prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「モーターサイクル・ダイアリーズ」

2008年02月01日 | 映画
スティーヴン・ソダーバーグ監督、ベニチオ・デル・トロ主演によるゲバラ伝が二部作として製作中だそうだが、ゲバラが今なお人気があるのは、若くして亡くなったのでイノセントなままでいられたからだろう。
虐げられた人々を助けたいというナイーヴな正義感にまっすぐつながっていく若さとイノセンスが良く出ている。
風景と音楽と南米の人々のローカルな魅力も大きい。

出会った人から直接影響を受ける外的な力学のドラマというより、もっぱら流れ去る風景の中に出会いを受け止めた側の内面の変化として一見淡々として、しかし再三現れる喘息の発作の扱いなどかなり計算しながら組み立てられている。

題名になっているモーターサイクルを捨てるプロセスが間接的に貧困層に仕返しされる格好になっているのが面白く、その後自分の足で険しい野山を踏破し船に乗り、それまで知識としてしか知らなかったハンセン病患者たちの村に入っていくにつれ、ゲバラ役のガエル・ガルシア・ベルナルが髭を生やして顔つきが変わっていくのが見もの。
(☆☆☆★★)



「トゥモロー・ワールド」

2008年02月01日 | 映画
どういうわけかピンク・フロイドの「アニマルズ」のジャケットを再現してブタの風船が宙に浮いているシーンがあったり、キング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」、ディープ・パープルやジョン・レノンなどの70年代ロックが使われている。
「THX1138」「ソイレント・グリーン」「オメガマン」(「アイ・アム・レジェンド」と同じ原作)など、70年代にやたらディストピア未来SF映画が流行ったことがあったが、その一本「赤ちゃんよ永遠に」('72)の設定を逆にして展開を同じにしたみたい。つまり人口爆発で産児制限された世界ならぬ子供がなぜか生まれなくなった世界で、しかしただ一人生まれた子供を守っての逃避行という展開は同じ。

違うのは「ブレードランナー」以後の作品だからか、未来世界が白っぽいぴかぴかしたプラスチック製ではなく、じめじめした荒廃した廃墟になっていること。
叛乱を起こした銃を手にした群衆が「アッラー・アクバル」と繰り返し唱えているのは、ヨーロッパがイスラムと軋轢を起こしている現在の状況を反映してはいるのだろうけれど、描き方としてはなんだかひっかかる。
また、子供を出したら展開が決まってしまうというのも仕方ないけれど、実際には世界のあちこちで子供がばたばた殺されてもいるわけで、なんかご都合主義的。

すごいのは廃墟を縫って人物に不即不離にぴたりとくっついていく長まわしのカメラ(CG技術で複数の素材をまとめてそう見せているという-ウィキペディア)で、その間着弾はあるは爆発はあるわ、どれくらい撮影に手がかかったかと思わせる。
(☆☆☆★)