札幌サイクルラボ主催の自転車セミナーが開催されました。
タイトルは「観光都市”京都”におけるサイクルツーリズムから学ぶ」として副題は「観光都市における自転車観光のあり方と新たな可能性について」としています。
講師は有限会社京都サイクリングツアープロジェクト(KCTP)代表取締役の多賀一雄さんで、観光都市"京都"で、先進的なサイクルツーリズムを進めておられます。
多賀さんは、「"サイクルツーリズム"と言われるが、私は"自転車観光"と言っています」とのこと。
観光というからには四つの定義があって、
①観光アクティビティーという意識を持つこと
②旅行業界に取り扱われる商品であるべきで、単なるレンタサイクルではだめ
③地元経済の活性を促す手段であるべき
④ハードは官、ソフトは民という組み合わせで進めるべき
ということに留意して行っているそうです。やはり単なる地域振興とは違って、ビジネスとして成立するところにもっていかなくては発展性はないということのようです。
「自転車観光の種類」で言うと、大きく分けて①サイクルイベント、②レンタサイクル、③サイクリングツアーという三つの形がありますが、そこは「地域特性に合った形態を選択すべきだ」と言います。
多賀さんのお話は自らが実践して苦労した中で得てきたノウハウなので、空理空論がありません。やってみて失敗したり、法律の壁にぶち当たったり、そこで鉄道会社など様々な方たちに助けられたり、と苦労の連続です。
レンタサイクル事業を始めた最初の時期は借りる客が実に少なかったのが、JR西日本とJR東海の協力を得て、駅構内に自転車のディスプレイを置かせてもらうことができ、それから認知されるようになって客足が伸びたのだそう。
そうした苦労を重ねて、今はレンタサイクルと、ガイド付きサイクリングツアーに特化したビジネスを展開しています。
レンタサイクル事業では、やってはいけないことというノウハウがあって、それは、①無料レンタサイクル
②リサイクル自転車の利用
③汚い自転車の貸し出し
④整備不足
⑤貸し出し場所の告知不足
⑥簡易マップの無料提供
⑦自動貸し出し
…ということなどなんだそう。いずれもレンタサイクルの評判を落とすし、利用者の利便に応えられていないので、これらを改善の方向に向けるべきだと。
そしてもう一つのガイド付きサイクリングツアーには、三つの型があるそう。
(1)スポーツ型、(2)郊外散策型、(3)まちなか散策型というもので、多賀さんのKTCPでは、(3)のまちなか散策型がほとんどだそうで、しかもお客は外国人が非常に多いのだと。
「インバウンドには受けが良すぎるくらいで、今のガイドの数ではほぼ3倍から4倍の需要を取りこぼしていると思います」とのこと。やはりしっかりとしたスキルを持ったガイドを用意できるかどうかが成否を分ける大きな要因です。
どういう人がガイドをしているのか、ということに質問が及んだ時に答えで驚いたのは、「一応約二十名の方にガイドとして登録してもらっているが、レギュラーでガイド専門は7~8名。後は週末だけとか不定期のガイドさん。ガイドの年収は400万円ほどです」ということだそうで、少ないかな、と思いきや、なんとこの約20名のガイドうち17名は女性で、しかも平均年齢が50歳なんだそう。
「時速十数キロで走るのは子育てをした経験のある女性に限る。ご主人がいて時間のある主婦の方は格好のガイド候補」と多賀さんはおっしゃいます。
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自転車のガイドツアーは顧客へのサービスであり、旅先の印象は会った人で決まります。そういうスタッフをしっかりと鍛えることや、事故などへのリスク管理としての保険対応、さらに自転車観光に特化したマップなども必要です。
しかし多賀さんが配ってくれた京都の観光マップには、モデルコースのような線が全くひかれていません。
このことを多賀さんは「何か決まりきったコースを押し付けるというのはどうでしょう。旅は道に迷ったりしたときに印象的な路地を見つけたり、そこでの出会いにお金を払ったりする、そんなハプニングこそ旅のだいご味。だから決まりきった道を進めることはない」のだといいます。
旅を、利用者目線で考えて、そのためにガイドはどういうスキルを持っていなくてはならないか、それをどうやってガイドに伝えてトレーニングするか…、などなど、細かいノウハウをずっとためてきているのが、多賀さんのKCTPです。
非常に勉強になりましたが、多賀さんの悩みは「自転車専用レーンや駐輪場が少ないこと」だそう。こればかりは官である行政がしっかりと頑張ってくれなくては解決ができません。
官と民のバランスを取りながら、自転車は都市観光のコンテンツとして都市経営に貢献する。だから行政もサポートする意味がある、ということを強く感じました。
「札幌での自転車ツアーなんて、札幌ほどの都市としての魅力があればポテンシャルの高さは言うまでもありません」と多賀さんは札幌をべたほめ。
札幌の自転車観光の可能性に向かって、これからも挑戦が続きます。