岩清水日記

「あしひきの岩間をつたふ苔水のかすかにわれはすみわたるかも」良寛

今日も真面目な記事です。岡山大空襲の証言。

2008-07-03 13:55:22 | 戦争を語り継ぐ
6月29日レクイエムコンサートに、カソリック教会に行ったことは先日書きました。
その時の話を続けます。コンサート会場(聖堂)に入るときに、販売していた書物を買いました。
催しの時には書籍を買うことが多いですね。後で買う機会はないですから。

『いのち、神からのたまものー戦後60年の戦争・空襲の証言』岡山カソリック教会。
教会員の方が、戦時中を振り返って書かれています。
開演までに少し時間があったので、最初の文章を読んでいました。
岩井里子さんの「岡山大空襲」です。
岩井さんは当時13歳。岡山市の奉還町で空襲に遭われました。
奉還町といえば、私の家から1km程度。すぐ近くです。
岡山駅西口にある商店街です。岩井さんの家は餅屋だったそうです。
空襲の夜のことを要約させていただきます。

両親と兄弟4人の6人家族でした。
この夜は、早島(岡山近郊)の伯母がとまりに来て、7名で寝ていました。
真夜中、階下から「空襲だ!早く起きて」と母の声に飛び起き、
西に向かって、7人で逃げて、西警察署まで来たときのことです。
(私の実家のほうに逃げてこられたことになります=岩清水)

岩井さんは、突然大きなショックを受け、意識不明になります。
爆弾が至近距離に落ちたのです。
暫くして、岩井さんは意識が回復します。
体の痛みを感じて上半身を起こしてみると、
辺りの景色が一変し、住宅は炎上し、車道には何人もの人が倒れていたそうです。

岩井さんは、この修羅場の中、一晩で家族4名を亡くします。
(この時のご家族の様子を細かく書かれておられます)
残った家族は、母親と岩井さんの二人だけになりました。
遺体は各自荼毘に伏すしかなかったので、自宅の焼け跡で、
母親と伯父さんがお棺を焼いたそうです。
岩井さん自身も火傷で大怪我をされました。

この文章を読んで、本当に驚きました。
実家から数百メートルのところで、この悲劇が起こっていたのです。
もちろん、岡山市で1700名も亡くなられたのですから、
このような悲劇が数多くあったのでしょう。
まことに恥ずかしいことですが、今までなにか他人事だったように遠く感じて
いました。

コンサートが始まっても、気持ちは収まりませんでした。
(コンサート内容は後日書きます)
1部が終わり2部が始まりました。
13番目は、近藤和代さんの「岡山空襲証言の朗読」です。
近藤さんが朗読を始めると、先ほど読んでいた岩井里子さんの証言の話でした。
再び、驚いてしまいました。

会場からすすり泣きの声が聞こえます。
前の席に座られた女性も、ハンカチを目に当てておられます。
参加者の心の中が感じられるような静寂の中、近藤さんの朗読は終わりました。

そして近藤さんは再び話し始めました。
「実は、この会場に岩井さんが来られています。どうぞ前にいらして下さい」。

私の前の女性が立ち上がりました。

岩井里子さんでした。


岩井さんは証言のあとがきに以下のように書かれています。

「規定は1200字位と書いてありましたので、かなり凝縮はしましたが、
これ以上縮めると筋道がわからなくなりますのでお許しください。
何十年経っても、当時のことをこと細かく思い出して書いていると、
昨日の事の様に生々しく情景が浮かび涙が溢れ、胸苦しく書く手が
震えます。余りにも悲しすぎるので、投稿をやめようとも思いましたが、
数少なくなった証言者の一人として、責任のようなものを感じ重い筆を
とりました」

※写真は焼失を免れた聖母子像



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2 コメント

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コメントありがとうございます。 (岩清水)
2008-07-05 22:56:11
いつもいつもコメントありがとうございます。
コメントを書くことには、時間も手間もかかることと思います。私はなかなか書くことができません。いろいろな方のブログにも書き込まれておられることにいつも感心しています。教員という職業の力なのではと想像させていただいています。私には真似のできることではありません。今後もよろしくお願いいたします。
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臨場感 (bonn1979)
2008-07-03 17:14:37
まるで
私自身が
岡山の会場で
その「岩井さん」が目の前で立ち上がられたように
そうして
会場の啜り泣きが私の耳にも聞こえたような錯覚さえ起きました。

いつもは
岩清水日記を読んで
うーぅん
とうなったままで書き込みはしないのですが
今日は
しばらく情景を反芻して
すぐ書いています。

大げさな文章はなく感情は控えめですが
そして結構長い文章なのですが
一つとして無駄なところはなく
話の最初から
エンデングまで一気に読んでしまいます。

文章力というよりは
ゆるぎない思想と臨場感を伝えようとする姿勢がほとばしり出たような記事でした。

こういう日は
試験問題のコメントや
文献の紹介が似合う自分のブログとの
違いをいまさらながら感じてしまいます。

富山に住む叔母が
私が子どものころに戦争の時のことを聞くと
「嫌なことだから聞かないで」
といっていたことを急に思い出しました。
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