冒頭、仲代達矢が乙羽信子の首を締めていろところから始まり、いったん自宅に戻ったところを死体を見つけた乙羽の家の女中に電話で呼び出されて戻り警察の尋問を受けていると、近くをうろついていた前科持ち(井川比佐志)が緊急逮捕されるというタイトル前の語り口が鮮やか。またこの語り口そのものにトリックが仕掛けられているあたり得意技を繰り出している感。
そこから仲代の良心の葛藤と、それを衝く小林桂樹の検事との対決に絞られていくわけだが、小林が痔の手術を控えてなんだかんだ言って引き延ばしている人間味(トイレに入っているところから登場する検事というのも珍しい)と、問い詰めていくあたりの圧のかけかたの硬軟両面を見せ、仲代がひどくびくびくしていて言わなくていいことを言いやらなくていいことをしてしまうあたりの錯乱ぶりがお話の論理的な構成だけでないおもしろさを見せる。
仲代が弁護士ということで司法制度の権威を損なうことがあってはいけないと小林の上司の小沢栄太郎が腐心するあたりは今の検察批判にも通じるだろう。
井川比佐志が冤罪をかけられる男の役をやった「霧の旗」(1965)を見て起用したのかと思うような役だが、こちらの方が先(1963)でした。
村井博の白黒撮影がところによっては「第三の男」かと思うような夜の街のショットなどタイトルにふさわしい冴えを見せる。
白と黒@ぴあ映画生活
本ホームページ