温根湯温泉に泊まって今日は、道の駅おんね湯温泉とそこに昨年リニューアルされた「山の水族館」を訪ねました。
事前に知人を介して現地のご案内を頼んでいて、道の駅「おんねゆ温泉」の管理運営のマネージャーをされている菅原さんと水族館の飼育員の山内さんが案内をしてくれました。
山の水族館は、元々淡水魚の魚を展示する水族館として現在の敷地の奥に昭和53年から設置されていたものですが、年々利用者が減少したことから平成24年にリニューアルを行い、今の土地に新しく建てられたものです。
プロデュースを水族館プロデューサーの中村元(なかむら・はじめ)氏にダメ元でお願いに行ったところ、低予算にもかかわらず快諾していただけた、とのことですが、これがこの水族館の運命を大きく変えた第一歩でした。
中村さんは、「水塊(すいかい)」という単語にこだわっていて、これは水の存在感や水中感など、魚という対象物だけではなく水そのものとの一体感の中で見せることを非常に重要に考えているのだそう。
また菅原マネージャーは、「中村さんは、施設のコンセプトに重要なアドバイスをしてくれましたが、それをまた中央のメディアに伝えるのも上手で、実に多くのテレビや新聞でも取り上げていただけました」
さらに、「利用者を見ても、普通の水族館ならファミリー、それも子供が中心の利用が多いところを、この施設は大人の利用が8割を占めていて、またリピーターも多いのです。それは大人が水に癒されているからじゃないか、と私は思っています」と述べられます。
こちらでは年間パスポートを千円で販売していますが、帯広在住で旭川に実家があるという方が、『帰省の時に利用するために買いました』という利用者からの声があるなど、何回も立ち寄りたいという声が大きいのだそう。
年間パスポートについては、「地域住民も買ってくれていて、それはよそから来るお客さんを案内するのに、自分は最小限の出費で済むからです(笑)。でもそれだけ余所の人がここへ来て『案内してほしい』という声が多いということの現れだと思います」とも。
最近ではこの3月号の「るるぶ」でも記事として大きく取り上げられています。
「国道39号線はかつては主要な道路でしたが、高規格道路が白滝~丸瀬布、さらに足寄から北上するルートにせよ、この39号線を上下に挟む形でできあがります。この39号線沿いには力のある観光地がここ以外にはほとんどないのです」と笑う菅原さんは、「それでもここへ立ち寄ってから網走や知床へ行くという方が多いようで、ありがたいことです」ととりあえずの現状を喜んでいます。
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さて、ここ「山の水族館」を訪ねて直接お話を聞きたかった私の問題意識は、まず「淡水魚は釣りをしないような人にはあまり区別もつかず、どこにそれほど人を呼ぶ面白さがあるのか」という点でした。
「では」ということで、水族館の方に連れて行ってもらい、そこからは飼育員の山内さんのガイドです。
山内さんは、新潟県ご出身で山梨の大学で水生動物について学び、こうした仕事がしたいと思った時にこちらの水族館での募集があってそれが縁でこちらへくることになった、小柄で若くて可愛らしい女性でした。
もう立派な社会人も自分の娘の世代となったのだと感慨深いものがありました。
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さて、まず入り口を入るとすぐに出てくるのが「滝つぼ水槽」です。これは、湾曲して水の真下に入ることができる水槽を作ることで、滝の真下にいるかのように水と魚の様子を見ることができる仕掛けです。
ここではポンプを二台使って、上からの水流と横へという二つの水の流れを作っているそうです。
ここで見られる魚は、大体20センチ前後のヤマベ、アメマス、オショロコマ、ウグイとなっていますが、アメマスという言い方はイワナが大きくなって40センチ以上にもなったものと理解していた私には不思議な感じがしましたが、これで良いのだそうです。
次は「冬に凍る川の水槽」。こちらはさすがにこの季節はもう氷が融けていましたが、厳冬期には10センチほどの氷が張っていたそうです。
もちろん魚たちは餌も与えられず、三か月間じっと耐える日々とのこと。しかし、氷が張った水の中を見られる水槽というのは屋外の気候を利用した画期的なアイディアですね。
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その次はいよいよ巨大イトウの大水槽。こちらでは40頭以上が飼われているそうで、体長が1m以上ある見事なイトウの大群です。
水槽は楕円状になっているのですが、これは平面だと顔を強くぶつけて傷めてしまうことが多かったのが、局面にしたことでそれがなくなったそうで、実に綺麗な顔のイトウが見られます。
山内さんは「サケ科の魚で頭部にまで斑点があるのは唯一イトウだけでそれで区別できます。オスメスの区別は、オスが下あごが出てくるのと、春のこの時期は雌に赤い婚姻色が出てくるのと、胸ビレ下が卵を抱いてふっくらしてくるので分かるようになりますね」と説明してくれました。
この水槽で一番大きいものは1.2m以上あるのだそうで、おそらくイトウを見る上では日本で最大の水槽でしょう。
そのお隣には、「ヤマベのジャンプする姿が見られる水槽」もありました。
川魚の中では最も積極的に遡上するのがヤマベだとのことですが、段上に作られた水槽で、水位を変化させると、今の水位のたまりにいることに危機感を感じた個体がより上のたまりに向かって遡上する性質を見事に展示しています。
水位を最も高くした状態からゆっくりと下げていくと、私たちの見ている前でも一匹が飛び上がってどんどん遡上してゆき、見ている人から拍手を受けていました。
そこから先には世界の淡水魚ということで、熱帯の魚なども展示されていて、子供たちが興味深げに見て回っていました。
そこで私が感じたのは、ここは単にきれいな魚を見せるだけではなく、まさに旭山動物園で成功した"生態展示"だということが分かりました。
川魚が水の流れにいかに全体として調和しているかや、それぞれの魚の生態を水と一体になった形で見せて、ただ魚を見せるだけの水族館とは一線を画したコンセプトとなっていることがよくわかりました。
そんなコンセプトの一つとして、魚展示のところにはほとんど解説板がありません。
解説版を見ることで納得するよりも、感じてもらいたいという気持ちがそこに出ています。
でもどうしても魚の事がもっと知りたい、という方のために入口のところに『解説シート』を入れてある箱がありました。
説明が知りたければ、ここでシートを借りてそれを見ながら魚を見ればよいのです。
「山の水族館」は、子供ではなく、大人のための水族館なのだ、とそう思いました。
道東方面を旅するなら、まず見ておくべき施設の一つに違いありませんぞ。