prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「エディット・ピアフ 愛の賛歌」

2007年11月09日 | 映画
歌の場面の処理にずいぶん色々工夫をこらしている。
恋人のボクサーがなぜか突然訪ねてきたので浮き浮きしながら部屋から部屋に動き回るピアフをスティディカムで追っていくと、どの部屋にも使用人や友人が異様にひきつった表情で立ちすくんでいる、というあたりでなんだか不安が次第につのってきて、また元のボクサーがいるはずの部屋に戻ると…、という展開からさらに同じカットで現実にはつながっているはずのないリサイタル会場に出て行って歌う、というところに短めに「愛の賛歌」がかぶさる、という凝った演出で、歌詞がその場面とまた痛烈なコントラストをなしている。

ピアフが一気に売れ出すあたりであえて歌をかぶせないで演奏だけの音楽で通したり、「水に流して」(私は後悔しない)を作曲家がピアノを弾きながら歌う歌だけ聞かせておいてラストで一気にピアフの絶唱を全編の締めくくりとして置くなど、よく考えられた構成。

撮影が「うつくしい人生」で注目した日本人・永田鉄男。
ピアフ役のマリオン・コティヤールは、年齢の変化からピアフらしい脚をふんばった立ち姿から手の動きといった外観から、貧困にあっても成功しても悲惨から逃れられない中でもエゴイズムと純粋さと愛情深さを通す内面の表現まで、まことに見事な演技。

以前、ややこしいが「愛の賛歌 エディット・ピアフの生涯」('74)というピアフの伝記映画があったが、歌は吹き替えだったらしい。当時の技術では古い録音では音質が悪くて使えなかったからだろうが、今だとリミックスできるから本物を使えるようになったのだろう。
74年作ではエンドタイトルで長々と「愛の賛歌」を流したが、ここではしばらく無音でタイトルだけ流れる。本編で十分歌を聞かせているから、余韻を壊さないようにということか。
(☆☆☆★★★)


本ホームページ


エディット・ピアフ~愛の讃歌~@映画生活