2号本文)を営業制限地域として定めている(以下,同号所定の各施設を合わせて「学校等」ということがある。)。

 (2)風営法は,風俗営業者が増築,改築その他の行為による営業所の構造又は設備の変更(以下「営業所の拡張等」という。)をしようとするときは,あらかじめ公安委員会の承認を受けなければならず(同法9条1項),風俗営業者が営業所の構造又は設備につき内閣府令で定める軽微な変更をしたときには届出をしなければならない(同条2項)と定められている。
 公安委員会は,上記の承認の申請に係る営業所の構造及び設備が同法4条2項1号の技術上の基準及び同法3条2項の規定により公安委員会が付した条件に適合していると認めるときは,上記承認をしなければならないと定められ,上記技術上の基準として,風営法施行規則(平成18年公安委規則14号による改正前のもの。以下同じ。)6条は,同法2条1項7号に掲げる営業(まあじゃん屋,ぱちんこ屋その他の設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業)については,騒音又は振動の数値が同法15条の規定に基づく条例で定める数値に満たないように維持するため必要な構造又は設備を有することと定めている。そして,同法15条の規定に基づいて定められた大阪府風営法施行条例6条1項は,騒音に係る数値を①都市計画法上の第1種低層住居専用地域及び第2種低層住居専用地域について,昼間(日出時から日没時まで。以下同じ。)は45デシベル,夜間(日没時から翌日の午前0時まで。以下同じ。)・深夜(午前0時から日出時まで。以下同じ。)は,40デシベル,②同法上の第1種中高層住居専用地域,第2種中高層住居専用地域,第1種住居地域,第2種住居地域及び準住居地域等について,昼間は50デシベル,夜間・深夜は45デシベル,③同法上の商業地域について,昼間は60デシベル,夜間・深夜は55デシベル,④上記以外の地域について,昼間は60デシベル,夜間は55デシベル,深夜は50デシベルと定めている。


【提起された訴訟】

 1 大阪府公安委員会がS株式会社に対して平成14年10月21日付けでした営業所「Bパチンコ」の営業所拡張の変更承認処分を取り消す。
 2 大阪府公安委員会がS株式会社に対して平成17年12月22日付けでした営業所「Bパチンコ」の営業所拡張の変更承認処分を取り消す。
 3 大阪府公安委員会は,S株式会社が平成18年1月17日付けで提出した営業所「Bパチンコ」の駐車場増設の変更届出書を受理してはならない。


【判決】原告は、Xとして記載しました。

 1 請求1項及び3項に係る原告らの訴えをいずれも却下する。
 2 原告らのその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用は原告らの負担とする。


**********************


 判決文における原告適格は、どのように判事されたか。

*****判決文抜粋****
 1 争点(1)(原告適格の有無)について
 (1)行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
 そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)。
 (2)以上を前提にして,原告らに本件各処分の取消しを求める原告適格が認められるか否かを検討する。
 ア 風俗営業者が,営業所の拡張等を行う際には,あらかじめ公安委員会の承認を受けなければならず(風営法9条1項),公安委員会は,上記承認の申請に係る営業所の構造及び設備が同法4条2項1号の国家公安委員会規則で定める技術上の基準等に適合していると認められるときは,その承認をしなければならない(同法9条2項)とされている。これを受けて定められた風営法施行規則6条は,同法2条1項7号に掲げる営業(ぱちんこ屋等の営業)について,騒音又は振動の数値が同法15条の規定に基づく条例で定める数値に満たないように維持されるため必要な構造又は設備を有しなければならないとし,同条の規定を受けて定められた大阪府風営法施行条例6条は,上記騒音,振動に係る数値を定めており,その騒音に係る数値について,都市計画法上の第1種低層住居専用地域,第2種低層住居専用地域,第1種中高層住居専用地域,第2種中高層住居専用地域,第1種住居地域,第2種住居地域,準住居地域,商業地域,それ以外の地域ごとにそれぞれ昼間・夜間・深夜の区分に応じて40~60デシベルの範囲内で,第1種低層住居専用地域から商業地域にかけて,かつ,昼間から夜間,深夜にかけて騒音についての規制が厳しくなるようにその数値を定めている。
 また,風営法は,風俗営業者に対し午前0時から日出までの営業を禁止し(同法13条),その営業活動について,営業所周辺における騒音,振動及び広告宣伝を規制する規定を設けており(同法15条,16条),これらの規制の実効性を担保するために,風俗営業者に対して,営業所ごとに法令の遵守を管理する専任の管理者の選任を義務付け(同法24条,同法施行規則30条),管理者の業務として,営業所の構造及び設備が前記の同法施行規則6条の技術上の基準に適合するようにするための点検等の管理を行うこと等を定めている(同法24条3項,同法施行規則31条)。そして,風営法は,風俗営業者が上記規制に違反した場合には,公安委員会は,善良な風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為を防止するため必要な指示をし(同法25条),又は,風俗営業の許可を取消し,営業の停止を命じることができる(同法26条)と定めている。
 このように,風営法,同法施行規則等が,営業所の拡張等の承認の処分要件の一つとして,騒音や振動の防止構造や設備について,上記のような具体的な定めを置くとともに,(承認後の)営業活動に伴う騒音,振動を具体的に規制していることに照らせば,営業所の拡張等の承認に関する風営法の規定は,営業活動に対する上記各規制と連携して,善良の風俗と清浄な風俗環境を保持するとともに,風俗営業者の営業に伴う騒音,振動等によって,営業所周辺地域に居住する住民の健康や生活環境に係る被害が発生することを防止することもその趣旨及び目的としているものと解すべきである。
 イ そして,風営法等の上記各規定に違反した違法な増築,改築による営業所の構造又は設備の変更に係る承認がなされた場合に,その営業に起因する騒音,振動等による被害を直接的に受けるのは,営業所周辺の一定範囲の地域に居住する特定の住民に限られ,その被害の程度は,居住地が営業所に接近するにつれて増大すると考えられる。加えて,このような住民が当該地域に居住し続けることにより上記の被害を反復,継続して受けた場合,その被害は,これらの住民の健康や生活環境に係る大きな被害に至り得るおそれもある。
 なお,風俗営業に伴う騒音等は,航空機騒音や都市計画事業に伴う騒音等と比べて,周辺住民に対する影響は限定的であるが,それは,影響を受ける住民の範囲の広狭の問題であって,周辺住民に対し上記被害が生ずるおそれのあることを否定する根拠にはならない。
 ウ このように営業所の拡張等の承認に関する風営法の規定が,当該営業所の周辺地域に居住する住民に対して,承認後の営業に起因する騒音,振動によって健康や生活環境に係る被害を受けないという利益をも保護する趣旨と解されることに,上記のような騒音,振動等に伴う被害の内容,性質,程度等に照らせば,この具体的利益を一般的公益の中に吸収解消させることは困難である。
 被告は,営業所の拡張後の騒音,振動被害が生じたとしても,損害賠償や営業の停止取消処分等によって対応できることをもって,周辺住民には,本件各処分の取消しを求める個別的利益はないと主張するが,事後的な対応が可能であることは,本件各処分の取消しを求める個別的利益を否定する根拠にはならない。
 したがって,営業所に近接する範囲に居住する地域住民のうち当該営業が実施されることにより,騒音,振動による健康又は生活環境に係る被害を直接的に受けるおそれのある者は,当該営業所の拡張等の承認処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するというべきである(なお,平成10年判決は,風営法における騒音及び振動に関する上記各規制を根拠として営業制限地域に居住する住民の原告適格を基礎付けることができないという判断も示していると解されるが,同判決は,上記各規制に周辺住民の個別的利益の保護の趣旨が含まれていることを一概に否定したものとはいえない。)。
 (3)以上を前提に,原告らに営業所の拡張等の承認処分(本件各処分)の取消しを求める原告適格があるか否かを検討する。
 前記前提事実のとおり,原告らは,本件営業所から幅員約9mの道路を隔てた南西隣に位置する本件マンションに居住しており,本件各処分において騒音及び振動の防止設備等の審査に誤りがあった場合,その承認処分後の営業に伴う騒音や振動等により,健康又は生活環境に係る被害を直接的に受けるおそれのある者といえるから,本件各処分の取消しを求める原告適格を有するものと解すべきである。


**************************************


 判決文における出訴期間の徒過について、どのように判事されたか。

******行政訴訟法14条******
(出訴期間)
第十四条  取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2  取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3  処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、前二項の規定にかかわらず、これに対する裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
********************


******判決文抜粋****
2 争点(2)(出訴期間の徒過と正当理由の有無)について
 (1)本件処分1について
 行政事件訴訟法14条2項は,取消訴訟は,正当な理由がない限り,処分又は裁決の日から1年を経過したときは,提起することができないと定めているところ,本件処分1は,平成14年10月21日付けでなされており,本件訴訟は,同日から1年を経過した後に提起されている。
 そこで,原告らに上記正当な理由があるか否かを検討する。
 同項本文が,処分の日から1年を経過したときは訴えを提起することができないと定めた趣旨は,行政処分が処分の相手方だけでなく,公共の利害に関係することが多いことから,瑕疵ある行政処分であったとしても,いつまでも取消訴訟を提起できるとしておくことが法的安定性を損ない,行政の円滑な運営を妨げることから,出訴期間を制限し,もって,行政上の法律関係を早期に安定させ,行政秩序の維持を図ろうとした点にあると解される。そして,同項本文が,出訴期間の始期を画一的に「処分又は裁決があった日」とし,同条1項本文のように原告の知,不知にかからしめなかったことも上記趣旨と同じものと解される。このように同条2項本文が画一的に法的安定性を図ろうとしたことに照らせば,同項ただし書きの「正当な理由」とは,災害,交通遮断,病気等の出訴できないことが社会通念上相当と認めるに足りる客観的事情をいうと解すべきであり,原告が単に処分を知らなかったなど原告の主観的事情は「正当な理由」には当たらないと解すべきである。
 本件において,原告らは,「正当な理由」として,同人らが平成18年春ないし8月中旬頃,初めて本件処分1が違法であることを知ったと主張するにとどまり,上記客観的事情について何ら主張しておらず,また,このような事情を認めるに足りる証拠もない。
 したがって,原告らに「正当な理由」を認めることはできない。
 よって,請求1項に係る訴えは,不適法である。

 (2)本件処分2について
 ア 行政事件訴訟法14条1項は,取消訴訟は,正当な理由がない限り,処分又は裁決があったことを知った日から6か月を経過したときは,提訴することができないと定めている。ここで,本件処分2は,平成17年12月22日付けでなされているが,本件訴訟の提起が平成18年9月12日であるから,原告らが本件処分2があったことを知ったのが同年3月12日以後であれば,本件訴訟は提訴期間経過前に提起されたものということになる。
 そこで,原告らが本件処分2があったことを知った日が同年3月12日以後か否かを検討する。
 上記「処分があったことを知った日」とは,当該処分が相手方の了知し得る状態に置かれただけでは足りず,相手方において現実に了知した日をいうと解すべきである(最高裁昭和27年11月20日第一小法廷判決・民集6巻10号1038頁参照)。そして,処分の名あて人以外の第三者の場合については,諸般の事情から,上記第三者が処分があったことを現実に了知したものと推認することができるときは,その日を上記「処分があったことを知った日」としてその翌日を上記第三者の出訴期間の起算日と解すべきである。
 弁論の全趣旨によれば,原告らが本件訴訟を提起するに至ったのは,平成18年春ころないし同年8月中旬ころ,訴外F株式会社他1名が提起した本件各処分の取消しを求めた別件訴訟(当庁平成17年(行ウ)第207号)の経過を訴外同人らから聞いたことがきっかけとなっていることが認められ,これによれば,原告らが本件処分2があったことを現実に了知したのは,早くとも平成18年3月12日以後であったと推認できる。
 イ これに対して,被告は,ぱちんこ店の開店に当たり,公安委員会の許可処分が必要であることは一般常識であり,原告らが平成18年3月12日より前に本件営業所の拡張工事及び同工事後の営業開始を知っていた以上,その当時から本件処分2があったことを知っていたと主張する。しかし,本件処分2は,ぱちんこ店の営業許可ではなく,営業所の拡張等の承認処分であり,ぱちんこ店の営業所の拡張等に公安委員会の承認が必要であることが一般常識とまではいえないことからすれば,原告らが本件営業所の拡張工事等の事実を知っていたことから同人らが本件処分2があったことを現実に了知していたと推認することはできず,被告の上記主張は採用できない。
 ウ 以上からすれば,原告らは,早くても平成18年3月12日以後に本件処分2を現実に了知したと認められ,他にこれを覆すに足りる証拠はない。
 よって,争点(2)のうち本件処分2に係る原告らの主張は理由がある。
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子ども虐待と民法改正 NPO法人・子ども虐待防止みやざきの会 

2012-05-28 17:54:18 | 小児医療
 虐待に関して部分は、小児医療と法との接点として重要な問題のひとつと思っています。

 今後も、法的な観点からも虐待を診れるように、小児科医師として法を勉強していきたいと感じるところです。



******毎日新聞(2012/05/28)*******
http://mainichi.jp/area/miyazaki/news/20120528ddlk45040337000c.html

講演会:子どもの虐待防ごう 弁護士が改正民法説明−−NPO法人、宮大で /宮崎

毎日新聞 2012年05月28日 地方版


 子どもの虐待防止に関する講演会が27日、宮崎市の宮崎大学であった。県弁護士会子どもの権利委員会の松浦里美弁護士(えいらく法律事務所)が「親権について考える−子ども虐待と民法改正」と題し、昨年改正された民法を説明した。

 大学教員や児童養護施設職員らでつくるNPO法人・子ども虐待防止みやざきの会(甲斐英幸会長、約200人)が主催し、約20人が参加した。

 松浦弁護士によると、子どもを虐待する親に対し、これまでは無期限に親権を喪失させる制度しかなかったが、改正で最長2年間の一時的停止制度が設けられ、経過を見られるようになった。また、特定の個人しか後見人になれず、虐待される子どもの引き受け手を見つけるのが難しかった未成年後見制度も、養護施設など法人が後見人になることや、複数人で役割分担することが可能になった。

 松浦弁護士は「子どもの利益を守るための選択肢が増えた点は評価できる」と話した。

 NPOは、メール(miyazaki@mapcan.net)で虐待についての相談を受け付けている。【中村清雅】
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民法でいう扶養義務の範囲 民法752条、877条1項2項

2012-05-28 15:39:58 | シチズンシップ教育
 弁護士の方が、扶養義務について、述べられていました。

 ひとつの考え方の参考になると思います。

 もちろん、法律論だけで片付けず、立法政策、倫理道徳的な面もあわせ、総合的に考えていく必要がありますが、まずは、法律でどのように規定されているかは、物事を考える上での基本となります。

 関係法令は、民法の以下の規定。

*****民法******

(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条  夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

(扶養義務者)
第八百七十七条  直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2  家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3  前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。


*************


******引用*****

ystk‏@lawkus

ここ数日,「三親等内の親族については扶養義務がある」という趣旨の(あるいはそのことを前提とした)twが散見されるんだが,これ間違いですからね。配偶者並びに直系血族及び兄弟姉妹以外については扶養義務はないのが原則。三親等以内については,家裁の審判により義務が発生する場合があるだけ。


【再掲・1/8】何だかTL上で話題になっているようなので,民法上の扶養義務について,まともな法学部生なら知ってるであろうレベルの基礎知識をちょっと述べておきましょう。民法上,まず,夫婦並びに直系血族及び兄弟姉妹は,相互に扶養義務を負います。(民752条,民877条1項)(続く)

【再掲・2/8】逆に言うと,その他の親族については原則的に扶養義務はなく,家裁の審判があった場合に例外的に扶養義務が生じます(民877条2項)。つまり姻族(配偶者の血族。嫁姑等)や,兄弟姉妹以外の傍系血族(従兄弟,叔父叔母甥姪等)については,扶養義務はないのが原則です。(続く)


【再掲・3/8】このように,一般的に「親族には扶養義務がある」とは言えないことが,まず大前提ですね。更に,先に原則的に扶養義務が認められると述べた配偶者並びに直系血族及び兄弟姉妹についても,解釈論上,扶養義務の内容は,一律ではないものとされています。(続く)

【再掲・4/8】まず,配偶者及び未成熟子に対する扶養義務は,講学上「生活保持義務」と呼ばれる高度な義務とされています。自らと同程度の生活をさせる義務とか,最後の肉の一片まで分けて食うべき義務とか言われています。(続く)

【再掲・5/8】他方,その他の親族(成年した子,子以外の直系卑属(孫等),直系尊属(親等),兄弟姉妹)に対する扶養義務は,講学上「生活扶助義務」といって,簡単にいうと,自らの生活を犠牲にしない範囲で扶助すればよい義務ということです。(続く)

【再掲・6/8】つまり,話題の河本さんがお母様に対して負う扶養義務は,法的には「生活扶助義務」,換言すれば,孫とか兄弟姉妹とかに対して負う扶養義務と同等のものに過ぎないということですね。そこは押さえておく必要があるでしょう。法律論としては以上です。(続く)

【再掲・7/8】後は政策論の問題で,扶養義務を負う資力ある親族がいるというだけで親族優先を貫き現に困窮している人を見放すべきなのか,人的関係等から事実上扶養を期待し難い場合には親族扶養は諦めて公的な扶助を与えるべきなのか,という問題に帰着するでしょう。(続く)

【再掲・8/8】前記政策論のうち,私は後者が望ましいと思いますが,今回の件が示すのは,前者を支持する人が結構いるというだけのことですね。親を扶養しないとはけしからんという話を「法律だからドヤッ」と言い換えても,説得力は低いかと。曾孫でも兄弟姉妹でも常に扶養すべしというなら別...


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メモ:子ども子育て新システムって何?毎日新聞の村木厚子さんのインタビュー記事

2012-05-28 12:03:03 | 子育て・子育ち

子ども子育て新システムって何?

毎日新聞の村木厚子さんのインタビュー記事

https://twitter.com/Hiroki_Komazaki/status/206939171506499584/photo/1/large

 

 

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メモ:産科医療補償制度

2012-05-28 09:56:11 | 小児医療
 メモとして、掲載。

 医療と法に関連する重要な課題のひとつと考えています。


*****************************************

産科医療補償制度 さんかいりょうほしょうせいど
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%BA%B2%CA%B0%E5%CE%C5%CA%E4%BD%FE%C0%A9%C5%D9


2009年1月創設。

分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児に対する補償の機能と脳性麻痺の原因分析・再発防止の機能とを併せ持つ補償金(総額3000万円)が支払われる制度。

掛金は1分娩あたり30,000円(この負担を軽減させる制度として出産育児一時金の35万円を2009年1月1日から38万円に引き上げる)


補償対象

出生体重が2,000g以上かつ在胎週数33週以上
身体障害者1・2級相当の重症児
尚、先天性要因や新生児期要因などの除外基準もある。*1



創設の経緯

2006年11月 自民党政務調査会・社会保障制度調査会・医療紛争処理のあり方検討委員会において「産科医療における無過失補償制度の枠組みについて」が示される
2007年2月 財団法人日本医療機能評価機構に「産科医療補償制度運営組織準備室」の設置。「産科医療補償制度運営組織準備委員会」の開催
2007年4月 「産科医療補償制度調査専門委員会」の設置
2007年8月 「産科医療補償制度設計に係る医学的調査報告書」をまとめる
2008年1月 「産科医療補償制度運営組織準備委員会」が報告書をまとめる
2009年1月 「産科医療補償制度」創設*2

*1:http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/outline/index.html

*2:http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/outline/detail.html

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命のバトン (弟様、コメントありがとうございます。)

2012-05-28 00:00:01 | 医療
 以下、ブログに対し、コメントをいただきました。

****コメント*****

Unknown (弟)
2012-05-24 22:53:20
はじめまして。同じような状況で悩んでいます。ただ、生前の意思もなく、結婚もしていません。彼女さんには冷凍保存してある事実はまだ隠しています。死者の子を産むことは生命への冒涜なのでしょうか?

****コメント以上*****

 
 コメントありがとうございます。

 ものすごく重要、重大な問題だと思います。
 
 回答を出すことは、たいへん難しいことですし、多くの事柄と同じように、正解はないと思われます。
 しかし、最善の選択を、いつかは必ず出さざるを得ない厳しい状況をお察しいたします。

 どうあるべきか、法的な考え方のみならず、医学のみならず、哲学、倫理学、宗教学、社会学あらゆる方面の考え方を取り入れて見いださねばなりません。

 最高裁判決で述べられているように、適切な手続きを経ながら、立法による整備が求められるところです。

 学際的な議論、立法整備がない中では、ひとつの考え方としては、生まれくる子どもが最も幸せであるような形になるように考えることがあるように思います。

 最高裁判決文を読んだとき、私がまず感じたことは、実は、そのような状況のもと、それでも、子どもが生まれたことで、ほっとした気持ちになりました。これが正直な気持ちです。

 適切な回答を申し述べることができず、申し訳ございません。
 これからも、私自身も回答を見いだせるように考え続けます。
 
 コメントを下さった方には、どうか、ご納得のいく回答を見いだされることを心からお祈り致しております。


*******コメントをいただいたブログ、再掲******
http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/bf5451990f5c953d1e16d868ff7b2d71

司法の現場では、医師、医療に関連した重要課題が山積しています。
 今回取り上げる話題も、そのひとつ。

 医師としてどう考えるか、そして、それを社会にどう伝え、どのような政策立法をしていけばよいのか、そのような考える場づくりが求められていると思います。


 以下は、死後懐胎子に関する課題です。


 死後懐胎子と精子を提供した亡父との間の法的父子関係の形成に関し、最高裁は、「認められない」と判決しています。

 平成16年11月18日最高裁第一小法廷判決で出されました。

 判決では、死後生殖は、自然生殖とのかい離が大きく、現在のところ、死後生殖を禁止する法律は制定されていないが、これを禁止すべきであるという見解が大勢を占めており、これを認容すべきであるとする社会的な認識はない状況であるとしているようです。

 今後、解決を図るのであれば、死後懐胎子と精子を提供した亡父との間の法的父子関係の形成に関する問題は、立法にゆだねられることになります。


 最高裁判決で、立法に関する点は、滝井裁判官及び今井裁判官が各補足意見において具体的に指摘をされています。


 最高裁の判例の事情は、解決を求めて裁判をせざるをえない状況が自分にはひしひしと伝わってきます。

【事案の概要】
 (1)BとAは,平成9年*月*日に婚姻した夫婦。

 (2)Bは,婚姻前から,慢性骨髄性白血病の治療を受けており,婚姻から約半年後,骨髄移植手術を行うことが決まった。本件夫婦は,婚姻後,不妊治療を受けていたが,Aが懐胎するには至らず,Bが骨髄移植手術に伴い大量の放射線照射を受けることにより無精子症になることを危ぐし,平成10年6月,a県b市に所在する病院において,Bの精子を冷凍保存した。

 (3)Bは,平成10年夏ころ,骨髄移植手術を受ける前に,Aに対し,自分が死亡するようなことがあってもAが再婚しないのであれば,自分の子を生んでほしいという話をした。また,Bは,骨髄移植手術を受けた直後,同人の両親に対し,自分に何かあった場合には,Aに本件保存精子を用いて子を授かり,家を継いでもらいたいとの意向を伝え,さらに,その後,Bの弟及び叔母に対しても,同様の意向を伝えた。

 (4)夫婦は,Bの骨髄移植手術が成功して同人が職場復帰をした平成11年5月,不妊治療を再開することとし,同年8月末ころ,c県d市に所在する病院から,本件保存精子を受け入れ,これを用いて体外受精を行うことについて承諾が得られた。しかし,Bは,その実施に至る前の同年9月*日に死亡した。

 (5)Aは,Bの死亡後,同人の両親と相談の上,本件保存精子を用いて体外受精を行うことを決意し,平成12年中に,上記病院において,本件保存精子を用いた体外受精を行い,平成13年5月*日,これにより懐胎した被上告人を出産した。
 
 上記の経過により出生した子が,検察官に対し,自分がBの子であることについて死後認知を求めた事案である。


【用語】
人工生殖子:人工生殖により懐胎、出生した子
自然生殖子:自然生殖により懐胎、出生した子、人工生殖子に対していう言い方。

死後懐胎子:男性の死亡後に当該男性の保存精子を用いて行われた人工生殖により女性が懐胎、出産した子


【参照】
判例タイムズ No.1227(2007.2.15)


******最高裁ホームページより*****
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=33488&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060904164054.pdf



事件番号

 平成16(受)1748



事件名

 認知請求事件



裁判年月日

 平成18年09月04日



法廷名

 最高裁判所第二小法廷



裁判種別

 判決



結果

 破棄自判



判例集等巻・号・頁

 民集 第60巻7号2563頁




原審裁判所名

 高松高等裁判所



原審事件番号

 平成15(ネ)497



原審裁判年月日

 平成16年07月16日




判示事項

 保存された男性の精子を用いて当該男性の死亡後に行われた人工生殖により女性が懐胎し出産した子と当該男性との間における法律上の親子関係の形成の可否




裁判要旨

 保存された男性の精子を用いて当該男性の死亡後に行われた人工生殖により女性が懐胎し出産した子と当該男性との間に,法律上の親子関係の形成は認められない。
(補足意見がある。)




参照法条

 民法787条


判決文全文

 主   文

 原判決を破棄する。
 被上告人の控訴を棄却する。
 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

       理   由

 上告人の上告受理申立て理由について
 1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1)BとAは,平成9年*月*日に婚姻した夫婦(以下「本件夫婦」という。)である。
 (2)Bは,婚姻前から,慢性骨髄性白血病の治療を受けており,婚姻から約半年後,骨髄移植手術を行うことが決まった。本件夫婦は,婚姻後,不妊治療を受けていたが,Aが懐胎するには至らず,Bが骨髄移植手術に伴い大量の放射線照射を受けることにより無精子症になることを危ぐし,平成10年6月,a県b市に所在する病院において,Bの精子を冷凍保存した(以下,この冷凍保存した精子を「本件保存精子」という。)。
 (3)Bは,平成10年夏ころ,骨髄移植手術を受ける前に,Aに対し,自分が死亡するようなことがあってもAが再婚しないのであれば,自分の子を生んでほしいという話をした。また,Bは,骨髄移植手術を受けた直後,同人の両親に対し,自分に何かあった場合には,Aに本件保存精子を用いて子を授かり,家を継いでもらいたいとの意向を伝え,さらに,その後,Bの弟及び叔母に対しても,同様の意向を伝えた。
 (4)本件夫婦は,Bの骨髄移植手術が成功して同人が職場復帰をした平成11年5月,不妊治療を再開することとし,同年8月末ころ,c県d市に所在する病院から,本件保存精子を受け入れ,これを用いて体外受精を行うことについて承諾が得られた。しかし,Bは,その実施に至る前の同年9月*日に死亡した。
 (5)Aは,Bの死亡後,同人の両親と相談の上,本件保存精子を用いて体外受精を行うことを決意し,平成12年中に,上記病院において,本件保存精子を用いた体外受精を行い,平成13年5月*日,これにより懐胎した被上告人を出産した。
 2 本件は,上記の経過により出生した被上告人が,検察官に対し,被上告人がBの子であることについて死後認知を求めた事案である。
 3 原審は,前記事実関係の下において,次のとおり判断して,本件請求を棄却した第1審判決を取り消し,本件請求を認容すべきものとした。
 (1)民法787条は,生殖補助医療が存在せず,男女間の自然の生殖行為による懐胎,出産(以下,このような生殖を「自然生殖」といい,生殖補助医療技術を用いた人為的な生殖を「人工生殖」という。)のみが問題とされていた時代に制定されたものであるが,そのことをもって,男性の死亡後に当該男性の保存精子を用いて行われた人工生殖により女性が懐胎し出産した子(以下「死後懐胎子」という。)からの認知請求をすること自体が許されないとする理由はない。
 (2)民法787条に規定する認知の訴えは,婚姻外で生まれた子を父又は母が自分の子であることを任意に認めて届出をしない場合に,血縁上の親子関係が存在することを基礎とし,その客観的認定により,法律上の親子関係を形成する制度である。したがって,子の懐胎時に父が生存していることは,認知請求を認容するための要件とすることはできない。そして,死後懐胎子について認知が認められた場合,父を相続することや父による監護,養育及び扶養を受けることはないが,父の親族との間に親族関係が生じ,父の直系血族との間で代襲相続権が発生するという法律上の実益がある。
 もっとも,夫婦の間において,自然生殖による懐胎は夫の意思によるものと認められるところ,夫の意思にかかわらずその保存精子を用いた人工生殖により妻が懐胎し,出産した子のすべてが認知の対象となるとすると,夫の意思が全く介在することなく,夫と法律上の親子関係が生じる可能性のある子が出生することとなり,夫に予想外の重い責任を課すこととなって相当ではない。そうすると,上記のような人工生殖により出生した子からの認知請求を認めるためには,当該人工生殖による懐胎について夫が同意していることが必要であると解される。
 以上によれば,死後懐胎子からの認知請求が認められるためには,認知を認めることを不相当とする特段の事情がない限り,子と父との間に血縁上の親子関係が存在することに加えて,当該死後懐胎子が懐胎するに至った人工生殖について父の同意があることが必要であり,かつ,それで足りると解される。
 (3)被上告人は,Bの死亡後に本件保存精子を用いて行われた体外受精によりAが懐胎し,出産した者であるから,Bとの間に血縁上の親子関係が存在し,Bは,その死亡後に本件保存精子を用いてAが子をもうけることに同意していたと認められる。そして,本件全証拠によっても,本件請求を認容することを不相当とする特段の事情は認められない。そうすると,被上告人は,Bを父とする認知請求が認められるための上記要件を充足しているというべきである。
 4 しかしながら,原審の上記判断のうち(2)及び(3)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 民法の実親子に関する法制は,血縁上の親子関係を基礎に置いて,嫡出子については出生により当然に,非嫡出子については認知を要件として,その親との間に法律上の親子関係を形成するものとし,この関係にある親子について民法に定める親子,親族等の法律関係を認めるものである。
 ところで,現在では,生殖補助医療技術を用いた人工生殖は,自然生殖の過程の一部を代替するものにとどまらず,およそ自然生殖では不可能な懐胎も可能とするまでになっており,死後懐胎子はこのような人工生殖により出生した子に当たるところ,上記法制は,少なくとも死後懐胎子と死亡した父との間の親子関係を想定していないことは,明らかである。すなわち,死後懐胎子については,その父は懐胎前に死亡しているため,親権に関しては,父が死後懐胎子の親権者になり得る余地はなく,扶養等に関しては,死後懐胎子が父から監護,養育,扶養を受けることはあり得ず,相続に関しては,死後懐胎子は父の相続人になり得ないものである。また,代襲相続は,代襲相続人において被代襲者が相続すべきであったその者の被相続人の遺産の相続にあずかる制度であることに照らすと,代襲原因が死亡の場合には,代襲相続人が被代襲者を相続し得る立場にある者でなければならないと解されるから,被代襲者である父を相続し得る立場にない死後懐胎子は,父との関係で代襲相続人にもなり得ないというべきである。このように,死後懐胎子と死亡した父との関係は,上記法制が定める法律上の親子関係における基本的な法律関係が生ずる余地のないものである。そうすると,その両者の間の法律上の親子関係の形成に関する問題は,本来的には,死亡した者の保存精子を用いる人工生殖に関する生命倫理,生まれてくる子の福祉,親子関係や親族関係を形成されることになる関係者の意識,更にはこれらに関する社会一般の考え方等多角的な観点からの検討を行った上,親子関係を認めるか否か,認めるとした場合の要件や効果を定める立法によって解決されるべき問題であるといわなければならず,そのような立法がない以上,死後懐胎子と死亡した父との間の法律上の親子関係の形成は認められないというべきである。
 以上によれば,本件請求は理由がないというべきであり,これと異なる原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,本件請求を棄却すべきものとした第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴は棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官滝井繁男,同今井功の各補足意見がある。

 裁判官滝井繁男の補足意見は,次のとおりである。
 私は,法廷意見の結論に賛成するものであるが,その理由につき補足して意見を述べておきたい。
 1 民法787条に規定する認知の訴えの制度は,婚姻外で生まれた子を父又は母が自分の子であることを任意に認めて届出をしない場合においても,血縁上の親子関係が存在することを認定して法律上の親子関係を形成するものである。そして,父又は母の死亡後にも,一定期間に限って子又はその法定代理人によって認知の訴えを提起することを認めている。これらは,民法の制定時期に照らし,自然生殖を前提としたものである。
 ところで,今日,進歩した生殖補助医療技術の手を借りて子を持つことができる可能性が格段に広がってきた。民法の実親子関係法制は,上記のとおり,自然生殖による出生子についての親子関係を予定していたものであるが,両親が,その意思に基づき,自然生殖の過程の一部について今日の進歩した医療の補助を受け,子を懐胎,出産した場合は,自然生殖による懐胎,出産と同視し得るものであり,これによって生まれた子との間に法律上の親子関係を認めることには何らの問題はないと考える。これに対し,既に死亡している者が提供した冷凍保存精子を用いて子を懐胎,出産したという本件のような場合については,そもそも子は生存中の父母の配偶子によって生まれるものであるという自然の摂理に反するものであり,上記法制の予定しない事態であることは明らかである。確かに既に死亡している者が提供した冷凍保存精子を用いて出生した子と当該死亡した精子提供者との間にも血縁関係が存在するが,民法は,嫡出推定やその否認を制限する規定,認知に関する制限規定など,血縁関係のない子との法律上の親子関係を認めたり,血縁上の親子関係のある者にも法律上の親子関係を認めない場合が生じることを予定した規定を置いていることからも明らかなように,血縁主義を徹底してはいないのであって,血縁関係があることから当然に法律上の親子関係が認められるものということはできないのである。また,民法は,認知請求において懐胎時の父の生存を要件とする明文の規定を置いていないが,自然生殖を前提とする上記法制の下では,同要件は当然の前提となっているものというべきものであって,同要件を定める明文の規定がないことをもって,既に死亡している者が提供した冷凍保存精子を用いて出生した子と当該死亡した精子提供者との間に法律上の親子関係を認める根拠とはし得ないと考える。
 2 死亡した精子提供者の生前における明確な同意がある場合には,上記両者の間に法律上の親子関係を認めてよいという考えがある。しかしながら,本来,子は両親が存在して生まれてくるものであり,不幸にして出生時に父が死亡し,あるいは不明であるという例があるにしろ,懐胎時には,父が生存しており,両親によってその子が心理的にも物質的にも安定した生育の環境を得られることが期待されているのである。既に死亡している者が提供した冷凍保存精子を用いて出生した子はそもそもこのような期待を持ち得ない者であり,精子提供者の生前の同意によってそのような子の出生を可能とすることの是非自体が十分な検討を要する問題である上,懐胎時に既に父のいない子の出生を両親の合意によって可能とするというのは,親の意思と自己決定を過大視したものであって,私はそれを認めるとすれば,同意の内容や手続について立法を待つほかないと考えるのである。
 我が国の立法作業は,社会情勢の変化や科学の進展に対応して必ずしも迅速に行われているとはいえないことがある。したがって,司法は,法の欠缺といわれる領域を埋めるための判断を必要とする場合もあり得ると考える。しかしながら,本件のような医療の進展によって生じた未知の領域において生まれた子に法律上の親子関係を肯定するについては,法律上の親子というものをどうみるかについての様々な価値との調和と法体系上の調整が求められるのであって,司法機関がそれを待たずに血縁関係の存在と親の意思の合致というだけで,これを肯定することができるという問題ではないと考えるのである。
 現在,法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会において,精子,卵子,胚の提供等による生殖補助医療によって出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する立法が検討されている。そこでは,第三者が提供する精子等を用いて夫婦間で行われる生殖補助医療によって生まれた子の親子関係をどのような条件で認めるかについては一定の合意が得られつつあるものの,死亡した者が提供した冷凍保存精子を用いた生殖補助医療によって生まれた死後懐胎子の父子関係については,検討が進んでいない状況にある。これは,精子提供者が死亡した後にその冷凍保存精子を用いた生殖補助医療の是非等の根本問題についての意見の集約が得られないことによるものと思われる。
 今日の生命科学の進歩,とりわけ生殖補助医療の進歩によって,民法の実親子関係法制が想定していなかった子が少なからず出生しているといわれているが,法規制がないため,そのような子の出生を可能とする生殖補助医療は,医学界や医療集団の自己規制にゆだねられている実情にある。あるべき規制がどのようなものであれ,既に生まれてきた子についてはその福祉を第一に考えるべきだという考えは理解でき,私もそのことに異論はない。しかしながら,法律上の親子関係を肯定することが生まれてきた死後懐胎子の福祉にとってどれだけの意味を持つものかは,必ずしも明らかになっているわけではない。ここで考えなければならないのは,生まれてきた死後懐胎子の福祉をどうするかだけではなく,親の意思で死後懐胎子を生むということはどういうことであり,法律上の親子関係はどのようなものであるべきかであって,その中で,生まれてくる子の福祉とは何かが考えられなければならないのである。既に生まれている死後懐胎子の福祉の名の下に,血縁関係と親の意思の存在を理由に法律上の親子関係を肯定すれば,そのことによって懐胎時に父のいない子の出生を法が放任する結果となることになりかねず,そのことをむしろ懸念するのである。何人もその価値を否定し得ない生まれてきた子の福祉の名において,死後懐胎子を生むということ,法律上の親子であるということの意味,そして,その中で自分の意思にかかわらず出生することとなる死後懐胎子についての検討がおろそかにされてはならないと考えるのである。
 3 私は,以上の問題は,もはや医学界や医療集団の自己規制にゆだねられておいてよいことではなく,医療行為の名において既成事実が積み重ねられていくという事態を放置することはできないのであって,今日の医療技術の進歩と社会的な認識の変化の中で,死後懐胎子を始め民法の親子法制が予定していない態様の生殖補助医療によって生まれる子に関する親子法制をどういうものとみるかの検討の上に立って,これに関して速やかな法整備を行うことが求められているものと考える。
 また,我が国において戸籍の持つ意味は諸外国の制度にはない独特のものがあり,子にとって戸籍の父欄が空欄のままであることの社会的不利益は決して小さくはないし,子が出自を知ることへの配慮も必要であると考える。今後,生命科学の進歩に対応した親子法制をどのように定めるにせよ,今日の生殖補助医療の進歩を考えるとき,その法制に反した,又は民法の予定しない子の出生ということも避けられないところである。親子法制をどのように規定するにせよ,法律上の親子関係とは別に,上記の生殖補助医療によって生まれる子の置かれる状況にも配慮した戸籍法上の規定を整備することも望まれるところである。

 裁判官今井功の補足意見は,次のとおりである。
 1 本件は,夫の生前に採取し,冷凍保存した精子を用いて,夫の死後に,妻の卵子との間で行われた体外受精により懐胎し,出産した子(以下「死後懐胎子」という。)から,検察官に対し,死亡した夫の子であることについて死後認知を求める事件である。
 科学技術の進歩は著しく,生殖補助医療の技術も日進月歩の状況にあるが,これに伴って,様々な法律問題が生じている。本件の死後懐胎子の認知請求の問題もその一つである。
 2 現行法制の下での父子関係に関する定めを見ると,婚姻関係にある夫婦の間に出生した子は,嫡出子として,夫との間に父子関係を認められ,婚姻関係にない男女の間に出生した子は,血縁上の父の認知により法律上の父子関係を認められる。父が認知をしない場合には,子などによる認知を求める裁判の判決により,血縁上の父と子の間の法律上の父子関係が形成される。現行法制は,基本的に自然生殖による懐胎により出生した子に係る父子関係を対象として規律しているものであって,死後懐胎子と死亡した父との父子関係を対象としていないことは明らかである。民法は,懐胎の後に父が死亡した場合の死後認知については規定を置いているが,懐胎の時点において,既に父が死亡している場合については,想定をしておらず,したがってこの場合の法律上の父子関係の形成については,規定を置いていない。本件の請求は,父が死亡した場合の規定の準用ないし類推適用により子から認知の請求がされたものである。
 3 生殖補助医療が着実に広まってきたことに伴って,生殖補助技術を利用して懐胎し,出生した子が増加してきており,これを受けて,これらの子の法律上の親子関係,特に父子関係については,現行法制の解釈として一定の要件の下において,父子関係が認められてきている。しかし,これまで父子関係が認められてきたのは,いずれも,懐胎の時点において,血縁上の父が生存している場合のことであって,本件のように懐胎の時点において血縁上の父が死亡している場合のものではない。
 本件のように精子提供者が死亡した後に,その者の精子を利用して人工生殖により懐胎させることの許否自体について,医学界においても議論のあるところであり,意見は一致していない。ことは人の出生という生命倫理上の高度な問題であり,また,これについての国民一般の意識が奈辺にあるかについても,深い洞察が必要である。
 4 厚生科学審議会生殖補助医療部会においては,生殖補助医療を適正に実施するための制度の整備に関し,医学(産婦人科),看護学,生命倫理学,法学の専門家からなる「専門委員会」の報告について,小児科,精神科,カウンセリング,児童・社会福祉の専門家や医療関係者,不妊患者の団体関係者,その他学識経験者も委員として加わり,より幅広い立場から検討が行われ,平成15年4月28日に「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」を公表した。この報告書においては,「生まれてくる子の福祉を優先する,人を専ら生殖の手段として扱ってはならない,安全性に十分配慮する,優生思想を排除する,商業主義を排除する,人間の尊厳を守る」との基本的な考え方に立って検討が行われた。その結果,精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる者の条件,精子・卵子・胚の提供を行うことができる者の条件,提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施の条件について報告が行われた。その中で,提供者が死亡した場合の提供された精子の取扱いについては,提供者の死亡が確認されたときには,提供された精子は廃棄する旨を提言し,その理由として,提供者の死亡後に当該精子を使用することは,既に死亡している者の精子により子どもが生まれることになり,倫理上大きな問題であること,提供者が死亡した場合は,その後当該提供の意思を撤回することが不可能になるため,提供者の意思を確認することができないこと,生まれた子にとっても,遺伝上の親である提供者が初めから存在しないことになり,子の福祉という観点からも問題であること,が挙げられている。
 また,法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会が平成15年7月15日に公表した「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する要綱中間試案」においては,夫の死後に凍結精子を用いるなどして生殖補助医療が行われ,子が出生した場合については,このような生殖補助医療をどのように規制するかという医療法制の在り方を踏まえ,子の福祉,父母の意思への配慮といった観点から慎重な検討が必要になるところ,医療法制の考え方が不明確なまま,親子法制に関して独自の規律を定めることは適当ではないと考えられたため,この問題については更なる検討は行わないこととしたとされている。
 以上のとおり,死後懐胎子については,医療法制の面でも,親子法制の面でも,様々な検討が行われ,意見が出されているが,法律上の手当てはされていない現状にある。
 5 このような中で,ことの当否はさておき,本件のように,死亡した夫の冷凍保存精子を用いた懐胎が行われ,それにより出生した子と精子提供者との間の父子関係をどのように考えるべきかという問題が発生しているのである。
 この場合に生まれてきた子の福祉を最重点に考えるべきことには異論はなかろう。そこで,死亡した父と死後懐胎子との間に法律上の父子関係を形成することにより,現行法上子がどのような利益を受けるか,関係者との間にいかなる法律関係が生ずるのかを考えると,法律上の父と子との間において発生する法律関係のうち重要かつ基本的なものは,親権,扶養,相続という関係であるが,現行法制の下においては,認知請求を認めたとしても,死亡した父と死後懐胎子との間には,法廷意見のとおり,親権,扶養,相続といった法律上の父と子の間に生ずる基本的な法律関係が生ずる余地はなく,父の親族との関係で親族関係が生じ,その結果これらの者との間に扶養の権利義務が発生することがあり得るにすぎず,認知を認めることによる子の利益はそれほど大きなものではなく,現行法制とのかい離が著しい法律関係になることを容認してまで父子関係を形成する必要は乏しいといわざるを得ない。もっとも,親権や扶養の関係は,自然懐胎の場合の死後認知においても死亡した父との間にそのような関係を生ずる余地がない点では同様であるが,それは,懐胎の時点においては親権や扶養の関係が生ずることが予定されていたところ,その後父が死亡したという偶然の事態の発生によるものであって,懐胎の当初からそのような関係が生ずる余地がないという死後懐胎の場合とは趣を異にするものである。
 たしかに,死後懐胎子には,その出生について何らの責任はなく,自然懐胎子と同様に個人として尊重されるべき権利を有していることは疑いがなく,法の不備を理由として不利益を与えることがあってはならないことはいうまでもないのであって,この点をいう被上告人やその法定代理人の心情は理解できるところである。しかしながら,このような子の認知請求を認めることによる子の利益は,上記のようにそれほど大きなものではない一方,これを認めることは,いまだ十分な社会的合意のないまま実施された死後懐胎による出生という既成事実を法的に追認することになるという大きな問題を生じさせることになって,相当ではないといわなければならない。
 この問題の抜本的な解決のためには,医療法制,親子法制の面から多角的な観点にわたる検討に基づく法整備が必要である。すなわち,精子提供者の死亡後に冷凍保存精子を用いた授精を行うことが医療法制上是認されるのか,是認されるとすればどのような条件が満たされる必要があるのかという根源的な問題についての検討が加えられた上,親子法制の面では,医療法制面の検討を前提とした上,どのような要件の下に父子関係を認めるのか,認めるとすればこの父子関係にどのような効果を与えるのが相当であるかについて十分な検討が行われ,これを踏まえた法整備がされることが必要である。子の福祉も,このような法の整備が行われて初めて実現されるというべきである。そして,生殖補助医療の技術の進歩の速度が著しいことにかんがみると,早期の法制度の整備が望まれるのである。

 (裁判長裁判官・中川了滋,裁判官・滝井繁男,裁判官・津野 修,裁判官・今井 功)



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表現の自由(自己実現、自己統治、思想の自由市場)にまつわる問答 憲法学の視点から。

2012-05-27 20:38:52 | シチズンシップ教育
 以下、表現の自由に関する問答集をつくってみました。

 想定として、中央区立A小学校の6年生B君と、同校社会科C先生の会話です。

C先生:憲法21条を読んでみてください。

B君:
第21条  集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2項  検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

 憲法21条の表現の自由には、どんな大切な価値が含まれているのですか?

C先生:憲法21条で謳われている表現の自由は、とても大切な条文です。
    そして、その自由には、3つの価値を含んでいます。

    自己実現、自己統治、思想の自由市場の3つです。

B君:それぞれ、どんな内容なんですか?

   まず、表現の自由が、自己実現につながるのは、どうしてですか。

C先生:自己実現ですね。
 私たちは、話したり、表現したりすることを通じて、自分自身を成長させることができることができます。

 皆さんも、ひとと話す、コミュニケーションをとるそのやり取りで、毎日成長しています。
 
 時には、批判され反省の念を感じつつ、成長します。難しい言い方では、人格を形成するのです。

 また、自由研究で皆さんも調べものをすると思いますが、いろんな情報を集め、分析することで、難しい問題にぶつかっても、先生に教えてもらうことなく、自分で判断できるようになります。自己決定をすることができるようになるのです。

 皆さんも、漫画家になりたいと思うひともいると思います。小説家になりたいと思うひともいるでしょう。
 クリエイティブな活動をする職業の方は、表現の自由が有るからこそ、それが自分の職業にもなるし、自己実現にも直結しています。

B君:表現の自由は、作家や漫画家、画家、表現活動をされる職業のかたのみを対象にするのですか。

C先生:いいえ。
   B君自身にも、私たち、ひとりひとりにあてはまります。

 次に、自己統治ですが、これは、私たちの社会の大切な仕組みである、民主主義を支えるとても大切な価値です。

 自己実現でも述べましたが、ひとりひとりが、社会に起きている事柄について、情報を集め、分析することで、社会がどうあるべきかについての意見を自己決定することができます。

 話し合いに参加し、議論/討論し、そして、結論を出し、社会がどんな形であったらみんなが幸せになることができるかを決めるのです。
 自分たちの地域のことは、そのような話し合いで解決して行きますが、区市町村、都道府県、国という風に、もっと範囲が大きくなると、政治家という代表者を選び、その代表者が、区市町村議会、都道府県議会、国会でそれぞれ議会を開き、そこで決定します。
 そこに出る政治家を、選挙を通じて選びますが、その時に、ひとり一票持ち、投票によって選ぶことになります。
 皆さんも、20歳になると、ひとり一票の選挙権を持つことができるようになります。
 
 だれを選ぶかは、表現の自由がきちんと守られた社会であるからこそ、正しい情報を得て、政治家を選ぶことができるのです。
 
 政治家を選び、その政治家が、私たちの未来の社会を決めるのですから、その判断材料となる情報は、とても大切であることが分かりますよね。

 表現の自由の中でも、この政治にかかわる情報は、一番手厚い保護を与えて行かねばならないと考えられています。

B君:政治に関する情報や、知的レベルの高い表現活動にだけ手厚い保護を与えられるってことですか。

C先生:いいえ。
 そうではありません。原則として、あらゆる情報を保護することが求められるし、国が表現内容に対する規制は、原則してはなりません。
 よい情報か、悪い情報かは、国民自身が決めればよいのです。

 このことは、三つ目の思想の自由市場とも関係することです。

 表現の自由が認められていれば、社会の中で、よい考え方、意見が残り、悪い考え方、意見は、取捨選択されていきます。
 古い考え方は、新しいよい考え方に更新されて行きます。


B君:思想の自由市場ということは、私たちは小学校で、いろんな意見、考え方があることを教わっているのですか?

C先生:とても大切な質問ですね。
 小学校では、いろんなことが、基本的には、「答えがひとつ」として、教わっています。

 一方、社会には、いろんな意見、考え方があって、今述べている思想の自由市場で、どれが本当によい意見、考え方であるか、見え隠れすることでしょう。
 それらを皆さんが、小中学校で学んできた知識をもとに、自分がよいと思う意見や考え方を持てばよいのです。

 小学校で使われる教科書は、教科書検定を通過したものの中で、教育委員会で選ばれたものを使用しています。
 ある意味、ひとつの正しさを国が決める仕組みになっています。

 本来ならあらゆる考え方を書けばよいのですが、そうすれば、教科書はものすごく分厚いものになることでしょう。
 限られた時間内で教えきれるように、分量を減らさねばなりません。
 高校、大学で入試がありますから、そのための基準となる知識は統一する必要もあります。

 皆さんの脳は、素直に、いろんなことを吸収する能力が有ります。
 素直に吸収されるからこそ、逆に、私たち教える側でも慎重には慎重を期さなくてはならないと思っています。

 大学等高等教育では、教わる側で、教わる先生を選択できますが、皆さんには、そのような選択することもできません。
 なおさら、教わる内容、指導法は、一定水準以上をどこでも確保されるように慎重を期さねばならないところです。


B君:早く、大きくなって、いろんなことをもっと学びたいな。

C先生:そうだね。
 大きくなると、いろんな考え方があることが分かって、もっともっと学ぶことが楽しくなるよ。
 そして、そこでは、憲法23条(学問の自由)「学問の自由は、これを保障する。」が、皆さんが学ぶこと、自由な研究活動を保障してくれます。

 がんばってくださいね。
 
以上


<補足>

表現の自由、知る自由を最高裁では、どう判事しているか。

*****最高裁判例より******
損害賠償請求事件

【事件番号】 最高裁判所大法廷判決/昭和52年(オ)第927号
【判決日付】 昭和58年6月22日


およそ各人が、自由に、さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成・発展させ、社会生活の中にこれを反映させていくうえにおいて欠くことのできないものであり、また、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも、必要なところである。それゆえ、これらの意見、知識、情報の伝達の媒体である新聞紙、図書等の閲読の自由が憲法上保障されるべきことは、思想及び良心の自由の不可侵を定めた憲法一九条の規定や、表現の自由を保障した憲法二一条の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところであり、また、すべて国民は個人として尊重される旨を定めた憲法一三条の規定の趣旨に沿うゆえんでもあると考えられる。


********************************
メモ採取不許可国家賠償請求事件

【事件番号】 最高裁判所大法廷判決/昭和63年(オ)第436号
【判決日付】 平成元年3月8日
 
憲法二一条一項の規定は、表現の自由を保障している。そうして、各人が自由にさまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成、発展させ、社会生活の中にこれを反映させていく上において欠くことのできないものであり、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも必要であつて、このような情報等に接し、これを摂取する自由は、右規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところである(最高裁昭和五二年(オ)第九二七号同五八年六月二二日大法廷判決・民集三七巻五号七九三頁参照)。市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「人権規約」という。)一九条二項の規定も、同様の趣旨にほかならない。
 
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