数年前、東京で単身赴任をしていた時に、週末のたびに都内の神社仏閣を自転車で訪ね歩いてみました。
東京は、二百数十年にわたる江戸時代から明治、大正、昭和という時代がモザイク状に登場するので、どの時代を見ているのかを考えながら都内を巡るのは実に興味深いまち巡り。
そんな中、都内に五色不動というのがあると知って、全部を見てみようと一つ一つつぶして歩いた時期がありました。
五色不動とは、陰陽五行思想の五行にそれぞれ色が配置されていることから、白・黒・赤・青・黄というそれぞれの色にまつわる名称や伝説を持つ不動尊の総称のこと。
実際には色の前に「目」がついた目白不動、目黒不動、目赤不動、目青不動、目黄不動という五つのお不動さんで、目黄不動だけは二つの不動がそうだとされています。
これらの中で一番有名なのは東京二十三区の名前にもなっている目黒不動でしょうし、また故田中角栄氏が居を構えていた目白も地名として知られていることでしょう。
さて、この目白不動を訪ねてその後で近くの神社を見て回っていると、同じように境内を見学しているおじさんがいて、ちょっとした会話になりました。
【目白不動】
山手線で高田馬場と目白とどちらの駅が近いのでしょうか、と訊いてみたのです。
そのことがきっかけで、世間話になり今日のここにいるわけを語り合いました。
すると、「私は実はガンでしてね。もうあまり余命もないかと思って、目についた場所をスケッチして歩いているんです」とそのおじさんは語ってくれました。
「あなたはどうしてこちらへ?」
「私は東京というマチの正体を知りたくて、都内の曰くのある神社仏閣を巡って見ているんです。富士塚なんかも探しては見て歩いています」
そういうとそのおじさんは、「ああ、それはいい。いいことです。あなたはまだ若いから是非お続けなさい!一生懸命に見続けると必ず眼力が上がりますから」
おじさんは自分よりも若いものに向かって何気なく言ったのだと思いますが、言われた方は自分があてどもなくやっていることに思わぬ応援をもらったような気がしました。
だんだんいい歳になってきたら、若い者の足りないものやできないことを指摘して厳しいアドバイスをするよりも、ただその心根を褒めてあげるだけで良いのかもしれません。
その先に何があろうとも、効率的に正解にたどりつかなくても、それをやろうとする気持ちを評価してあげればよいのではないでしょうか。
いよいよ新しい春が来て、職場にも新人が顔を出すことでしょう。
厳しい指導も良いけれど、おおらかな気持ちで温かく見守ってあげることも大切。
そんなことを思う春の一日でした。