オープニングで語り手である錦戸亮と息子の現在の姿を見せるので、どういう顛末を迎えるかはすぐわかってしまう。その上で描写の細かい映画的な工夫を楽しむことになる。
脚が不自由な北川景子をいわゆるお姫さまだっこして運ぶのが自然にすでにロマンスのムードを漂わせる。
錦戸が元カノともめて別れるバーのカウンターという場所を生かしてガラス瓶でひっぱたくというまるで西部劇みたいな簡潔なアクションで表現し、さらにその後に他の女性と同じカウンターに並ぶところで、その位置を左右逆にしていることで女性が後釜に見えないように留意している。
二人が遊園地に行ってメリーゴーラウンドの乗ろうとすると、障碍者だからと慇懃無礼に断られ、ちょっと障碍者に対する社会の無理解を訴える方向に傾くのかと思わせて、追いかけてきた若い係員の好意で乗せてもらう、時間が経って夜になっているから明かりがついて昼間すんなり乗るよりぐっとロマンチックなムードになっていて、しかも木馬の上下に合わせてキスする唇がくっついたり離れたりするというラブシーンに至る運びがすばらしい。
ヒロインは記憶障害も持っているのだが、映画自体がときどき描写をふっととばして後で思い出すような構造をとる。いったん買い忘れたユニフォームを買う場面そのものは出さず、二人がお揃いで着ている写真を携帯で見るシーンにつなぎ、さらにずっと後にその写真を撮る場面が入ってくるといった調子。
ヒロインのリハビリの経過は直接には描かれず、母親が見せるDVDの内容として現在の姿からは想像しがたいような弱りきった姿を見せる。この映像は初めのうちは母親が撮っているわけだが、途中で転倒しているヒロインを助けるところは誰が撮っているのか、という不在の撮影者というモチーフが、思い出すことがひとつの生命の発露となるモチーフとともに先の携帯の写真とも、さらに映画全体の構造にもつながってくる。
ヒロインの忘れ形見になった息子が、ヒロインと同じような赤いマフラーをしているといった芸の細かさ。
國村隼と角替和枝が住む実家に置いてあるテレビがブラウン管でVHSレコーダーをまだ使っているのが、この親たちらしい。
(☆☆☆★★)
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抱きしめたい-真実の物語-@ぴあ映画生活
映画『抱きしめたい -真実の物語-』 - シネマトゥデイ