フランコ独裁政権下のスペインで内戦について描く時、子供の目を通すいう抜け道を使って暗示的に描くというのは「ミツバチのささやき」からある手だけれど、民主政権になってから作られたこの映画に政治的な方便というだけではなくて、子供の目を通すことによる叙情性と現実にぶつかる厳しさとを表現にもたらしているようでもある。
蝶の舌という題は「今は隠れて見えないけど、蜜を吸う時に巻いていた舌を伸ばす」と老教師の教えからとられたもので、全体主義に社会が傾いていく時に一般人こそが空気に流されて協力するのをまざまざと描く一方で、今に本心を明かすという意思表示でもあるわけで、うがった言い方するならこの映画自体が言えなかったことを言う「蝶の舌」ということになるだろう。
スペインの田舎の自然美、一人一人の人々のたたずまいの鄙びた、時に猥雑な風情が魅力的。それだけにラストは怖い。
(☆☆☆★★)