二度のアカデミー賞に輝く撮影監督として有名なハスケル・ウェクスラーを、その二番目の妻との間の息子のマーク・ウェクスラーが監督・撮影して製作したドキュメンタリー。先日見たハスケルの監督作「アメリカを斬る」つながりで見ることにした。
ハスケルはもともとドキュメンタリーの撮影・演出からキャリアを始めた人だから、ドキュメンタリーの作り手がドキュメンタリーの対象になるという逆転がおもしろく、父子が互いにカメラを向け合って撮り合うシーンもある。さらに息子が父親に顔が似ているのだから、何だか時間を越えて鏡を覗いているような不思議な感じになる。
もう一つ重要なモチーフとして、父親、特に有名だったり強かったりする父親と息子の葛藤がある。
息子が向けるカメラに向かって父親はまあ遠慮会釈なく言いたい放題のことを言いまくる。夕陽が当たるように移動するよう頼むと「おまえはわしを撮るのか夕陽を撮るのか」と叱りつけるといった調子。
どうやら息子に対してだけでなく、仕事仲間に対してもそういう態度をとってきたらしく、「私が撮影してきたすべての映画は私が監督すべきだった」などというのだから、監督に煙たがられるのもムリはない。
「カッコーの巣の上で」の撮影途中で解任されたのを「マスターズ・オブ・ライト」でもこの映画でもなぜなのか理解できないと語ってるが、監督のミロス・フォアマンはハスケルが俳優たちに監督批判を吹き込むので現場が混乱してかなわないから辞めてもらったのだと言う。
どうかすると監督をふっ飛ばしてしまうような我の強いカメラマンというと、日本でいうなら木村大作、あるいは左派ということも含めて宮嶋義勇といったところか。
ハスケルの父親は電子機器メーカーの社長として財をなした人だから裕福な育ちだったわけだが息子はそれに反発して左派に走り、さらにその息子のマークは大統領たちの記録映像を撮るような体制寄りのスタンスをとっているという具合に代が変わるごとに父親に反発して右左に振れるのがおもしろい。
マイケル・ダグラスやジェーン・フォンダといった強力な父親を持ちながらそれを乗り越えて自分も成功した人のインタビューが収録されているのだが、映像特典として独立したインタビューとして見るとかなり退屈なのに、映画にはめこまれると、監督マークと父親ハスケルのキャッチボールのようにやりとりする関係とさらにキャッチボールするようでおもしろく見える。
ただ、強力な父親に押しつぶされた人間は当然インタビューには出てこない。葛藤を見せるのは監督のマーク自身だけだが、まだ十分にさらけ出しているようには思えない。ダークサイドを見せるにはドキュメンタリーという形式を離れる必要があるのかもしれないが。
認知症で施設に収容されている監督の母親でハスケルの元妻を訪れる場面はふつうに泣かせるが、その直後にハスケルが自分が撮られていたのを改めて気づかせる。現実を即映画にしてしまうような習性が身についているようだ。