星のひとかけ

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12月は雨とともに…:「クイックン・ツリーの夜」クレア・キーガン『青い野を歩く』から

2021-12-01 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)
 
 十二月は雨とともに訪れた。マーガレットにとって、こんな雨は初めてだった。空から落ちてくるのではなく、風に吹かれて斜めに降りつけた。窓には塩がつき、空気には海草のにおいが混じった。
       (「クイックン・ツリーの夜」クレア・キーガン著 『青い野を歩く』所収)


12月になりました。
昨夜から台風のような風雨が通り抜けていきました。 いまは真っ青な空の下、色づいた樹木がかがやいています。 ちょうど昨日読み終えた本のなかに 今朝の風雨のような情景をみつけたので上に挙げてみました。

アイルランドの現代作家、 68年生まれのクレア・キーガンの短篇集です。 アイルランドというとダブリンくらいしか私は街の名まえを知らないですが、 この本で描かれるのはダブリンのある東部の都会ではなく、アイルランド西部の荒涼とした海辺の村で生きるひとびとの物語。

吹きすさぶ風、 荒れる海、 泥炭のかよわい炎で暖をとる百年前から変わらないような暮らし。。 厳しい自然と折り合って生きる日々がひとを寡黙に、かたくなにするかのように、主人公たちは言えない想いや、伝えられなかった悔いや、踏み出せない迷いを抱えながら沈黙している。 でも生きている。 生きていく…


言葉にならない想いを抱えながら、、 でも 生きていく…  そこにうつくしさがある。。

高い樹木も生えない、 暖炉に燃やす薪にも事欠く曠野。 灰色の空と野と海のモノトーンの情景がみえる。 愛したひとと神の道のはざまで神父が祈っている、、。 なんだか、 読んでいるとホージアの音楽が聞こえてきそうな物語たち。。 Take Me to Church とか。 Shrike とか。。 アイルランドゆえの生きざま。。 苦しくて やるせなくて しかし純粋な、、。



『青い野を歩く』クレア・キーガン著 岩本正恵 訳 白水社 2009年


 ***

 「生まれた地方が恋しくないかい」
 「木が恋しいわ。ナナカマドが恋しい」
 生命を与えるクイックン・ツリーが、ナナカマドが、なによりも恋しかった。
 「そいつはもっともだ。ナナカマドの火にかなうものはないからな」

         (「クイックン・ツリーの夜」)


東部から移り住んだ女性の物語に出てくるナナカマドについての会話。。 わたしもナナカマドが恋しい。。 都会にもたくさんの樹木があって、都会の12月はおだやかに晴れ渡って、ようやくの紅葉が初冬の陽射しにやさしく照らされています。 とても美しい風景だけれど、 ナナカマドの赤い実と真っ赤に色づいた葉っぱはやはり恋しい。

でもこの本を読むまで、 ナナカマドが「魔法の力と守る力」を持っているというのは知りませんでした。 「霊樹」「聖樹」とも呼ばれているそうで、、 「クイックン・ツリー」の quicken というのは、 赤ちゃんがお腹のなかで動き始める 「胎動」の意味もあるとのこと。 だから 「生命を与える木」。

ナナカマドの実は真っ赤ですが、 春に咲く花は白い淡雪のようなかわいい花です。 守る霊力を持っているからか、花言葉は「あなたを守る」だそうです。 赤い実にも意味ってあるのかな、、 実言葉 っていうのはあるのかしら…

 ***

 
ナナカマドの魔法の力を借りたい今…
11月はすばらしい月になりました。 2回のコンサートホール、 それからお知り合いのJazzコンサートにも行けました。 吉井和哉さんのライヴにも。(ツアーはまだ始まったばかりだからこのお話はまたいずれ…)

外出機会が急に増えて お友だちから 体調だいじょうぶ?と心配されてしまって、、 でも、だいじょうぶ。。 気掛かりだった感染者もずっと増えずにいてくれて、、 このまま穏やかな日々が続いてくれることを願いましたが、、 ここへ来て突然 オミクロン株、って。。

、、こんなふうに ようやく沈静化したと思ったら新しい変異種があらわれて、、 ふたたび世界中が息をひそめて、 また次のワクチンが行き渡るまで耐える。。 そういう繰り返しになるのでしょうか、、。 世界のひとびとが自由に行き来するグローバルな世の中が なんだか遠い幻のように懐かしく感じられてしまいます。


でも 生きて行かなくちゃ ね、、 まっすぐに 前を向いて。


素敵な12月にしましょう。





先月 Jazzを聴いたホールの近く、、 2年ぶりにみなとみらいに行きました。
  
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