星のひとかけ

文学、音楽、アート、、etc.
好きなもののこと すこしずつ…

どんぐりひとつ。

2006-09-28 | 文学にまつわるあれこれ(漱石と猫の篭)
9月も残り少なくなり、今年も残り3ヶ月。。


 ***

前に、夏目漱石のお弟子だった、物理学者の寺田寅彦さんの随筆から、「蓄音機」について書きました(>>)。
先日、、べつの随筆集を買ったので、きょうはそれを読んだりしていました。
(寺田寅彦さんはこんな方。ウィキペディア(Wikipedia)>>

寺田さんは、かなり早く(たぶん大学院の頃)奥さんをもらったのですが、
本の冒頭の「どんぐり」という随筆が、、突然、吐血した奥さんの描写から始まったので少し胸を突かれました。
その奥さんは年が明けてようやく数えの19。そして初産を控えた身。。
病床で歳を越して、、2月。お医者の許可が下りたから、と、寺田さんは奥さんを植物園に連れて行きます。出かける間際になって髪を気にして寺田さんを待たせる奥さん、、待ちあぐねて先に出て行ってしまう旦那さん、、ちっとも来ないので業を煮やして戻ってみれば、あんまりだと泣いている奥さん、、。そんな記述のひとつひとつが、淡々としているのに優しくて。。

植物園で、、奥さんは足を止めて、どんぐりを拾い始めます。
自分の「ハンケチにいっぱい拾って包んでだいじそうに縛っているから、もうよすかと思うと、今度は『あなたのハンケチも貸してちょうだい」と言う」・・・(略)

「どんぐりを拾って喜んだ妻も今はない。お墓の土には苔の花がなんべんか咲いた」・・・

、、、もうこのあたりで、泪で本のページが見えません、、お恥ずかしいことに。。
そして、このあと、寺田さんの筆は、忘れ形見の六つになる子と、この同じ植物園を訪れる描写につづきます。

今年の夏、、、自分もH大の植物園を歩いたなあ、、、と考えつつ、、ふと思い出して、夏のバッグの内ポケットを探ったら、、そのとき拾ったどんぐりがひとつ、、入ってました(笑)、、忘れてた。

、、、寺田さんの随筆。 こんなせつない話ばかりとは違うんですよ。Wikipediaにもちらと書かれていましたが、「金平糖の角(つの)の謎」のお話とか、、科学者ならではの着眼点と、優しい眼差し、、。随筆の妙では、私は漱石以上の文才と思うのです。

寺田寅彦随筆集 (第1巻)/岩波文庫